5.
第6章 第3次世界大戦への序章
アメリカ、カナダが条約により国家連合の形になってからしばらくの間、日朝戦争は何事も動いてはいなかった。
ただ、旧韓国領と旧北朝鮮領の間には、広々とした荒野が、いつまでも広がっていた。
日亜露の3カ国はロシア側の、欧印中は中国側の石油を使用していた。
しかし、米加の2カ国は、自らの石油備蓄が底をつきそうになっていた。
「アメリカ側にある石油資源も、もう間もなくとりつくすことになる…」
「どうするのですか。中東地方は反米ですし、アジア諸国も、日本に従っています」
「中国と交渉をしてみたか?」
大統領同士が、話し合っていた。
「してみましたが、他人にやるほど、心が広くないようです」
「あと、残っている地域といえば…」
「アフリカ諸国ですね。しかし、あの地域は現在も紛争が絶えません。行くにはかなりの覚悟が必要になるかと…」
「ドルの価値も急落し、いまじゃ1円が98ドルになり、1ユーロが53ドルになっている…」
「相手側は、円かユーロでの決済を要求するでしょう。現在の2大通貨ですし、世界で通用します」
「…どうするものか…」
2人は、悩んでいたが、ふとアメリカ側の大統領が思いついた。
「そうか、攻め込めばいいんだ」
「あっさりしてますね。でも、国際情勢がそれを許すでしょうか」
「許すにきまってる。超大国と言われた国が、再び超大国にのし上がろうとして何が悪い。そうときまれば、すぐにアメリカ軍を動員して、石油基地を占領しよう」
カナダの大統領はため息をついた。
「…しかたがない。協力しましょう。ただ、条件として、その石油の半分をいただきます」
「ああ、だいじょうぶだとも。さっそくプランを立てないと…」
こうして、条約連合として成立した米加連合は、名目上は現地の平定ということで、アフリカに進駐した。
一方、その情報を聞いた中印欧は、悩んだ。
「現時点で、日本側を叩けば、すぐにでもアメリカを叩き、自らが超大国とすることができる。しかし、相手はあの日本だ。何をしてくるかわからん…」
ヨーロッパ連邦大統領、ジャンクスは欧中印会合の場でぼやいた。
「それに、彼らはロシアとアジア諸国を味方につけ、オセアニア地域も、日本側に立っています」
「アフリカ地域は、混とんとしていて、どちらにつくかはいまだにわからないと…」
ここで、初めて中国の代表者が言った。
「われわれが一丸となれば、日本を倒すこともたやすいでしょう。しかし、その前には朝鮮半島の独立及び平定が不可欠です」
「朝鮮王国の話か。いまでは旧北朝鮮領しか残ってないではないか」
ジャンクス大統領が言うと、中国代表は笑った。
「日本の弱点を知っていれば、たやすいことですよ。植民地支配の復活だと言って、国内の親中派を動かします。そうすれば、簡単に日本は休戦協定を結ぶでしょう」
「なるほど…だが、それは過去の日本だろ。今では違うのではないか」
インド首相が言うと、中国は再び笑った。
「今でも変わりませんよ。日本国内には、親中派、親朝派がいますからね。大々的に動かせば、何も問題はありません」
そう言って、彼は会議場を出て行った。
翌日、日本皇国国会議事堂前で、デモ行進が行われた。
内容は反戦運動だったが、そのスローガンは日本が朝鮮で行っていることは第2次世界大戦の前で行っている植民地支配とおなじだと言っていたのだった。
だが、日本皇国政府首相は、まったく動じなかった。
翌日の閣議の場で、首相は閣僚から聞かれた。
「朝鮮との戦争の間で、侵略戦争だという話がありますが。どうでしょうか」
「単純な話だ。これは侵略戦争ではない。そもそも、韓国併合も、向こう側が望んで行ったことだ。こちら側には非はない」
「それは、当時の話でしょう。今はどうなんですか」
「朝鮮王国は、そもそも国家基盤が破たんしていた。それから見ると、日本に取り込まれる方がよりよい暮らしができる。もしも嫌だというのであれば、1ヵ月後に行う予定の独立を問う国民投票によって、独立賛成を勝ち取ればよい。ただそれだけの話だ」
「それまでの間には、休戦協定を締結するのですね」
「ああ、そうだ。来週その会合がある。スピードが命だ」
そういうと、首相は閣議室の天井を仰いだ。