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78.

下井田陸軍大佐が爆発の衝撃を地下指揮所で受けているとき、地下に埋蔵されている爆弾に指示が飛んだ。

それは、爆発せよという実行命令だ。

この指揮所の地下には、複数の捨てられた坑道があり、その大半は自然に陥没や崩落をし埋まっているが、いくつかは人が通ることが可能であった。

欧州連盟陸軍特殊作戦群スレッチャー・グリコゲル隊長が、仲間とともに、それらをセットした。

その報告に、欧州連合軍総司令部総司令官アーノルド・シュターレン陸軍元帥の元を訪れているときに、作戦は無事に成功したことを知らせる電話が入った。

「さて、グリコゲル大佐。君は無事に任務を果たした。追って沙汰があるだろう」

「ありがとうございます」

「作戦は実行に移され、私が考えた方式によって、最低でも数千の兵が死んだという話だ。まず、地上にいた兵が爆撃によって一掃され、直後、地下に埋設していた爆弾により吹き飛ばされたようだ。いったい、どれだけの損害が敵に出たのか、想像もしたくない」

「列車砲もあの近辺にはあったので、一層できてよかったのではないですか」

元帥は机を、怒りを込めた握りこぶしでドンとたたいた。

不安定な置き方をしていたいくつかの書類が、バサバサと音を立てて床に散らばっていく。

「私は、このために、あの技術の開発をしたのではないっ!もともとは、強固な岩盤を発破するために考案したものを、軍事転用しただけだっ!」

「…ですが、今は戦争です。民需もなにも、すべてが軍事に回さなければ、我々が同じ目に合っていたかもしれません。慰めになるかどうかは…」

だが、グリコゲル大佐の言葉など、何も聞いていなかった。

無造作で手であっち行けと合図を送ると、静かにグリコゲル大佐は去った。


この戦果に喜ぶ欧州であったが、一方で日本皇国は沈んでいた。

「観戦武官と連絡が付きません。宇宙軍からの監視によれば、直径20kmに及ぶ巨大なクレーターが見つかったそうです」

「新型爆弾か…」

「軍研究所によれば、超大型貫通爆弾ではないかと。ただ、20kmという直径をもつクレーターを発生させたメカニズムについては不明です」

軍務総省内の会議の場において、幕僚と各省大臣が勢ぞろいをし、今回の戦闘について研究をしていた。

「スーパーバンカーバスターといったところか。爆撃機一機だけでそれだけの被害を出せれるんだ。水爆クラスの爆発力があるのだろう。欧州はそのような爆弾を開発したというのだろうか」

大臣付参謀長の脇に侍していた佐官が、複数枚の紙を挟んでいるファイルから一枚を執り、それを読み上げた。

「参考までに報告申し上げますが、世界最大の爆弾としては、ロシアが冷戦時代に開発、実験を行ったツァーリ・ボンバというのがあります。爆発力がTNT換算で50メガトン。爆風による殺傷範囲が22km、熱線による殺傷範囲が58kmだとされています」

「この報告から分かるように、水爆や原爆と言った核爆弾の類では、熱線が確実に生じます。しかしながら、今回の爆発では、クレーターは開けども、熱線による死傷者は発生しておりません。よって、核を使用していないものと思われます」

「なら、どういうことなんだ。地盤が悪かったのか?」

軍務総省大臣は、頭を手で抱え込みながら、だれか答えてくれと言いながら、その場の全員に聞いた。

「閉鎖された炭鉱が中心より10km付近にありますが、そこから半径5km程度の広がりしかありません」

「…大規模な落盤か。どちらにせよ、敵は当方へ甚大な被害を与えることができる兵器を手に入れたことになる。安保会議の召集をしたいと、首相に直談判だな」

軍務総省大臣が立ち上がり、この会議はお開きとなった。


北米条約連合側も、何もしていないわけではなかった。

爆撃があったという情報を得てから数分後には、必要な閣僚を集め、緊急の国防会議を開いていた。

これは、大統領に招集権限がある会議の一つで、必要最小限の閣僚だけが集められて、国防方針や戦時における指揮についての確認等を行う。

昔でいえば、アメリカ国家安全保障会議が最も近いだろう。

「露欧国境付近の大規模な爆撃により、半径20kmほどがボール状の穴が開いております。死傷者数は不明。現在のところ、わが方の被害はなしとのことです」

「それはどうでもいい。問題は欧州は何を使ったかだ。JCS議長、なにか話はないか」

大統領はすぐに軍事専門家である統合参謀本部議長に、尋ねる。

「バンカーバスターのような、高度に地中へ突き刺さるものが使用されたと推測されます。ただし、核の類は使われていないでしょう。それに伴う熱線は確認されておりません」

「ならば、通常のTNTなどの火薬類ということか。しかし、それではこれほどの被害は出ないだろう」

「ですので、我々はカルデラ式と呼ぶ方法によって、爆破を行ったものと推定します」

「カルデラ式?」

「ええ、あらかじめ岩盤部分に爆弾を仕込んでおき、上空からのタイミングで一斉に爆破します。岩盤が破壊されると、カルデラが崩落するように、一瞬で灰燼に帰します。また、上部建物も、著しい被害が与えられ、その範囲全てが破壊されます」

「すさまじい力だな…実験を行ったのか」

「ええ、山一つが文字通り消滅しました」

議長は大統領に実験の資料として、国内某所で行われた実験時のカラー映像を見せる。

そこは、はげ山がそびえたっているところだった。

そこここに小屋が建っている。

右下には、撮影日時が、コンマ秒単位で刻まれ続けている。

上空からの撮影のようで、鳥瞰図のように、全体が見渡せるようになっていた。

だが、突如として、地面が下から崩れ出した。

「…すごいな」

大統領は、そう呟くのがやっとだった。

爆破して1秒後には、衝撃波が地面を伝って広がっているのが目に見えた。

そして、3秒後、撮影場所まで衝撃波面が到達し、カメラは一瞬真っ暗になったが、どうにか持ちこたえたようだ。

5秒後には、砂煙をあげて、山が沈みゆき、10秒後にはそこに何があったか分からない状態になっていた。

「…これを食らったということか」

「ええ、そういうことになります。爆弾の規模や地盤の状態にもよりますが、理論上、直径20kmものクレーターが造られるためには、円形に爆弾を配置し、さらに、中心部にも複数の爆弾を設置する必要があります」

「…素晴らしい。我々もこのタイプの設置方法を研究すべきだな」

「我々はこの方式を、先ほども申しました通り、カルデラ式と名付けました。今後研究をしていきます」

「うむ、もしかしたら、新たな戦術となることもありうるからな」

大統領がそう締めて、会議を終わらせた。

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