70.
柿倉中将は、命令書を受け取ってからすぐに動き出した。
「参謀を集めろ。戦略を練る。早急にだ」
知事室の外で待機をしていた伝令に指示をして柿倉中将が次々と指示を全部隊へと伝えていく。
それと同時に、テレビにおいても、臨戦地境に指定されたことを報道していた。
さらに、地域非常事態宣言、戒厳令も布告をされたということも。
法律によって、この3つのうち法的拘束力を持つのは臨戦地境となる。
だが、そのことはニュースで言っていても、あまり変わりはしなかった。
なにせ、一般庶民については戒厳令が出た、非常事態宣言が出たといったくくりで考えたかrだ。
どちらにせよ、軍は臨戦地境の宣告が出ると同時に、各所に検問を設置し、スパイなどがいないかどうかを確認し始める。
それと並行する形で、県本体であるドーム状の建物の周囲に無人偵察機を配備し、360度、さらには上空や地中からやってくる敵を監視することを決定。
シルベスタークレーター内部にも、同型の無人偵察機を配備させ、ミサイルが来るのを待った。
「弾着予想、あと10分ほどです」
宇宙軍砲術少将として、月面内部の全砲門を監理している一谷越子が、柿倉中将に報告していた。
「そうか、ご苦労。ミサイルはどこに向かって飛んでいる」
「現状では、推定通り、シルベスタークレーター方向に向かっています。このままいけば、クレーター内部は、すべて破壊されると考えています」
「なるほど、やはり、情報は正しかったのか…」
知事からの話を反芻している柿倉中将に、一谷少将が聞いた。
「よろしいでしょうか」
「なんだ。述べよ」
「このシルベスタークレーターの縁部分には、ミサイル防御用の施設が2つありますが、起動させてもよろしいでしょうか」
「ああ、かまわない。なぜ起動していなかったのだ」
「この防御施設はシルベスタークレーター内部の建物が放棄されると同時に、使用不可能として封印を行った施設です。この封印を解くためには、月面の軍部門最高責任者か、もしくはその代理人としてふさわしい方の許可が必要となるので」
「ならば許可しよう。ありったけのシステムでミサイルを撃ち落とせ」
「了解しました」
その許可状にサインをして、一谷少将は敬礼をして軍部門司令官室を出た。