カルテNo,13 学習しない医者
今回視点がちょっとコロコロ変わります
サカモト⇒スティング⇒ラスト
の順です。
「お主…妾の言いたいことは分かっておろうな?」
「はい、十分過ぎるほどに。」
今日は珍しくラストさんが診療所にいる。
その理由は俺へのお説教だ。
お説教を受ける俺の後ろでは鶏達で溢れかえっている。所々で羽が舞い、けたたましい鳴き声が響き渡っている。
そんな鶏達の傍らではエリザさんが額に汗をかきながら【操血】で透析治療を行っている。
透析とは血液を濾過することで老廃物や糖分を排除し、血液を浄化する治療方法なのだが…。この世界でそんな治療が出来るのは吸血鬼であるエリザさん以外居ない。
「まーたエリザの顔色が悪くなっておろうが!」
「いやもう本当返す言葉も御座いません。」
エリザさんも疲れるのか最近血を吸われる量が段々と増えている。昨日なんて快感と失血量が多くて本当に召されるところだった。
駆け付けたキノさん曰く「本気で召される5秒前」な顔をしていたらしい。
閑話休題
お察しの通り石眼病を治せる人間が居ると噂になり患者が押し寄せたのだ。毎日来る日も来る日も石眼病の治療でエリザさんとキノさんは目を回している、本当に申し訳ない。
詰まる所前回のゴブリンの治療をした後と同じ状況だ、しかられてもしょうがない。
患者が押し寄せることで療養の身として六魔将の仕事を休んでいるエリザさんが全然療養できていないのだからラストさんもキレる訳だ。
「不治の病が直せる人間がいると近隣諸国にも噂が広がっておるらしいぞ。」
「随分尾ひれがついて広まりましたね。」
「本当の事じゃからたちが悪いのじゃ…、お主の存在が広まりすぎると面倒な輩に目をつけられるでな。あまり目立たぬようにして欲しいものじゃ。」
「あー…。善処します。」
別に有名になりたくてやっている訳じゃない。
治療しなきゃいけないから治しているだけだ。
「…響いとらんなこれは。しかしなにはともあれこのままは宜しくなかろう。」
「そうですね、ちょっと対策が必要ですね。」
「うむ、妾の方でも手を回そう。」
個室に場所を移して対策についてラストさんと話し合っているとノックと共にドアが開いた。
現れたのは藤紫色の着物を襷でくくったキノさんだ。
「先生…例の…人間たち…もーにん…した。」
「あ、起きました?」
例の人間たちとはコーさんが石化させた人達だ。
全身が石化していたので治療に時間がかかったが無事目が覚めたようだ。
さて、どんな扱いをされるやら。
◇
(((あっ、死んだな。)))
それが声が出ずとも共有出来たオレ達3人の見解だった。
目隠しを取られた瞬間目に飛び込んできたのは絢爛豪華な広間と…玉座に腰掛ける山羊角の【魔王】アスモデウス。
そして魔王を取り巻く【死神】【血貴姫】【腐死鳥】
なんと六魔将の半分が揃い踏みしていた。
この状況から生きて帰れたのならば人生の運は全て使い果たしと言っても過言ではないだろう。
それほどに絶体絶命の状況なのだが、ある事が気になって集中できない。
(…あいつだけ場違いだが何者だ?)
六魔将の並びに不釣り合いな白い服を着た人間。
人間…だよな?それなら何故そっち側にいるんだ?
大して鍛えているようにも見えないし、覇気もない、どちらかというと貧弱そうだ。だというのに六魔将と懇意にしているようで腐死鳥と談笑している。
確かオレ達が目を覚ました時、あの男が側にいたような気がするが記憶が定かで無い。顔立ちもこの辺りの人間じゃなさそうだし謎だらけの男だ。
(…まさか!この男が魔王軍を強化しているのか!?いやでも魔力も全然感じないし…うーん?)
様々な憶測が頭を駆け巡るが答えは出ない。
謎の男に気を取られ唸っていると魔王が口を開いた。
「さて、いいかの【鷹の目】スティングに【青鬼】グリールと【赤鬼】グラール。」
「何故オレらの名前を!?」
「ふふふ、よく喋るお口でしたよ?」
オレの問いに血貴姫が口を歪めて笑う。
…やられた。血貴姫の赫眼には魅了の魔力が宿っているという、恐らくそれだ。目覚めてからの記憶が混濁しているから間違いない。
「…では、こちらの情報は筒抜け、ということか。」
「ですね。」
「殺せ。」
こうして会話をしている以上相手にすぐ殺すつもりがないのは分かるが思わず口をついて出た。肉の盾にでもするつもりだろうが思うようにはさせまい。
「ふぁっはっは、同族を殺されている身としてはそうしても良かったのだが…。」
オレの覚悟が可笑しかったのか魔王は一頻り笑ってからちらと白衣の男を眺めながらつぶやいた。
「殺すとなると先生が怖いのでな…。」
はぁ?先生?あの人間か?
オレから見ても緊張しすぎて汗をかいてるあの男を魔王が恐れるだと?しかも血貴姫が何やら蕩けた顔で熱い視線を送っている、何なんだあの男は!?
