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第48章 月面県における戦争
月面県では、本土である日本皇国からの指示を待っていた。
しかし、待つ一方で、宇宙軍の設備の緊急点検、陸海空軍による防衛力の強化、民兵を組織することによる兵力増強を図っていた。
もちろん、知事も先頭に立ち、さまざまなことをしていた。
そのことの一つに、他国の月面基地の状況把握があった。
「どうだ」
知事が宇宙軍の駐留部隊の隊長に聞く。
「朝鮮半島の一戦以来、月面基地とそれぞれの本国との間でのデータ通信料が非常に増大しています。比で言いますと、戦争をはじまる前と比べ、約50倍になるかと」
「その内容は?」
「解読ができた範囲では、現状を確認し、指示を請いでいるようです」
「なるほどな、相手側は自分で動く権限がないのか…」
「どうしますか」
陸軍の隊長が聞く。
「見張りを続けておいてくれ。何かあれば、すぐに連絡を」
「了解しました」
一礼し、軍の隊長は全員出て行った。
「どうしますか、戒厳令は布告していませんが…」
「遠からず将来、出すことになるだろう。でも、今は時期じゃない」
秘書に聞かれて、知事は言った。
「そうでしょうか」
「…議会には諮るつもりだ。行政戒厳の宣告には議会の承認が必要だからな。それから、内務大臣へ報告をしてから、宣告という流れだっただろう」
「議会が承認すると同時に宣告もできます」
秘書が持っていた電子手帳を見ながら言った。
その手帳は、皇国で有効な全法令、判例や現在の予算などが載っていた。
「…軍の力がどうしても必要になりますね」
「ああ、だから、彼らとすり合わせが必要になるんだ。その時間を先に取りたい」
「なら、先ほど言えば…」
「分が悪い。いろいろ資料を集めてからじゃないと」
「どのような資料を」
秘書が手帳のメモ機能に書いて行く。
「まずは、戒厳令の規定、軍令や軍政の規定も一通り知りたいな。施設の使用についてと、報告についても」
「分かりました。いつまでにそろえておけばよろしいですか」
秘書がメモをしながら、知事に確認をした。
「他に必要だと思ったら、適時加えてくれ。できれば次の会合だから…」
知事が持っているメモ帳を見ながら、秘書に指示を出した。
「明日の午前10時までに」
「分かりました。明日の10時までに揃えておきます」
秘書が言って、部屋から出た。
残された知事は、ぼんやりと空を眺めながら言った。
「戦争か、この時代に起きるとは思わなかったな……」