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北米条約連合大統領は、連合議会上院において、議会が欧州連盟に対して宣戦布告を行うように要請する演説を行った。
その様子は、ルーナ公爵に対して月面自治区長が言った通りに、全世界へ中継をされた。
大統領が議場に入ると同時に、全議員が起立し、盛大な拍手が巻き起こる。
演説台に大統領が到着すると同時に、それらの拍手はピタリと止まり、議員は着席する。
ゆっくりと首を横に振って、議場にいる全議員を見回してから、大統領は、マイクによって拡声された、その朗々たる声で、語りかけた。
「お集まりの皆様、上院議長、下院議長、そしてすべての議員の方々。
月面自治区で起こってしまった、あの、痛ましい惨事については、すでに知っていられると思います。あの、事件によって、我々の仲間が、現時点で把握している限りで、30名が亡くなり、60名以上が、病院へ搬送されました。
これらの大事件に対して、我々の同盟国であった日本皇国は、緊急に被災者支援を行っております。また、我々の軍も、民間と共同して救助活動を行っております。まずは、彼らに惜しみない賛辞の言葉を」
ここで、拍手が巻き起こる。
10秒ほどで再び静まり返る。
「これらの惨事のきっかけを与えたのは、欧州連盟が打ち出したロケットであり、それは、今なお我々の友人である日本皇国が有している施設に対して打ち込まれたものでした。
計算を行えば、簡単に月面全土を揺らすほどの地震が発生することは、欧州連盟も把握していたはずです。しかしながら、彼らはしなかった。
1942年12月7日。忘れもしないあの真珠湾攻撃の日です。あの時の大日本帝国は、我々に対して、太平洋の様々な場所に対して、大規模な奇襲攻撃を行いました。
彼らと大きく違うのは、我々に直接被害を加える目的ではなかったということであります。それであっても、威力計算を怠り、そして、攻撃をしかけないと宣言をしている我々に被害を与えたのは、厳然たる事実です。
すでに私が最高指揮官である各軍に対して、あらゆる防衛措置をとることを命じております。こにように計画的な攻撃行為については、明快かつ断固たる決意で立ち向かっていかなければなりません。我らに、神のご加護を。
敵は、すでに存在しており、我々に与えられた時間はごくわずかです。さらに言えば、我々の生命まで、様々なものが太平洋戦争以来の危機にあるのです。
私は、これらの事柄をもって、また月面自治区へ対する攻撃によって、欧州連盟と戦争状態へ入ったことを布告していただきたく、議会へ対して要請するものです」
これまでで最大の拍手が起こり、全員立った。
そして、大統領が手をあげて挨拶をすると、より大きな拍手が起こった。
それは、大統領が議場から出て行くまで続いた。