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カルテNo.16 不治の病再び

「おう、これはワシ達ドワーフが罹る病なんじゃがよ。」



 蓄えたあご髭を触りつつムンドさんは話し始めた。

 聞けばその不治の病はドワーフばかり、正確に言うとドワーフの男ばかりがかかる病だという。

 症状は風邪のような症状から始まるが、病気が進行すると常に息苦しくなり、最終的には身体が弱り動けなくなって…死ぬ。


 死が近づくと余りの息苦しさに()()()()()者まで居るという話だ。



「仕事熱心な男ほど罹りやすくってなぁ、ワシ達の間じゃ仕事にかまけて家族を大切にせんかった天罰じゃて言われててよ。【嫁泣かせ】とか【母泣かせ】って呼ばれとる。」

「私も聞いたことが有ります。ドワーフの名工ほどその病で早逝すると。」



(【嫁泣かせ】に【母泣かせ】か…。)



 働き盛りの時は家に戻らず家族を泣かせ

 患ったら早死にが決まり家族を泣かせる

 その名の通り実に悲惨な疾患だ。


 症状だけ聞くと呼吸器系の疾患が疑われるがどうだろう。



「それでその話をここにしに来たという事は?」

「おう、多分ワシもかかっとる。」

「そう思う理由を伺っても?」

「息がな、ざらつくんじゃ。それに胸が熱くなるんじゃ。」



 拳をドンと胸にあて、歯を見せて笑って見せる。

 不治の病だと自分で言っておきながら剛毅な人だ。


 しかし息がざらつく?胸が熱くなる?

 どの主訴も何だかピンとこない表現だ。



「ちょっと失礼。」



 運よく俺と一緒に転移してきた聴診器を胸にあて耳を澄ます。確かに呼吸音に雑音が混ざっている。

 喘鳴という奴だ、風邪の時にするゼーゼーという音と似ている。何かしら呼吸器に異変が起きているのは間違いないだろう。



「熱はありますか?」

「いいや?ないのぉ。」

「成る程、キノさんちょっと」

「…なに…?」



 隣の部屋に控えていたキノさんを呼び出す。

 細菌やウィルスの感染症が疑われるのであれば彼女に診てもらうのが早い。



「こちらの患者さんなんだけど、()()()?」

「んー…。特に…フェスってる子は…いない…。」

「そっか、ありがとう」

「のーぷろ…。いつでも…OK…。」



 ふむ。これで感染症のセンは消えた、か。

 ではそうなると喘鳴が起きる病気でその病変が考えられるものは何があったか…。

 タバコの吸いすぎで起きるCOPDという病気があるが果たしてどうだ?



「何度も質問して申し訳ないんですけど、タバコとか吸われます?」

「あ~、吸う奴もおるがワシゃ吸わん。鉱山の中じゃと少しの火の気で爆発するけぇのぉ。」

「粉塵爆発ですか。」

「お、先生知っとるのか?」

「えぇまぁ一応は。」



 空気中に可燃性の粒子が飛散している状態で火気がおこると、文字通り爆発的な燃焼を起こす現象だ。鉱山だけでなく製粉所や砂糖工場でも発生した事例がある。



「ありゃげに恐ろしいでぇ。炎から逃げられんし衝撃で落盤したら生き埋めじゃけぇの。」

「死んでも体験したくない話ですねぇ。」



 ムンドさんが明るく語ってくれるからよいものの、実際に発生したら惨劇でしかない。


 たかが粉塵、されど粉塵だ。



「ん、粉塵…?」

「どうしたんじゃ先生?」



 風邪に似た症状、喘鳴、末期における呼吸困難…。

 それに職歴に鉱夫と鍛冶屋という特徴。

 胸が熱いという主訴は拭えないが一つ心当たりがある疾患があった。



「ユタカ先生、何か閃かれました?」

「うん、一つ解ったかもしれない。」

「本当か先生!?」

「えぇ、ただ鑑別する方法がねぇ…。」



 皆テンションが上がっているところ申し訳ないがまたしても鑑別する方法がない。

 それに想像が当たった場合、前の世界でも治療法が確立していない疾患の可能性が高い。



「何が足りないんですか?」

「エリザさんは解ると思うけどレントゲン造影が必要なんだ。」

「それは、難しいですね。」



 レントゲンは放射線を使って体内の状況を撮影する機械だ。エリザさんにも前相談してみたが流石に放射線を自在に操る魔物は知らない、というかそもそも放射線という概念がこの世界では無かったので実現は難しいという話だった。



