93.
新米記者の側島と、ベテラン記者の水野は、東京にある皇国通信社からタクシーで東京駅へ向かい、そこから新幹線に乗り、名古屋へと向かった。
ちょうど名古屋へ着くと、そこで運転打ち切りだというアナウンスが流れる。
「仕方ねえな、これから先は爆発物ありだからな」
水野が側島に言いながら、JRから近鉄へと乗り換えようとする。
「東海道・山陽新幹線が全線停止、ここまできたっていうことは2時間半は止めなかったっていうことですよ。戦時体制下でそれはちょっとばかし長いんじゃないんですかね」
「警察だって、お上ができるかぎり国民生活を安寧にせよという指示が出ている今なら、その電話がガセか本物かっていうのを見極める時間が必要なんだろうさ。ただし、それにしても時間がかかり過ぎてるな…」
水野が近鉄特急の発券窓口に並びながら、どこかへと連絡を入れる。
「おう、水野だ。そっちはどんな調子だ…そうか、そりゃよかった。そういや、奥さん、元気にしてっか。いや、最近会ってないからさ…ふんふん、そうかならいいんだ。あ、そうそう、聞きたいことがあってさ……」
水野の言葉はそれだけで、あとは相槌を適当に打っているだけだ。
「そっか、分かった。ありがとな。また飲みに行こうや」
5分ほど話を聞いていると、急に切った。
「どうでした」
次の次で彼らの番が巡ってくる。
「露欧国境で、ロシア側が押されてるらしい。前、爆撃を食らっただろ。あそこから戦線が乱れだしたそうだ」
「それとこれとどんな関係が…」
側島が水野に尋ねる。
「いいか、すべての物事はつながっているんだよ。露欧国境でこちら側への侵攻があったということは、同時に、中国が欧州と呼応して動くことが考えられる。そうなれば、国内にいるゲリラに呼びかけを行って、陽動を行うことだって十分に考えられる。俺は、今回の爆発物騒動だって、陽動作戦の一環だと考えてる。陽動作戦で最も重要なのは、実際に引っかかってくれることだ。皇国がそこまでバカじゃないとしても、実際に引っかからないようにタイミングを見計らったということだってありうるわけだし、単にどんくさくて、本当に今まで爆発物の調査をしていたのかもしれん。それについては知らんな」
「つまりは、今回は陽動だというわけですか」
「無論、俺の私論に過ぎないから、真実なんざ、今わからんがな。それよりも、ほれ、順番だ」
「あ、はい」
「一番早い便のチケット2枚、席は離れていても問題ない」
「わかりました」
水野が側島に指示すると、その足で、コンビニへと飲み物を買いに行ってしまった。