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第52章 露欧国境戦線日本皇国観戦武官
「どうしましたか」
ロシア側の司令官であるミハイル・グンジャエフ陸軍大将が、すぐ横で双眼鏡を覗き込んでいる下井田徳多駐露武官に聞いた。
「いえ、ただ、あのような強力な武器が、我々も欲しいと思いましてね」
双眼鏡の先には、牽引されている砲があった。
「1分20発、射程距離が実測で310km、想定では400kmという。まるで短距離ミサイルですよ」
「あの砲が作れたのは、日本皇国の優秀な技術者の皆様の御蔭ですよ」
笑い声は、轟音にかき消される。
その砲を1発撃つだけで、周囲500mに轟音が響き渡った。
その轟音は、3km以上離れた彼らが居るところにも十分届く音である。
「ところで、相手のご様子はどのような感じなのでしょうか」
下井田がグンジャエフに尋ねる。
「ああ、欧州共和国は今までと同じですよ。空軍、陸軍が一体となりロシアと戦闘中です。もっとも、宇宙からの指示があることも事実のようです」
「欧州宇宙軍ですね。彼らの対応はどうするのですか」
「…実は、貴殿に任せたいと考えています。ロシアは宇宙軍を有しているとはいえ、日本皇国と比べれば弱い。それに、日本皇国には航宙空母もあるではないですか。あれらを活用すべきでは」
「その件は、上層部に報告します。どうなるかは分かりませんが」
「ありがとうございます」
グンジャエフが礼を述べる。
そこに、伝令が知らせてきた。
「欧州軍が動き出しました。海から攻めてくるようです」
「なるほど…三面作戦でしょうね」
「海陸空から同時に攻めてくるということですか」
「ええ。おっと、これらは観戦武官が口をはさむようなことではないですね。失礼いたしました」
下井田はほほ笑みかけながら言った。
「いえ、どのようなことでも歓迎しますよ」
「その前に、上層部へ先ほどの宇宙軍の件を報告させてもらいますよ。言っておきますが、あまり期待しないでください。どうなるかは分からないので」
「大丈夫ですよ」
グンジャエフ大将は、そう言いながらもニンマリとしていた。