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第39章 駐留軍幕僚会議
皇国政府は、現在の戦闘状況を確認するのに終始していた。
一方で現場では、中国軍の猛攻にじりじりと後退を余儀なくされていた。
「角良司令長官、先発していた戦車大隊は転進を余儀なくされ、この基地も危ないです」
「……」
朝鮮半島南部日本皇国駐留軍幕僚会議は、かなり重苦しくなっていた。
その重苦しい空気の中で、角良は口を開いた
「中国軍は、一気に我々を攻め落とすつもりなのだろう。そうしたら、皇国は朝鮮半島という要を失うことに繋がる。それは避けなければ…」
幕僚の一人が言った。
「宇宙軍に要請をして、上空から視察を続けてもらっています。現在は、旧軍事境界線上にて制止している模様。こちらの出方をうかがっているものと思われます」
「…さすがに、あの兵器を使うわけにはいかないからな。アレを使うのは、もっと危機が迫ってからだ」
角良がもごもごと言ったことに、すぐに参謀が答える。
「衛星爆弾のことでしたら、本省の許可がいりますよ」
衛星爆弾とは、通常は衛星として使っているが、有事の際には隕石のように地表へ落とすことが出来る衛星の皇国の呼び名である。
しかし、いままで一回も実戦で使用したことはなく、本当に使えるのかと危ぶむ声もある。
「仕方ない。空軍による地ならしをしてから、再度戦車を進めろ」
「どのような陣形で行きますか?」
角良が指示をし始める。
「確か、ここには4つの戦車大隊、3つの航空機部隊が常駐で、もしもの時には、本国から飛んできてくれるという手はずになっていたな」
「ええ、ですが、本国で発生した内乱によって、一部の部隊はこちらに来れないと言うことです。極力、我々だけでどうにかしろと」
「…中国軍の居場所は分かっている。補給線も分かっている。海軍と協力をし、海上に機雷を敷設、同時に中国軍の補給線を出来る限り空爆せよ。同時に戦車大隊は中央突破部隊、左翼と右翼より回って進軍する部隊と分け、補給線の分断が完了してから空軍の航空機部隊も合流し、一気に叩く」
「了解しました。では、すぐに軍部へ通達します」
軍部は、旧大日本帝国軍時代では軍令部が所管していた軍令と軍務局が所管していた軍政についてを一つの組織としたようなものである。
軍令とは作戦の立案や指揮を直接的にする業務のことであり、軍政とは軍隊を維持していく上で必要な行政活動のことを指している。
大日本帝国時代は、軍令部は天皇に直属ということになっており、軍務局は当時の陸軍省、海軍省に設置された一機関とされていた。
それによって軍令部と軍務局同士が刮目することも多々あり、その反省を生かすという形で、各軍共通という各軍所管外の組織として設置された。
なお、軍部は軍務総省大臣直轄であり、立場上は各軍と同格とされたが、戦場においては指揮官がもっとも上であり、その下に就くという暗黙の了解が出来ていた。
それぞれの師団や旅団、派遣軍には、軍部からの出向者が1名以上居ることになっており、今回はその者に通達すると言うことによって、軍部への通達の代わりをすると言うことになっている。
5分もしないうちに軍部への通達を済ますと、上空より撮られた写真を見ながら、地形図とともにどこへ陣地を敷くかを検討していた。
「中国軍が、我々の出方をうかがっているおかげで、どうにか作戦の立案が出来るのはありがたいことだな」
角良はそういって空笑いをした。
そのとき、バンと幕僚会議をしていた部屋の扉が開かれ、伝令が息を切らせて滑り込んできた。
「急の用にて失礼します、中国軍の斥候を捕まえました。現在、敵方の情報を入手しようとしているところです」
「そうか、そのことをそのまま本省に連絡してくれ」
「了解しました」
そう言い残し、息を切らしたまま、最後にやっとの思いで敬礼をして、伝令は再び走り去っていった。
「捕虜については、捕虜科に任せることにしよう」
各軍共通の情報部に捕虜科はあり、捕虜については全てそこに情報を集めるということになっている。
その情報は、すぐに本省とアメリカにいる中央捕虜情報局に伝えられることになっている。
それらのことは、俺達は一切関知せず、行うのは、国際条約に基づいた捕虜の収容等だけだ。
その他、必要なことをすべて決め、伝令を呼び、先に各大隊や各軍へと通達をしておいた。
そこまでしておいてから、角良は幕僚たちを見回して言った。
「行こうか、俺らの戦争へ」
幕僚たちを引き連れて、安全な部屋からゆっくりと出た。
作戦の指揮は陣頭で取るべきだと、角良は考えていたからだ。