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6.メリーさんと肝試し

メリーさん「SEESON2なの!」

作者「それを言うならSEASON2ね。」

メリーさん「やったぁ〜!! ついに始まるのね!」

作者「違う! そうじゃないよ。うわぁ、嵌められたぁ〜」

 といわけで、もうすぐ夏である。梅雨が明けたら夏である。


 蒸し暑い夜を乗り切るため、蛇男は朝顔の鉢と涼やかな音色の風鈴、そしてうちわを用意していた。


 うちわには「ニンフちゃん❤︎」「こっち見て❤︎」と書かれている……。


 蛇男よ……。



 ゴホン、ゴホン。そう、夏といえばライブである。輝く太陽の下かわいいアイドルを熱く応援する。これぞ夏の正しい過ごし方であると心の中で力説する蛇男だったが、突如、冷や水が浴びせかけられた。涼しくなっていいじゃないか。そう、メリーさんの登場である。蛇男の私室の扉を勢いよく開け放つと、メリーさんは元気よく叫んだ。



「今から、肝試しするの!!!!!!」


「っ!? ギャァーーーーー!」


「あれ、蛇男さんどうしたの?」



 怪訝そうに尋ねるメリーさんに対して蛇男は涙目である。蛇男はメリーさんの突然の襲来に驚いて、持っていたうちわを破ってしまったのだ。うん、ドンマイ。


 

「まいっか! それよりね、肝試しするから蛇男さんも来るの! 早く早く!」


「よくないです!! イヤですよ。絶対にイヤですからね。」



 蛇男は肝試しへの参加を断固として拒否した。ドアの向こうから狼男やグールにゴブリンやらミイラ男、それからろくろっくび姉さんに鬼火もこちらを覗いていた。グール隊長は「冷やした肝は美味しいぞ。」と言っているし、他のみんなは「いいから早く来い。」と言っている。


 しかし、



 お前らが肝試ししてどうする! ぜったいに驚かす方だろ!!



 蛇男は心の中で最大瞬間風速47m/sのツッコミを放った。もはやハリケ〜〜ンである。



 

 さてさて、肝試しへの参加を断られ、メリーさんは不服そうである。



「いいもん、いいもん。せっかく優勝商品が蛇男さんの好きな今をときめくふんわり系美少女アイドル❤︎ニンフちゃんの売店10 冊限定真夏の写真集だから誘いに来てあげたのにっ! キャンペーン中に売店に来たって、当たりが入ってない方のルーレットしか回させてあげないんだから!」


「是非参加させてください。」



 蛇男はあっさりと陥落した。


 こうして蛇男を加え、一行はさながら百鬼夜行という感じで肝試しの会場へと向かった。ふんわり系美少女アイドル❤︎ニンフちゃんの限定写真集の前では、肝試しに優勝商品があることの疑問など些細なことなのである。




 肝試し会場には、すでに沢山の魔物たちが集まっていて、金魚すくいやラムネの屋台に夢中だ。どちらかというと屋台の方が目当てかもしれない。賑やかな雰囲気に埋もれるように、広場の真ん中には大きな天幕が設営されていた。


 夜よりも黒く闇よりも深い、つまりお祭りの雰囲気をぶち壊すような陰気さを目の前に蛇男はゴクリと喉を鳴らした。決して隣の屋台の焼きそばが美味しそうだと思ったわけではない。


 メリーさんが綿菓子とフランクフルトを交互に器用に食べながら説明してくれる。



「やっぱり綿菓子は羊みたいだからいっとう好きなの! フワッフワで口に入れたら溶けるのがいいよね。でもパチパチシュワシュワする刺激的な綿菓子も捨てがたいの。」


 屋台の親父がわざわざ綿菓子に目鼻となんとも可愛らしいしっぽをつけて羊の形にして渡してくれたので、メリーさんはご満悦だ。「食べるのがもったいないの!」と言いつつ、パクパク頬張っている。



「いやいや、メリーさん。綿菓子の説明じゃなくて、あの天幕の説明でしょう!?」


「そうだったの! あの天幕の中に入ると、肝が冷えるようになっているの。完璧な肝試しだわ!」


 

 メリーさんが目をキラキラさせて答えてくれるが、完璧な肝試しとはいったいなんなのか? そもそも、メリーさんの考える肝試しというのは世間一般に言われているものと同じなのだろうか。しかし、その疑問に答えられるものはここにはいなかった。



 メリーさんは、厳かにくじを取り出した。これで肝試しの順番を決めるのだという。


 さて、不公正なるくじ引きの結果、肝試しに挑戦する順番は、


① 狼男

② 蛇男

③メリーさん


に決まった。なかなかに作為的な結果である。トップバッターにならずに済んだ蛇男は狼男の背中を笑顔で押す。狼男が「押すなよ。押すなよ。」と悲鳴を上げているが、蛇男の手が緩むことはない。


 狼男が天幕の中に消えると、広場に掲げられた巨大な画面が切り替わり、天幕の中の様子が映し出された。メリーさんがドワーフちゃんに合図すると、ドワーフちゃんが合点承知とボタンを押した。


 ポチッとな!


