第11話 欠陥奴隷は隠れ家に招かれる
俺とサリアは夜の貧民街を彷徨う。
すぐに兵士の喧騒は聞こえなくなった。
俺達のことを見失ったのだろう。
或いはサリアに気付いて、わざと追跡をやめたのかもしれない。
そうして辿り着いたのは、黒一色の館だった。
貧民街の端で、誰も寄り付かないような区画である。
枯れた木々に覆われており、この近辺だけが妙に肌寒い。
微かな異臭もする。
死体ではない。
何の臭いか分からなかった。
甘ったるい腐った果実のような臭いだった。
サリアは俺の手を離すと、踊るように回って館の玄関へ向かう。
「ここまで来れば大丈夫ね。追っ手はいないわ」
足を止めた俺はその場で呼吸を整える。
体力が尽きかけていたのだ。
ここに到着するまでにそれなりの時間がかかっていた。
サリアは早歩きに近い速度で移動して、時には魔術で強引に加速していた。
俺はそれについていくのに必死だった。
振り向いたサリアは俺を見て苦笑する。
「もう疲れているのね。運動不足じゃない?」
「レベルが、低いんだ……仕方ないだろう」
スキルは多種多様な効果を持ち、個人の強さを大きく左右する。
進化した【死体漁り+】を手に入れた俺は、尚更に重視している。
とは言え、レベルも無視できない要素だった。
高レベルになるほど身体能力が強化されるためだ。
もちろん基礎体力にも直結しており、こうして如実に影響を受けている。
サリアはおそらくかなりのレベルを上げている。
魔術師とは言え、俺より遥かに身体能力が優れているに違いなかった。
実際、彼女は少しも息を切らしていなかった。
魔術行使による疲労も見られない。
「ああ、レベル6だったのよね。すっかり忘れていたわ。だってあなた、そこそこ強いもの」
サリアが思い出したように言う。
あっさりと発言したが、彼女の中だと俺は強いという認識らしい。
自分ではそう思わない。
大量のスキルを手に入れたものの、レベルは低いままだ。
不意打ちでなければ戦闘面も不安が残る。
きっとサリアの評価は冗談のようなものだろう。
真に受けて喜ぶものではない。
サリアが館の玄関扉を開けた。
その先には薄暗い室内が広がっていた。
月明かりに照らされるそこは埃だらけである。
遠慮なく踏み込むサリアを見て、俺も慎重についていく。
「ここはどこだ?」
「私の隠れ家の一つよ。ちょっと汚いけど我慢してね」
サリアは手を振りながら館の奥へ進む。
止まる様子はない。
俺の意見はどうでもいいらしい。
少し癪だが、ここまで来て踵を返すわけにもいかない。
舞い散る埃を横切るようにして、俺はサリアの背中を追いかけた。