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69.

3日後、月面へミサイルが近づいた。

すぐさま行政戒厳を敷くと同時に、地域非常事態宣言を布告。

それに呼応するように、東京の皇国政府が月面県を臨戦地境に指定し、迫り来るミサイルを待った。


軍服を着た人が、知事と書かれた机に座っている女性に、立ちながら息を荒げてまくしたてていた。

時折、バンバンと机を叩いている。

「なぜ、攻撃してはいけないのですか。こちらに迫ってきている脅威を排除するのが、我々行政や軍の仕事でしょう」

月面県で設定された司令部に詰めている柿倉英順(かきくらひでより)月面中将が、知事に言いよっていた。

「中央からの指示だ。正確には軍務総省大臣からだな。敵のミサイルの照準はすでに判明しているらしい」

「え…それは、どこなんですか」

一瞬、知事の言葉に拍子抜けしたが、すぐに元に戻って詰め寄る。

「シルベスタークレーターだ。月面経度北緯82.7度、西経79.6度に存在している。中心部には小さな丘があり、そこに皇国軍の施設があるのだ。そこを目標としているらしい」

「それって、数十年前に放棄された施設ですよ。なぜいまさらになって?」

「…つい先日、財務大臣が防衛機密漏えいを行い、利敵行為をしたとして逮捕されただろ。あの時、大陸中国に渡した情報に、含まれていたものらしい。その緯度経度を元に、ここだと判断したのだろうということだ。これは、かなり精度の高い情報らしい」

「…なるほど」

知事に真向かうように置かれている椅子に、柿倉中将は座る。

「周囲には高射砲部隊を配置させるようにとある。とはいっても、全て防衛研究所が整備した無人部隊ではあるが」

「ええ、それは既に配備済みです。無人の施設と言っても、我が国の物。我が国のものである以上は、我々軍は護り抜きます」

「その意気だ。さて、これから話すことは、命令だ」

「はい、閣下」

月面県知事は軍に命令を出す時には司令官とみなされる。

そのため、司令官の敬称である閣下を付けることになるのだ。

柿倉中将は、座っていた椅子から立ち上がり、気をつけの姿勢をとる。

それから知事は命令書を机の鍵が付いている引き出しの中から取り出して、脇にずっと待機をしている首席秘書官同席のもと、朗読した。

「1つ、日本皇国の領土であるシルベスタークレーター内、日本皇国宇宙軍シルベスタークレーター内研究所の防衛を命ずる。2つ、第1項の防衛目的を達成するために、月面に衛戍している日本皇国各軍の全ての部隊を、柿倉英順月面中将の指揮下に置く。3つ、月面県の領土の範囲内の防衛行為は、柿倉英順月面中将が指揮を行う。また、第2項を適用する。以上、命ずる。第3代月面県知事 鎌倉治子(かまくらはるこ)

読み上げてから、半分に命令書をおり、それを柿倉中将に手渡す。

「命令を受領致しました。()く疾く実行致します」

敬礼をし、柿倉中将は駆け足で部屋を出た。

知事は脇にずっと立って、様子を見ていた主席秘書官に聞いた。

「ミサイルの弾着はいつ頃になる」

「予定弾着は、3時間を切っています。急に変更をしない限りは、ですが」

「変更が行われた場合、こちらへくることは可能か」

「恐らくは」

「では戒厳令を解止するのは無理そうだな…」

「そうですね、現状で解止の宣告を行うのは得策とは、到底言えないでしょうね」

「そうだな。ありがとう、何かあればまた呼ぶから、それまで秘書室で待機していてくれ」

「分かりました。お姉ちゃん」

言った瞬間に知事は吹き出した。

「また懐かしいな。すっかり言ってくれなくなったから、忘れていたと思ってた」

「まだまだ憶えてますよ。8歳の時に行った地球のことも」

「憶えているものだな。もう遠い過去ではあっても」

懐かしんでいる知事と首席秘書官はずっと語らっていた。

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