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ちょっと不思議な鉄道旅

ちょっと不思議な鉄道旅 海中の駅

作者: 白波

『まもなく、海中駅。海中駅。お降りの方はご準備ください』


 列車に乗っていて、流れてきたアナウンスに惹かれて、私は駅で降りる準備を始める。


 窓の外を見れば、街の中を走っていた列車はトンネルに入り、どんどんと坂を下っているのがわかる。

 海中駅というからには、海の中にあるのかもしれない。


 私はそんな期待を胸に座席を発って扉の前に立つ。


 トンネルを抜けると、そこはもう海中で、どういう仕組みになっているのわからかないが、列車は海中に敷かれた線路を走っていく。


 おそらく、線路の周りを見えない何かで覆っているのだろうが、線路の周りを泳ぐ魚を見ているとなんだか不思議な気分になる。


 その状態が少しだけ続くと、列車はどんどんと速度を落としてやがて海中に作られた駅のホームに滑り込む。


『海中駅。海中駅でございます。お降りの方はお忘れ物なさいませんようにご注意ください』


 扉が開くと同時に流れたアナウンスに後押しされて、私は海中駅に足を踏み入れる。


 目の前にあった“ここは海中駅”という簡素な看板を写真に収めると、私はぐるりと周りを見回す。


 海中駅は線路とホームが二本ずつある。ただし、今乗ってきた路線は単線なので、複線は駅を出てから少ししたところで終わっていて、ここは交換駅になっているようだ。


 実際に今まで乗ってきた普通列車も対向列車を待つために20分ほど停車しているらしい。


 駅のホームに降り立った私は、古びた跨線橋を渡って、反対側のホームに足を踏み入れる。


 すると、軽快な音楽とともにアナウンスが流れ始める。


『まもなく、2番線を列車が通過いたします。白線の内側までお下がりください。まもなく、2番線を列車が通過いたします。白線の内側までお下がりください』


 どうやら、対向列車のうちの一本目が来たようだ。

 私は列車が来るであろう方向に視界を向ける。


 すると、赤色のディーゼル機関車にけん引された貨物列車がこちらに向かって近づいてきていた。

 貨物列車かけたたましい警笛を鳴らすと、勢いよく海中駅を通過していく。


 ガシャンガシャンという貨物列車の通過音を聞きながら、私は背後の海に視界を移す。


 大きな音を立てて貨物列車が通過しているにもかかわらず、海の中の魚たちは逃げたりするといった行動は見せずに悠々と泳いでいる。


 ちょっと上の方にはイワシと思われる魚の大群がいて、圧巻の風景を作り出していた。


「……すごいな……」


 私の口から思わず言葉が漏れる。


 水族館でイワシの群れだったり、その習性を利用したショーを見たことはあるのだが、こうして自然のそれを目の当たりにすると、それとは比べ物にならない迫力に驚かされる。


 そうして、しばらくイワシの大群を眺めていると、そこにサメが現れる。おそらく、イワシを狙っているのだろう。


 もしかしたら、イワシが大群を作っていた理由はこれなのかもしれない。


 そのあと、イワシとサメのことの行く末を見守り、下の方へと視線を動かしていく。


 地面の方には海らしく、海藻が生えていて、ゆらゆらと揺れて私の目を楽しませてくれる。


『まもなく、2番線を列車が通過いたします。白線の内側までお下がりください。まもなく……』


 二回目の列車の来訪を告げるアナウンスが流れたのはちょうどそんな時だ。そろそろ、普通列車に戻らないとこの駅でしばらく待ちぼうけを食らうことになる。


 この駅の外がどうなっているのかだとか、駅の外に手を出してみるとどうなるのかなど気になることもあるのだが、それのために三時間後に来る次の普通列車を待つというのも考え物だ。


 私は急いで跨線橋を渡って元の列車に戻る。


 すると、青いラインを身にまとった気動車特急がこれまた勢いよく駅を通過していった。


 その直後、短いチャイムが鳴ってほぼ同時にアナウンスが流れ始める。


『1番線から列車が発車します。ご注意ください』


 そのアナウンスのあと、私を乗せた列車は扉を閉めて海中駅を後にした。

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