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月面県知事は、閣議決定をされた命令書をもってきた月面中将などと相談をし、着弾が予想される当日に、行政戒厳を敷くことを決定した。
「本日より2日後に、戒厳令及び非常事態宣言に関する法律に基づき行政戒厳を敷くことを決定した。すでに勅令は発令された。司令官は私とし、副官を、軍務面については柿倉英順月面中将に、その他いっさいを副知事にお願いしたい。同法22条各号に記載されている参謀長、参謀、主計、軍医、監理部長、憲兵隊長及び憲兵隊、司法事務官、下士及び判任文官については、柿倉月面中将が指揮をとるように。また、同時に地域非常事態宣言を布告し、総務部長、消防本部長、地域振興部長、警察本部長、教育委員長、財政部長、会計部長、車両部長、特命議員、特命医務長を副知事の部下とする。なお、陸軍、空軍所属の人については、形式上は私より月面中将の元へ派遣するという体裁をとるものとする。何か質問は」
月面県の知事は、月面に衛戍している軍の代表者として宇宙軍月面中将、議会からの代表者として県議会議長、また市民代表として自治会長を同席させた会議を開いていた。
その場で、戒厳令と地域非常事態宣言の布告についての説明をした。
すでに、ニュースで広く知らしめられていたため、話は比較的スムーズに進んだ。
北米条約連合には、すでにその情報が入っていた。
「つまり、月を攻撃するということになるのか」
大統領が、国防総省の大臣から報告を、ホワイトハウスの執務室内で受けていた。
たった二人だけの部屋に、それぞれの声がわずかに反響して伝わってくる。
「ええ、元からあるポイントへ向かっての攻撃を考えていたようです」
「あるポイント?」
「ウブスナガミがあるといわれているポイントです。中国中枢部にいるスパイからの情報によれば、先日捕まった元財務大臣が漏らしたとのことです。日本皇国中枢部の情報とのことなので、かなり信頼性が高いと判断したようです」
「ふむ、つまり、そのポイントを目指して、ミサイルを飛ばしているということか」
「そのようです。着弾地点は判明しておりますが、日本皇国側は、念のため、月面日本皇国領の全範囲に対して、戒厳令並びに非常事態宣言を布告し、警戒を強めています」
「そうか。着弾予想日時は」
「東部標準時で明後日の、午後1時ごろと思われます」
「着弾直前、1時間ほど前になったら、また連絡を入れてくれ。それと、月面の自国領土の警備レベルを上げてくれ。少なくとも、着弾が確認されるまでの間は」
「了解しました大統領閣下」
大臣は、礼をしてから、執務室から出ていく。
ドアが閉まり、足音も聞こえなくなると、大統領は電話をかけた。
「ああ、北米連合大統領だ。今から言う月面のポイントの調査を頼む。いいか、北緯82.7度、西経79.6度だ。何がある…そうか、では検査が終わってから連絡をくれ」
受話器を置いて、ため息をつき、両手の指を組ませて、親指を回して遊んでいると、4周しないうちに電話が鳴った。
「はい、北米連合大統領。ああ、君か。それでどうだった。建物はあるが、何ら反応はない。電波も出てないのか。それどころかここ数十年間活動してない?日本皇国が建てた建物で間違いないんだな。そうか、ならいいんだ。引き続き、その建物を見張っていてくれ。本作戦は、総称してソビエト山脈作戦と名付けよう。では」
大統領はそれだけ伝えてから受話器を置いた。
引き続き、軍部に電話をかける。
「ああ、AFSPC長か。君にある作戦を遂行してもらいたい。作戦名はソビエト山脈作戦だ。なに、簡単な作戦だ」