3〜〜〜〜


 狼男は暗闇の中を彷徨っていた。しばらくの間キョロキョロしていたが、周りが徐々に明るくなってくると、いつのまにか自宅前に立っていた。手には鞄も持っていて「仕事帰りだったっけ?」と頭をかく。なんだか思考に靄がかかっているような気がして、落ち着かない。まるで、錯乱の魔法にかかってしまったかのようだ。

 けれども、家の前で突っ立っていても仕方がないので、狼男は中に入ることにした。



「おかえりなさ〜い!」


 出迎えてくれたのはエプロン姿が素敵な狼男の奥さんだった。そういえば、狼男は幼なじみの彼女とついにめでたく結婚し、いまや新婚ほやほやのリア充だった(注:錯乱状態です。)。子供はサッカーチームが作れるくらい欲しいなぁ(注:錯乱状態です。)。


 ギリギリと蛇男の歯軋りする音が聞こえてきたような気がするが、気のせいだろう(注:気のせいではありません。)。狼男は蛇男を思考から追い出すと「ただいまぁ〜」と盛大にデレた。おい、顔が溶けているぞ。


 奥さんはニコニコと近寄ってきて、狼男のキスを匠の技で避けつつ、スーツの上着を預かってハンガーにかけてくれた。


 はらり。


 狼男は幸せに浸っていて、白いひらひらとしたものが落ちたことに気がつかない。

 奥さんが「あらあら」とかがんで拾い上げ、狼男の目の前に白い紙切れを広げた。それは、魔王城下でも屈指の「うっふん❤︎なお店」のレシートだった。


「ひぇッ!」


 肝が冷えるとはこのことだ。


 すると、頭の上からメリーさんの「3点! 残念なの。」という声が聞こえてきた。



 3点ってなんだ? 残念ってなんだ!? と言いたいが、そこで狼男は今まで見ていたのが幻覚だということに気がついた。



3〜〜〜〜



 狼男が猛烈に疲れた顔で天幕から出てくると、メリーさんは「次は蛇男さんの番なの!」と言って天幕の裾を持ち上げた。グール隊長が力強く背中を押してくれる。蛇男が早く終わらせてしまおうと天幕に入ろうとしたその瞬間。


 空からスポットライトが降ってきて、真っ白な花吹雪と共に、一人の少女が夏祭りに現れた。



 今をときめくふんわり系美少女アイドル❤︎ニンフちゃんである!



 ニンフちゃんの登場に気がついた野郎どもが、たちまち野太い歓声をあげる。さすがは今をときめくアイドルである。お付きのマネージャーが「お忍びです。」とか「写真はご遠慮ください。」と言っているが、みんな聞いていない。そもそもお忍びならスポットライトをあてるなと言いたいところだ。


 蛇男はシュタッとニンフちゃんを取り巻く人垣の最前列に飛び込み、どこからともなく「ニンフちゃん❤︎」「こっち見て❤︎」と蛍光ピンクで書かれたうちわを取り出し振っている。

 これにはメリーさんもびっくりである。



「アイドルは、一人の男の人生を狂わせるものなのね。」



 メリーさんはやれやれと首を振る。


 しかし、その後ろで蛇男のことを面白くなさそうに見ている魔物がいた。ドワーフちゃんである。復縁はごめんだが、他の女にうつつを抜かしているのを見るのも嫌と言ったところだろうか。女心とは複雑である。


 ドワーフちゃんは無表情でコントローラーを取り出して何やら操作した。ウイーンという起動音と共に、蛇男の周りの気温が下がった。


 説明しよう! この肝試しの装置は、どこでも好きな場所で「肝が冷える」イベントを起こすことができるのである。なので天幕はあまり意味がない。間違って他の人が入ってこないようにするのといかにもな雰囲気を作るくらいしか役立っていないのだ。


 


3〜〜〜〜



 蛇男は思う。今日もニンフちゃんは可愛い。白いシフォンのワンピースに透明感のある笑顔。この世にこんなに尊い存在があって良いのだろうか。


 蛇男が胸の高鳴りに合わせてうちわを振っていると、ニンフちゃんがうちわに気づいたのか、こちらを見てウインクしてくれた! 世界に自分とニンフちゃんの二人しかいないような錯覚に囚われる(注:錯覚です。)。


 ドッキーンと蛇男の心臓が跳ね上がるのと同時に、一陣の風が吹いた。悪戯な風は、ニンフちゃんの麦わら帽子を連れ去ってしまった(注:錯覚です。)。

 いいところを見せようと、蛇男は宙を舞う麦わら帽子を追ってジャンプ!

 見事着地も決めるとニンフちゃんのもとに麦わら帽子を届けた。戸惑うニンフちゃんの頭にふわりと帽子をかぶせると「礼には及びません」と言ってスマートに決めた(注:錯覚です。)。


 だがしかし、蛇男が麦わら帽子だと思っていたのは、なんとパンツだった。


 蛇男は目を疑った。しかし、何度瞬きしてもパンツはパンツである。今をときめくふんわり系美少女アイドル❤︎ニンフちゃんが、頭から白いパンツ(しかもブリーフ型)を被って、こちらを見上げている。だと? 