「肺の中でも覗ける魔法なんかがあれば良いんだけど。」

「ゴースト達でも呼んでみますか?」

「でもそれやるとムンドさんに悪影響出ちゃうでしょ。」

「確かに…。」



 死霊であるゴースト達なら体内を覗くことは出来るだろうが、彼らは生者に触れているとどんどん生命力を奪ってしまう性質があるのでムンドさんの体調に影響を及ぼしかねない。


 ムンドさんをほったらかしでどうしたものかと2人で頭をひねっていると隣室から出てきたキノさんが俺の肩を叩いた。



「…先生。」

「キノさんどうしたの?」

「肺の中…診れれば…おけまる?」

「うん、そうだけど…。」

「…解った。」



 そう言うとキノさんは部屋に戻り、空き瓶を片手に戻ってきた。何も入っていない透明なガラス瓶だが、何を始めるのだろうか?



「…見てて」



 キノさんは机の上に置いた空瓶に手で蓋をし、目を閉じた。

 集中しているようだが手品でも始めるのだろうか。


 沈黙が診察室に漂う中、最初に変化に気づいたのはエリザさんだった。



「あれ?」



 不意に声を上げ瓶にこれでもかというほど顔を近づけて凝視している。

 俺にはまだ何が起きているのかさっぱりわからないが、エリザさんは異変に気付いたようだ。



「ユタカ先生、これ見てください!」

「何々?どうした?」



 言われるがままに顔を近づけると何か砂のようなものがうっすらと瓶の底に詰まっている。

 よーく目を凝らしてみるとその砂はキノさんの掌から零れ落ちてきている。



 はて、と粒の一つ一つに目を凝らしてみると驚くべき光景が目に飛び込んできた。



「んん…? 何だこれえぇ!?」



 虫眼鏡で覗いてようやっとわかるその全貌。

 瓶の中は地獄絵図ならぬキノコ絵図とでも言えばいいのだろうか。



『ヨイチョマルー』

『ヤバタニエンー』

『オケマルー』



 瓶の中に溜まった粉状の物体

 その正体は超ミニサイズのキノさん達だった。


 イメージとしては山積みにされたUFOキャッチャーの景品みたいと言えばいいだろうか。頭身も小さくデフォルメされマスコットのようになっているからその感覚が強い。


 しかしこのミニコケシが山程積まれ蠢いている状況は苦手な人は苦手だろうなぁ。



「…分身…的なテキーラ…。」

「キノちゃんいつのまにそんな技を!」

「…ぶい。」



 ちょっと勝ち誇った顔をしながらピースサインをしている。最近薬の研究だけではなく色々と練習していたようだがコレがその成果か。



「因みに…サイズ変更…可能。」



 そう言うと瓶の中の分身達が大きくなったりさらに小さくなってみせた。大きくなった時はキノさんの瓶詰めみたいになって若干ホラーだったが…


 これは使えるかも知れないぞ。



「この子達を肺の中へ送り込むってこと?」

「…うん。視界も…共有…できる。」

「凄いな!これならイケるかもしれないぞ!」

「キノ…凄い?」

「うん、凄いよキノさん!有り難う!」

「へへ…。」



 本当彼女達には頭が上がらないな。

 これはひょっとするとひょっとするかもしれないぞ。

台風激しいですね、皆さんはご無事ですか?

どうか安全にお過ごしください、命大事にです。

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