66.
「敵は、我々を煙に巻こうとしているようですな」
少し離れたところで静止している畿内では、レーダーに突如として複数発生した点を見ながら言った。
「これではいたちごっこだな」
参謀に言われて、狩留艦長がつぶやく。
「どうしますか、助太刀しますか」
「いや、本船が突撃かけたところで、仲間が巻き添えを食らう恐れの方が高い。ここで、全方位を監視せよ」
「了解しました」
日本皇国の宇宙戦闘機と欧州連盟側の宇宙戦闘機は、そこここでドッグファイトを繰り広げていた。
「オートロック装置設定。敵電磁波感知、発射」
一連の動作のほとんどは、オートメーション化されており、操縦士がすることと言えば、船に積まれているAIが回避できないようなロケットを回避することと、現状を隊長に報告をすることぐらいだった。
だが、一度AIがバグった場合、全ては手動にしなければならない。
そのために、いかなる状況であろうとも、操縦士は操縦桿から手を離してはならなかった。
発射と言う言葉がAIから放たれると同時に、船も作用反作用の法則に従って、わずかにずれる。
そのずれた部分を、ロケットが真正面から通り過ぎていった。
「あぶなかった…」
狭いコックピット内で独り言を言っているのは、宇宙軍迎撃大尉の轟一市だ。
轟大尉は基本的に親機である畿内に乗り込んで、敵艦隊を迎撃するのが主任務とされているが、戦闘態勢に入ると、予備として最前線で戦闘をすることもできるように訓練されている。
今回は、元々乗り込む予定の人が、虫歯になってしまったため、ここに出てきているのだ。
「後方、ミサイル感知。フレア放出…回避確認」
コックピットから、爆発の衝撃波が視認できる。
「やべえな、あんなのに当たったら、一発だ」
操縦桿の手も、じっとりと汗ばんでくる。
その時、妙な動きをしている船を見つけた。
「…なんであいつだけ、戦闘宙域から離れてるんだ」
それは、欧州連盟側の宇宙船だった。
乗組員もいると言うAIの情報だったが、見た目は貨物船のように思える。
現に、貨物船だと判断したうえで、人道的見地から攻撃を控えるようにと言う命令が、狩留艦長から出されていた。
しかし、轟大尉が見たのは、貨物船とは思えない武装だった。
「流れ弾と言うことにしたら、始末書書かなくて済むかもな」
そう思い、敵戦闘船の後ろから、うまく逸れるように弾を発射した。
その弾は、弧を描き、地球の重力にひっぱられる形で貨物船へと向かっていく。
だが、当たる直前に、電磁フィールドに阻まれた。
「電磁フィールドを感知、戦闘区域外の船にて電磁フィールドを利用した防御反応を感知」
AIがすぐに報告をする。
轟が今回撃った弾は、信号弾と言う種類で、通常であれば危険な状況に陥った時に放出するものである。
なので、すぐに畿内から連絡が来た。
「轟大尉、信号弾が発射されたようだが、大丈夫か」
艦長直々に、轟へ連絡が入る。
「ええ、大丈夫です。それよりも、欧州連盟の船って、貨物船にも電磁フィールドはるんですかね」
「いや…初耳だな」
「あの、最初から戦闘中域外のあの貨物船、もしかしたら貨物船じゃないかもしれませんね。どうしますか」
「少し叩いてみるか。よし、轟大尉、あの貨物船を叩いてみろ。威嚇射撃を許可する」
「了解しました。貨物船に対して威嚇射撃を行います」
そう無線でやり合うと、鼻先を敵弾がかすれながらも、貨物船に近寄った。
時には、仲間が敵の気をそらしてくれ、また別の時には自らが一気にしかけたりした。
そして、貨物船までの距離が1kmまで近寄った時、AIを利用して、走査を行った。




