61.番外編(8)
宇宙からの武器ということで、古来から考えだされていたのは、レーザーだったり核兵器だったり。
その中で、衛星を武器として、目的のところへ誘導しつつ落とすという方法を考え出した。
衛星爆弾という俗称で呼ばれているそれは、衛星が打ち上げられた時から考えだされていたものではあったが、実際に創り出した国は、世界でただ一つだけしかなかった。
そのひとつの国こそが、日本皇国。
上空3万6000キロにある静止軌道上に、通常は載せているのだが、一度指令が届くと、目的地から誤差数メートル地点に、落とすことができるのだ。
他の国でも研究は続いており、今でも模索が続いている。
だが、誤差が数キロメートルとなったり、指令が届かず、動く事ができなかったりと、失敗が重なってしまい、ひとつ、またひとつと抜けていった。
その衛星爆弾を造った、燦然と軍事技術史に輝く星の一人である謂沙正二郎は、大阪大学工学部を卒業後、同大学大学院工学研究科機械工学専攻を卒業し、博士号を得た。
その博士論文こそが、衛星を軍事利用する関連のものであった。
それを買われ、陸軍省所管の研究所へ就職し、衛星爆弾を造ることに成功した。
「謂沙博士」
そんな謂沙博士の部下である代古将蘢が、廊下を歩いている博士を呼びとめる。
「どうした」
「政府がお呼びですよ。衛星爆弾について、実際に使用に耐えうるのかどうかを確認したいとのことです」
「内密なものなのか」
「おそらくは」
「わかった、では君も来なさい。何かあれば、君にも聞かれるだろうが」
「分かりました」
二人は、そのまま連れ立って、政府官庁へ向かった。
「失礼します」
閣議室とプレートがかかっている部屋に、二人はそのまま入る。
「軍務総省大臣閣下、内閣総理大臣閣下、および閣僚の皆様方。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
謂沙博士が、すらすらと述べる。
「挨拶はいい、話してくれ。衛星爆弾とは、どれほどの威力があり、軍事的有用性はどのような程度なのかを」
軍務総省大臣がすぐにでも聞きたい様子で、言った。
「ええ、わかりました。では、概要からお話しします。衛星を兵器とし、再突入させたのち、もしくはそれ以前に目標となる地点を通信します。これらは、北緯もしくは南緯並びに東経もしくは西経からなる座標として送られることになります。この送信された座標より、距離にして約100mの範囲で落とすことが可能です。そのための素材としては、再突入に耐えうるもの、殺傷性を高めるために内部に強力な火薬類を仕込ませたもの、座標をロックするための諸々の装置が必要となります」
「それで、衛星を上空3万6000kmから落とすのか。できるのか」
「ええ、技術的には可能です。ただし、半径100mが誤差範囲となるのは、現在のところ、改良中です。なお、静止衛星軌道上に置かなくとも、月より放出することにより、より高速なエネルギーを得ることが可能となります。こちらの場合も、先ほどと同様の素材が必要となります」
「ふむ、つまりは、それらの素材さえあれば、量産は可能ということだな」
「ええ、その通りです」
大臣が続けて質問をする。
「国際法とはどう対処をつけるつもりだ。何かしらの理由がなければ、国際世論から叩かれることは必定だ」
「それは、研究用衛星だといえばよろしいでしょう。詳しいのは、法務大臣もしくは内務大臣にお任せします」
博士はそう言って、法律面の問題を避けた。
「わかった、では、もう一つ聞く」
「なんでしょうか、首相閣下」
「これによる軍事的有用性について、答えてもらっていないようだが」
「上空より襲来する隕石を、どのようにして迎撃するのでしょうか。つまり、そういうことです」
「…そういうことか」
首相は、何か納得したような表情で、しかし、不服そうな感じでうなづいた。
「ほかに、ご質問はありませんでしょうか」
謂沙博士が、閣議の面々に聞く。
「無いようですので、我々はこれで研究へ戻らさせていただきます。それでは、失礼いたしました」
敬礼をし、二人は部屋から出た。
そして、この閣議により、政府レベルで衛星爆弾についての研究を行うことを決定。
その研究の総括をする人物として、謂沙博士を充てた。
それが、今の衛星爆弾ができたことにつながってくる。
だが、それはまた別のお話。