表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子辞めます。  作者: 安田 桜
2/18

兆し

三崎 晶、24歳、男。


最近は社会人としてある程度慣れてきたけれども、まさかこんなに自分の時間がないとは思わなかった。

残業もそこそこ、週末は上司に連れ回されて休日は部屋でダラダラ。

最後にショッピングしに行ったのは最早いつかわからない。ぶっちゃけ、彼女とも上手くいってる訳でもない。仕事が原因じゃないんだけれども…。


個人的に酒は好きだし、上司や周りとの円滑な人間関係の為。

大きな面倒が起こらないように小さな面倒を細かくこなしている。

普通の面白味のないただのサラリーマンだ。


面白味のないただのリーマンと言えど、腹が減れば飯を食う。

会社にいる間、唯一安らげる時間。

いつものフリースペースで手製の弁当を広げる。


しかし、つかの間の休息を邪魔するやつがいるもので、


「三崎!今日の夜暇だろ?武田課長に誘われちまってさー…。」


同期の高野が話しかけてくる。

とにかくやかましい。

もう少しその声量はどうにかならないのか?


「あ〜、はいはい。メンツ集めてるわけだね?暇だけど決めつけは良くないぜ?」


「結局暇なんだろ?他にも声掛けとくから来いよな!」


昼休憩に難儀な事で。


「はいはい、わかったよ。つーか、飲みに行きたいなら自分で誘えばいいのにな。」


僕の返事も待たず次の宛を探して高野は奥へ消えていった。


週末の夜は大体こうだ。

安い居酒屋で夕食を済ませ、ガールズバーだのキャバだのなんだの飲み屋へ行く。

正直、興味が無い。

正直、帰りたい。


義理として一次会、せめて二次会までは良しとしよう。

しかし、気づけば三次会…。


そしてここは…ニューハーフクラブである。

まさかこんな趣味があるとは…。

課長の趣味を否定はしないが、僕の趣味ではないし、明日は珍しく予定を入れている。

それに、なんと言うか、物凄い居心地の悪さを感じる。


「こう言うお店、初めてですか?」


リサと名乗った女性?が話しかけてくる。


「そうですね。そもそも付き合いじゃないと飲み屋も行かないので。あ、なんか飲みます?」


気が乗らないなりにドリンクを勧める。


「ありがとうございます!お願いしまーす!ビールで!」


どう聴いても女性にしか聴こえない声で飲み物を頼む。が、ふと疑問に思ってしまう。

『本当にニューハーフなのか?』と。


「あの…リサさんは…その…ニューハーフなんですよね?なんでなろうと思ったんですか?」


彼女は少し困ったような表情をした。

周りも渋い表情だ。

興味本位で聞いたことに少し後悔をしたが、リサは答える。


「私の場合は、なろうと思ってなったんじゃないんですよ。『性同一性障害』って知ってますか?」


「詳しくは知らないです。」


正直に答えた。

テレビで聞きはするが何なのかははっきりと知らない。

リサは続ける。


「体の性別と心の性別が一致しないことなんです。私の場合、体は元々男なんだけど、物心ついた時から女の子の様に過ごして来たんです。」


彼女は昔を思い出すように遠くを見つめている。


「でも、周りと違うって気づいちゃって…。かと言って自分を偽って男子として生きられない。だから、ここで手術費用の足しにしようって思って。」




帰りの電車の中、僕はリサさんの言葉を思い出していた。


『なろうと思ってなったんじゃないんです。』


『男子として生きられない。』


チクリと何かが僕の心を刺した。

興味本位で聞いた彼女へ対する罪悪感なのか、それとも別の何かなのか。


しかし、得体の知れない『それ』は確実に僕の心に小さな波を立てて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