 驚きと恐怖のあまり固まってしまったニンフちゃんが叫ぶより早く、蛇男が悲鳴を上げた。



「っ!? ギャァーーーーー!」



 終わった。俺の人生は終わった。誰だよパンツ投げたやつは!? 



 蛇男が泣きながらメリーさん達の元に戻ってくると、メリーさんが首を傾げながら教えてくれた。



「あんなに大きな悲鳴を上げたから、蛇男さんの優勝間違いなしかと思ったけど、1点しかつかなかったの。どうしてかしら?」


「マイクは天幕の中に設置していますから、音が拾えきれなかったんじゃないでしょうか?」


 

 ドワーフちゃんが教えてくれた。あっという間にメリーさんの疑問は解き明かされ、メリーさんが「なーんだ」というと、ドワーフちゃんもニコニコしながら「なーんだって感じですよねぇ」と言った。


 蛇男がその場に崩れ落ちていると、ニンフちゃんのマネージャーさんが小走りに寄ってきて、追い討ちをかけた。


「あんたねぇ! うちのニンフちゃんになんてことしてくれたんだい!? あんた、ニンフちゃんのストーカーだろう。物陰から陰気な顔して覗きやがって! 今後ニンフちゃんのライブは出禁だからね。一生来るなよ。まったく、真正の変態だなっ! おい!」



 マネージャーさんは「出禁だからな」を繰り返しながら去って行った。




「………次は私の番ね!」


 マネージャーさんを見送ると、メリーさんは今目の前で起きたことを完全に無かったことにして、その場を仕切り直した。そして、どさくさに紛れて大量の羊を呼び寄せた。メェメェと羊達がメリーさんを取り囲む。メリーさんは羊達を順番に撫でると宣言した。



「肝試しに一人で出かけるのは怖いの。だから、みんなで行くの!」



 ということだそうです。


 誰も止めることができず、メリーさんwith羊達は一段となって天幕に入って行った。



 さて、ここで問題が起こった。


 心に傷を負った蛇男が倒れ込んだのは肝試しの装置の前だった。そして、目の前にはたくさんのスイッチが並んでいた。

 蛇男の虚な視線がある一つのスイッチの前で止まる。つまみがついていて、回せるようになっている強弱を切り替えられるようになっているタイプのものだ。


 見れば、メモリは99段階中1だった。横には有効範囲と書かれている。


 勝手に触ったらドワーフちゃんに怒られるやつだ。でも、蛇男は自分だけが不幸なことに耐えきれず、「みんな不幸にしてやるぜ!」と突発的につまみを99まで回してしまった。



 肝試しの装置の効果はなんと全世界に及んでしまった。



333333



 天幕の中の闇の中、メリーさんは羊達と夜道を歩いていた。夜空には星が瞬き、ナイチンゲールの声が遠くから聞こえてくる。ドキドキしながらも羊達と共にいつも放牧している丘を目指していると、ふと違和感を覚えた。


 羊飼いの杖もポシェットもちゃんとある。メリーさんは立ち止まって大事なものがきちんとあるべき場所にあるのを確認すると、もう一度歩き始めようとして、気がついた。



 羊が一頭いない!!



 メリーさんは慌ててあたりを見渡した。


 狼に食べられてはいないだろうか?

 蛇にひと飲みにされてはいないだろうか?



 心配でたまらずメリーさんは駆け出した。けれども、少し行ったところで、メェメェと心細そうに鳴く迷子の羊を見つけた。ホッとして迷子の羊に駆け寄り、首に抱きついた。



「ごめんね。私が気をつけていなかったばかりに、怖い思いをさせちゃったね。」


「メェ〜〜!」



 羊は「大丈夫だよ」という気持ちを込めてないた。



「ありがとう。みなのところに帰ろう!」



 そう言って、メリーさんと羊が一歩踏み出した瞬間、突然足元の地面がなくなった。ヒヤリとするが、何も踏ん張るものがない。メリーさんは迷子の羊と共に深い深い穴を落ちて行った。




 


 世界の果てで、魔王がふと立ち止まり、空を睨んだ。



「メリーさんの気配が消えた…?」



 魔王の心に冷たいものが広がった。鎧と兜のせいで見えないが、魔王は眉間にシワを寄せると、魔王城に転移した。


さ〜て、来週のメリーさんは?



「メリーさん、異界を侵略する」

「メリーさん、魚釣りをする」

「メリーさん、黒くてカサカサと動く虫と戦う」


の3本です! お楽しみに。



ってんな訳あるかい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回もとても読みやすく、楽しくメリーさんにジャイアントスイングしてもらいました。 [一言] 本日、私の風上シリーズは文体が悪くネタが下品と評されまして、反省の意味で削除しました。童話や詩に…
[良い点] まさかのシーズン2!楽しみにしてますね!( ノ^ω^)ノ
2020/07/11 10:19 退会済み
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