「まぁ、どうやら貴様らは他の人間ほど我等に対して偏見が無さそうだしのぅ、聞いた限り魔物を甚振ったり殺戮を楽しんでいる様子もない。情状酌量の余地はあろうて。」
「はっ、昔っから納得した仕事しかしない主義でね。殺しの仕事なら容赦なく殺すぜ。」
人間の中にゃ魔物を奴隷にしたり拷問して楽しんだりする輩が居るがそういうのは性に合わない。
卑怯な手を使って魔物を狩った事はごまんとあるがそれは飽くまでも勝つため、強いてはオレ達が食っていくためだった。決して欲求を満たすために刃を振るった事は無い。
「結構結構、実のところ主らの猛者ぶりを認めるものも少なからずいるのでな。」
「そりゃありがたいこって。」
魔物に認められてどうこうという事はないが…。
殺すつもりもなければコイツらばオレ達をどうするつもりなんだ?わざわざ楽しくお話ししましょって訳でもないだろうに。
「さて、そんな貴様らの処遇だが…」
「ようやくか、どうせ魔獣の餌にでもするんだろう?」
「残念だが違うのぉ、少し趣向を凝らすことにしたのだ。」
「…何だと?」
邪悪な笑みを浮かべ、楽しげに語る魔王の姿に思わず眉をひそめる。魔獣の餌じゃなけりゃ肉の盾にでもするか?それとも生きながらに火炙りでもするのか?
なんにせよろくなことでは無さそうだ。
緊張で乾いた喉に無理やり唾を流し込み、発言を待った。
「ふふぅ、聞いて驚け。配下の者どもに貴様ら3人を受け入れても良い、という物達がいないか募ってみたのじゃ。」
「「「は?」」」
…なんて?
「その結果じゃが…良かったのぉ、全員貰い手が居たぞ。」
「「「へ?」」」
…どゆこと?
「提案者は先生じゃぞ、感謝するのじゃな。」
…コイツは何を言っているんだ?
受け入れ?仲間の仇でもあるオレたちをか?
(…何考えてやがるんだ?!)
殺気を孕んだ目で発案者だと言う白衣の男を睨め付けると申し訳なさそうな顔をして頭を掻きながら会釈してきた。
(どういうリアクションだそれは?!)
渾身の殺気も肩すかしをくらい、気持ちがたたらを踏んでいると愉悦に浸った表情で魔王が言った。
「死んだ方がマシと思うほどこき使われるかも知れんが…まぁ楽しめ人間の猛者達よ。」
◇
真昼間にゴーストでも見たような表情で魔獣に引きずられていく人間3人組を見送りサカモトに目配せをする。
「これで良いかの?」
「なんか我儘言っちゃってすいません。」
「構わぬ、誰も貰い手がおらねば死んでもらう手筈じゃったからなぁ。」
本来はサクっと消してしまう方向で考えていたが、この男の頼みだ、仕方ない。人間も魔物の社会を知れば交渉の余地が生まれるはずだと言っているが、なかなかにお花畑だ。
しかしエリザの事も世話になっているし、コーの眼まで治されたとあっては無下には出来ん。
「しかしどの奴らも物好きばかりじゃの。」
「鬼人兵団に毒蟲兵団、それにコーさんの魔獣兵団ですか。」
「然り。」
『リザードマンの奴らが赤鬼の槍捌きに興味があるんだとよ。』
「他の兵団も似た理由ですかね。」
「毒蟲兵団は鷹の目、鬼人兵団は青鬼か、どうなるかのぉ。」
尋問や拷問のために引き取ることは禁じたが、まさかそれでも引き受ける者が居るとは。
仇となる者も居るであろうに…戦いに身を置く者たちの考えは時折想像を超えてくる。
まぁ配下が望むのであればとやかくは言うまい。
「乱取りでも模擬戦でもいくらでもして鍛錬してもらうとしようぞ。」
好き好んで戦いをこちらから仕掛ける気はないが、今は戦力を増強せざるを得なかった。その理由は3人組から入手した情報にある。
『冬前に大攻勢がある』
迫る冬を前に食糧難となった人間どもが腹を括ったようだ。斥候から得ている情報でも物や人の出入りが活発になっていると聞く。
面倒だ、実に面倒だ。わざわざ相手などしたくない、が
古き盟約に縛られている以上、この土地を離れるわけにはいかない。本来戦ごとを好き好む性分でない分胃が痛くなりそうだ。
「気が重いのぉ。」
ふっと吐き出した弱音は誰の耳にも届かず虚空に溶けて消えたのだった。
評価ポイントが100ptに到達しました。
有難うございます、今後も連載していけるように頑張ります!
段々と異世界の疾患を書いていきたいと思っていますが、思いついている疾患が少ないのでネタ切れにならないように頑張ります。
■今回のダイジェスト
不死兵団 ダイン
魔獣兵団 コー
夜魔兵団 エリザ
という割付です。
毒蟲兵団、鬼人兵団の他に魔華兵団があります。
キノは魔華兵団の所属です。
他の六魔将いつ登場させようかと悩み中。
■解説 糖尿病の治療について
糖尿病の治し方にはいくつかアプローチがあります。
運動して消費カロリーを上げたり、食事を制限したり、薬を飲んだり…。
他に出てくるのが透析という治療方法です。
透析は血液を濾過する臓器である【腎臓】が弱り切ってしまった患者さんを対象にとられる治療方法で、腎臓の代わりに人工的に作られたフィルターで血液を濾過する治療法です。
この状態になると患者さんによっては何日かおきに透析を受けなければ身体に毒素が溜まり重い病気をさらに患ってしまうことになるので注意が必要です。
なのでそれ程重くなる前に糖尿病を予防することが重要と言われています。




