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第44章 閣議
日本皇国の戦車部隊が中国が実効支配をしている領域に侵攻を始めたという話は、すぐに皇国の全閣僚に知らされた。
首相は、緊急の閣議を招集し、今後の対応を話し合った。
「賽は振られた。今後、どうやってこの戦争を乗り切るかについて、話し合いたいと思う」
首相が質問を提示する。
すぐに財務大臣が答える。
「現在、皇国の軍事費はGDP比にして5%に上っており、これは年間国家予算の10分の1になります。現状のまま推移していくとすれば、3年戦うのがやっとといったところでしょう。それまでに解決がしない場合は、国家破たんという道が待ち受けています」
「外債は?」
外債とは、外国に対して発行している債権という意味合いで、ここでは使っている。
「全国債中99.4%は国内に償還され、残り0.6%が広義の外債とも言うべきものです。現在のところ、国債については問題ないです」
「そうか、では主論へ移ろうか」
首相が、閣僚を前にして、書類を配った。
「今回、朝鮮半島において起こった出来事について、仮にも名前を付けるとすれば、"第2次朝鮮戦争"といえるだろうな。さて、今現在、向こうに駐留している戦車部隊の一つが、進撃を始めた。これをどうやって短期間で納めるべきだろうか」
「いいですか」
軍務総省大臣が手を挙げる。
「ああ、かまわない」
「短期決戦で行うのが一番だとは思いますが、長期戦になる恐れもあります。おそらく1年かそこらになると思います」
「なるほど、1年か…人的損害については?」
「最低で3千から1万。最高で数十万から数百万にのぼると思われます。主戦場としては現状では朝鮮半島、満露国境を予定しています。中長期的には、満中国境、朝中国境付近になるものと思われます。台湾付近も戦場となる恐れがあります」
「中華民国か。台湾が国土だったな」
「ええ、有望な油田地帯である尖閣諸島がある地域ですが、過去から今に至るまで、"原油"というのは、国を動かす血液のようなものであります。車、飛行機、バス、戦車、戦闘機など様々なものにガソリンや重油が使われています。さらに、我々が着ている服、火力発電用の燃料、ゴム、本なども石油より作られております。そのように使う用途が非常に幅広い石油は、むろん、台湾も中国も欲しいはず。よって、この海域にも艦隊を派遣するべきであると思われます」
「台湾と一戦交えるのは、敵がこれ以上増やさないという意味合いでも重要であるし、そもそも、彼らは我々の味方ではないか。敵となることはありえるのか」
首相が、軍務総省大臣に聞き返す。
「無論です。味方が寝返るというのは有史以来幾度と行われてきたことです。しかし、当面の脅威は、中国が有している艦隊でしょう。インド、欧州より技術供与を受け、我々と遜色ないほどに発達しているものと、容易に推定できます。それを超えるための技術開発を、我々も進めていかなければなりません」
「費用はどうするんですか」
ずっと聞いているだけだった財務省大臣が、急に反論を始めた。
「軍事費に回さざるを得ない時勢で、それであって一般研究費をひねり出せっていうのは、難しいですよ」
「なぜ、一般研究費で支出しなければならないのですか。軍に直結する内容ならば、軍事費で支出できるでしょう」
軍務総省大臣があっさりと切り捨て、首相に提案した。
「首相、決議を求めます」
「では、決議をします。賛成の方」
過半数が手を挙げた。
「反対の方」
首相を除き、賛成といわれて手を挙げなかった人が手を挙げた。
「では、過半数として、本事案は軍事費により支出するものとします」
単純にまとめると、首相が次の議案を提示した。
「戦時内閣を組閣をする?」
総務大臣が聞き返す。
「そう。今の状態だと、多少の変更があったが、平時の時と変わらない。よって、大規模な変革が必要なんだと思う。すでに案も用意した」
「それは重要なことだと思いますね」
総務大臣がそのまま答える。
「では、決議をとる。賛成の方」
全員が手を挙げた。
「反対はとるまでもないようですね」
その結果、複数の省庁が統廃合され、閣僚も閣議に常時参加する常務閣僚といわれる役職と、その下部省の一般閣僚と分けられた。
常務閣僚は、内閣府の長である内閣総理大臣たる国務大臣、財務省大臣、軍務総省大臣、外務省大臣、内務省大臣、総合国土省大臣、文部科学省大臣、経済産業省大臣となった。
下部省の大臣、大臣待遇長官は、内閣府の下部にある宮内庁長官。
財務省下部にある会計検査院長官、統計院長官。
軍務総省下部にある、空軍省大臣、海軍省大臣、陸軍省大臣、宇宙軍省大臣。
内務省下部にある、公安省大臣、公安省下部の特別警察長官、法務省大臣。
総合国土省下部にある、国土省大臣、国土省下部の国土防衛隊長官、交通省大臣、交通省下部の海上保安庁長官、同じく下部の航空保安庁長官、環境省大臣、環境省下部の気象庁長官。
経済産業省下部にある、経済省大臣、産業省大臣となっていた。
なお、常務閣僚については、常に閣議に参加しなければならないとされた。
常務閣僚以外の大臣の役職に就いている者は閣僚とみなされ、閣議に参加する権限がある。
一方で、上記に記した大臣待遇長官は、上部組織の大臣より許可を得れば、自由に閣議に参加でき、発言をし、閣議において投票する権限を持っていた。
それ以外の長官以下の役職に就いている者は、上部組織の大臣より許可を得ても、発言ができるのみの権限にとどまることになっている。