番外編「メリーさんラジオに出る!」
娯楽の少ない魔王城では、メリーさんと売店で売られる書物によって王都の文化が伝えられ、新たな試みが始まっていた。そして、今年の冬最も流行ったのが、ラジオ番組風城内放送であった。
制御室の全面的な協力のもと、金曜日の夜7時から、音楽やコントなどを1時間にわたってお送りするというものである。ちなみにあくまで城内放送なので、魔王城にいる人にはもれなく放送が聞こえる。聞きたくない人にも放送は届く。拒否権ナッシングなのである。
というわけで、今日も魔王様は執務室で頭を抱えていた。
ラジオ番組風城内放送で人気のコーナーの一つに、ゲストを呼んでゲストに質問をするというものがある。そして記念すべき10回目の放送で呼ばれたのがメリーさんであった。ちなみに先週行われた第9回の放送の時のゲストは、蛇男の元彼女のドワーフちゃんで、その放送において蛇男のプロポーズの言葉がどの女性に対しても一緒であることや蛇男のストーカー紛いの行動がばらされた。蛇男は女性陣からけちょんけちょんに貶され、心に深い傷を負ったが、魔王城の住人は大いに盛り上がった。
このコーナーの司会をしているのはサキュバスちゃんで、城内放送越しであるにもかかわらず色気たっぷりな雰囲気も人気の理由だ。
「それではお待ちかね、メリーさんに質問のコーナーよ。メリーさんはやっぱり人気ね? こんなにいっぱい、わたしはじめて。」
脇に控えていたコメンテーターがすかさず「質問がいっぱいなんですよね! サキュバスちゃん、変に省略しないで!」と突っ込んでいるが、サキュバスちゃんは、どこふく風である。
質問はラジオ番組風城内放送が始まってから募集されたのであるが、机の上は質問書でいっぱいである。中には売店において欲しい商品を書いた投書も混じっているが、基本的には質問ばかり。
メリーさんは質問の山を満足気に見渡し、小さな胸を張って言った。
「メリーさんが、何だって答えてあげるわ。どんどん質問するといいの!」
「これは心強いお言葉をいただきました。それでは最初の質問です。『メリーさんの年齢を教えてください』
ですって、メリーさん。」
サキュバスちゃんが首を傾げて尋ねる。
「トップシークレットなの!」
「メリーさん、いきなりの回答拒否なのね。でもまぁ、女性に年齢を尋ねるなんて失礼よね? しつけが必要なこんな質問をしたのは誰かと思ったら、狼男さんでした。でも、私がお仕置きするとご褒美になっちゃうかしら?」
「それなら、グール隊長に頼めばいいの!」
あっという間に解決策を提示するメリーさん。二人の間でコメンテーターが「やめてあげて!」と悲鳴を上げているが、完全スルーである。狼男は、自分の性癖を城中にばらされた上に、グール隊長にお仕置きされることになり、机の上に突っ伏してしまった。
狼男がノックアウトされたことなど知る由もなく、サキュバスちゃんは次の質問を読み上げた。
「次の質問はラジオネーム【ゴーレムはお友達】さんからね。」
話は戻るが、狼男よ、なぜラジオネームを使わなかったのか。
そして、コメンテーターは「ラジオネーム【ゴーレムはお友達】って絶対ドワーフちゃんですよね!? ラジオネームの意味あるの?」とうるさい。
「コホン、質問を読み上げますね? 『メリーさんがこの前執務室の皆さんに振る舞ったというスープが美味しかったと評判です。是非作り方を教えてください。』ですって。メリーさんはお料理好きなの?」
「お料理は好きだけど、毎日作るのはしんどいわ。」
「とっても主婦感あふれるお言葉ね。でも、いつもしないといけないことって、そのうち飽きちゃうわよね?」
「サキュバスちゃん頼むから『シないと』とか『イけない』とか言わないで!」
「でも、誰かが私の作った料理を食べてくれると、作った甲斐があったと思うわ。」
「分かるわ。よろこんでくれると、私も頑張っちゃうもの。」
「よろこんでって、『喜んで』だよね!? 『悦んで』じゃないですよね???」
噛み合っているのかどうなのかよく分からない掛け合いと騒がしいツッコミが続いたが、メリーさんはうるさいコメンテーターを黙らせてから、きちんと質問に答えてくれた。
「まず、蛇を見つけたら皮を剥いで、包丁でぶつ切りにします。それから煮立ったお湯にぶっこむの!」
「復讐方法と調理方法は紙一重なのね。」
サキュバスちゃんが遠い目をしてコメントする。
なお、この間ずっと、蛇男が執務室で自分の尻尾をギュッと抱きしめたまま震えていたことをここに記しておく。
「さて、お楽しみの時間もそろそろ終わりね? 最後の質問いってみましょうか?」
サキュバスちゃんが机の上の質問書の山から1通の質問を引き出す。
「ラジオネーム【ヘビーヌ】さんからの質問です。『メリーさんは魔王様のこと好きなんですか?』」
執務室は凍りついた。みんな魔王様の方を見ることができない。魔王様は、コーナーが始まってから頭を、というか兜を抱えるようにして椅子に座っている。
しかし、メリーさんは、淡々と質問に答えた。
「このお話のジャンルは【コメディー】なの。しかも【恋愛】は登録必須だから、惚れたはれたの話は物語の制約上できないの!」
まさかのメタ発言でメリーさんに質問!のコーナーは終了した。
執務室は極度の緊張から解放されたものの、非常に居心地の悪い雰囲気が流れていた。
魔王様はおもむろに顔を上げると、書類をめくり、二つの山に分けた。そして一つの山を蛇男の机に、もう一つの山を狼男の机にそれぞれ飛ばすと、部屋を出て行った。
そして、質問コーナーは、2回連続で悲劇を生み出したことから、記念すべき10回目でその短い生涯を終え、メリーさんのお気持ちも迷宮入りしたのであった。