92.
満露国境で行われた戦車戦が終了したという話が、通信社を通して、世界中に報道された時、日本皇国の東京に本社がある、株式会社 皇国通信社に1本の電話がかかってきた。
「はい、皇国通信社報道部」
最初にかかったのは、勤続20年のベテラン記者のところだった。
その声は、変声機を通しているかのように、くぐもって、おかしな口調に聞こえる。
「爆弾を仕掛けた。我々に立てつく罰である。新大阪駅、大阪駅、尼崎駅にそれぞれ4つずつ爆弾を仕掛けた。12時間以内に我々へ恭順の意を示すか、または同盟国へ降伏を宣言するか、解除をするかを選べ」
電話から発せられたのはそれだけの言葉だったが、記者はすぐに動いた。
「おい、大阪支局へ連絡入れろ。それと、警察にも連絡しとけ。新大阪、大阪、尼崎に爆弾を4つ仕掛けたっていう話だ」
それを言うと、全員があわただしく動き出した。
「水野さん、それ本当ですか」
社の建物のすぐ前の道路でタクシーを拾おうとしているベテラン記者のすぐ後ろに控えていた、新米記者が声をかける。
「ああ、本当だ、側島。なにせ俺のところにかかってきたんだからな。それに、全ての通話は保存してある」
「で、これからどうするんですか」
ワクワクしながら、側島が水野に聞く。
「無論、大阪へ向かう。一旦新幹線で名古屋へ出て、近鉄へ乗り換えていくぞ。それができなければ、行ける所まで行ってから、飛行機だ。値段については気にするな、一番早いもので行くぞ」
「はい、水野さん」
側島が、返事をすると同時に、タクシーが目の前で止まってくれた。