86.
「前方より敵、襲撃してきます。滑空弾、発射」
中国軍戦車部隊の先陣を切って進んでいた一台の戦車から、ピンク色をした煙を吐き出しながら滑空弾が日本皇国軍に向かって放たれる。
ピンク色の煙は、昼戦で、どこに着弾をしたかを知らせるために使っているものだ。
煙の中には電子フレアになる素材が使われており、敵の照準を乱す役割もある。
「目標地点後方へ着弾。敵方も防磁しているようですね」
「それは仕方ないことだろうし、あらかじめ分かっていたことだ」
李来伝陸軍中佐は、部下からの報告に簡単に答えた。
「目視による標的確認と、機械による照準では、圧倒的に機械のほうが正確だ。それを彼我両ともに知っているからこそ、このようにフレアをまいて、それをかく乱する必要がある。全車両に通達。最高レベルの戦闘態勢をとれ。いよいよ戦闘だ」
部下を通じての平文送信は、すぐに皇国軍に傍受され、それが磯田陸軍戦車中佐の手元に届くのは、さほど時間がかからなかった。
「そうか、いよいよか」
戦車の中でその情報を取得した磯田中佐は、すべての戦車にこちらも通達を出した。
「戦闘開始せよ」
それが、すべてを意味していた。
中国軍側からの滑空弾は、戦車部隊の後方へと着弾し、それを合図として、中国側からの榴弾砲が発射された。
この榴弾砲は、戦車のキャタピラ部分に取り付いて、モーターを破壊するために用いられるため、地面すれすれで破裂して、敵方の戦車や車両を走行不能にするというものである。
照準精度がよろしくない中国側の作戦は、走行不能後に徹甲弾や粘着榴弾の類を発射し、敵を一両ずつ撃破するという方式をとっていた。