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皇国戦記  作者: 尚文産商堂


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53.

第49章 満露国境線


満露国境線では、増強してもらった戦車部隊、空挺部隊を隷下にし、さらにロシア側の協力もあり、戦争開始前より比較して、2倍ほどの兵力を有するまでに膨らんでいた。


日本皇国軍満露駐留軍司令長官である澤井義一(さわいよしかず)陸軍大将は、広大な草原地帯となっている国境付近から、満州方向をじっと見ていた。

そこに、後ろから誰かが歩いてくる。

「……大将閣下」

「スバロフスクさんでしたか」

澤井大将が後ろを振り向くと、満露国境地帯石油公社社長であるスバロフスク・ミハイルが、スーツ姿で立っていた。

「朝鮮半島で戦闘が起きたそうですよ」

ミハイルが、淡々と教える。

「らしいですね。こちら側ももうそろそろ来ると思うんですよ」

地平線を見つめる目には、わずかに見えている土煙りの(もや)をじっと見ているようだった。

「宇宙軍から通報がありましてね。中国の2個戦車大隊が、こちらに来ているそうです。合わせて、爆撃機が出撃をしたという情報もあります」

「大丈夫なのですか」

その話を聞いて、若干青ざめたような表情お浮かべながら、ミハイルが澤井大将に聞いた。

「ええ、すでに空軍のほうは宇宙から攻撃を加え、文字通り全滅したという話です。我々は、これから地上から来る部隊に全力を注ぐことになります」

ミハイルに澤井大将が説明を行う。

「これから、参謀会議をして、どのように向かい討つかを決定しなければなりません。このあたりの地理は、一応把握していますが、あなたのほうが、このあたりにいる時間が長いでしょう。もしよろしければ、同席していただきたいのですが」

「私のような者でよろしいのであれば」

徐々に大きくなる土煙りを見ながら、二人はそう言いあった。


地下に設けられた指揮室では、すでに幕僚たちが勢揃いをしていた。

「澤井長官、作戦はどうしますか」

参謀長が澤井大将に聞いた。

「敵はすでにこちらに向かっている。空軍の部隊は全滅させたそうだが、地上の部隊は、我々が何とかしなければならない。ここの地形はどこまでも広がる草原地帯だ。戦車の類は、一発で居場所がばれるだろう」

「あの兵器を使うのは…」

「その具申は受け入れることはできない。衛星兵器は最終手段だ。その使用の決定は、御前会議を通す必要がある。まずは、戦車部隊を前面に出す。高射部隊は、戦車の後ろにいてほしい。歩兵は、さらに後ろだ。ロシア側から受けた兵力については、どのようなものがあったかな」

参謀長に澤井大将が聞く。

「大隊規模で、ヘリコプター部隊、2個戦車部隊、2個高射部隊、偵察部隊、小隊規模で、2個装甲歩兵部隊です」

「ヘリコプター部隊は、上空から、戦車部隊は地上からの攻撃を行ってもらいたいな。装甲歩兵というのは、どのようなものなんだ」

「装甲歩兵は、装甲車両に乗り込んでいる歩兵部隊です。ただし、1両当たり1小隊しか乗せることができません」

「火器は?」

「軽機関銃が2丁、運転席を挟むように前面に向けて置かれています。天井から重機関銃を撃つことも可能ですが、そのためには、機関銃を新たに備えることになります」

「標準で軽機関銃2丁か。まあまあだ」

「どうしますか」

「彼らも高射群の後ろで待機だ。ただ、全て突破された時には、最前面に行ってもらう」

「分かりました。伝えておきます」

「社長、このような布陣でいいと思われますか」

「ああ、大丈夫だろう。ただ、敵は広くから来るかどうかわからんな」

布陣を示した図を覗き込みながら、ミハイルが澤井大将からの質問に答える。

「敵の状況は…」

参謀長がミハイルの質問に代わりに答えた。

「2個大隊規模です。上空からの偵察によれば、戦車のみで現在は単縦行進をしているそうです。沼も何もないところですから、そのまま突っ込んできて、強行突破。もしくは、前方、左翼、右翼より突撃のどちらかに絞られると考えています」

「こちら側の索敵が行われているんですか」

ミハイルが参謀長に問い返す。

「大気圏内では、行われていません。全て追い払いましたし、敵は高射砲を搭載している戦車も連れているので」

「では……」

どこで、という言葉をいう前に、澤井大将が天井を指した。

「宇宙からですよ」

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