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皇国戦記  作者: 尚文産商堂


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92/117

91.

その言葉を聞いて、陳は微笑んでいた。

「いけません、と申されますか」

「ええ、いけませんねえ」

「それはまた、どうしてでしょうか。できれば理由をお聞かせ願えませんか」

河菱に、陳は丁寧な口調で、目を細めながら聞いた。

「簡単な話ですよ。現在の皇国は、戦争のために多数の人員を割いています。警察、消防もその例外ではないのです。国民が頼るべきものがなくなった時、頼られる存在がどうしても必要となります。我々は、その必要とされる存在へと変わりました。2020年に行われた第6次頂上作戦により、一時的には我々の組織は壊滅しました。ですが、2025年に合一した組や会をつなぎ合わせて、現在の河菱組があります」

話の筋が分からないようで陳は、表情一つ崩すことなく聞き続けている。

「任侠とは、今や、国民を襲う存在ではなく、国民を護る存在なのですよ。警察の御厄介になるまでもない、些細な揉め事の仲介役として我々はおります。確かに汚れ仕事も請け負います。ですが、誰も引き受けないからこそ、我々が引き受けなければならないのです。街の用心棒として、友人として」

「…つまり、引き受けない。そういうことですね」

陳が、河菱の話を聞き終わってから、ポツリと言った。

「そういうことですね」

陳はゆっくりと椅子から立ち上がり、河菱へ告げる。

「ならば仕方ありませんね。政府へは、交渉は決裂したと返答することにしましょう」

陳を見送るために、河菱も立ち上がり、すぐ横の船へと案内をした。

船同士を結んでいたヒモや鎖がほどかれると、陳を乗せた船は、すぐに遠くなって行く。

「次お会いする時には、敵同士ですから、そのつもりで」

遠ざかる船に河菱が叫ぶ。

その声が聞こえたかどうか、それは定かではない。

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