34.番外編(6)
翌日、私たちは『伊丹駐屯地』にいた。
人事少佐である繁居は、いったん人事課へ行ってから私たちを駐屯地司令である第4軍副軍隊長に会うことになっていたが、偶然にも軍隊長も一緒に会えることになった。
普通なら入らないような豪華な部屋で待たされること5分。
萌葱色をした服を着た人が二人入ってきた。
同時に繁居は直立不動で敬礼をした。
「お時間を取らせてしまい申し訳ありません、閣下」
「いや、いいんだ。楽にしてくれたまえ」
「はっ」
どっちが副隊長でどっちが隊長か、私たちはすぐに区別がつかなかった。
「えっと…」
私たちが立ったままでいると、ひげが生えた方が座るように言った。
「さて、第4軍へようこそ。月からのお客は初めてだから、どう対応すればいいかわからなくてね」
ひげが生えた人が座ったところの前にある三角柱に名前がつけられていて、"横山平滝陸軍大将"と書かれていた。
「陸軍大将なんですか」
「そうだよ」
私が聞いたら、おやと軽く驚いた顔を私に向けてきた。
「偉いんですか」
「ああ、私の上にいる階級は陸軍元帥だけだからね」
私から見て、けっこう朗らかな人に見えた。
「それで、月の様子はどう?」
「ええっとですね。こっちと変わりませんよ。ただ、重力が違うから、物があまり落ちてこないんです」
「3分の1だったね。それで、軍のことなんだけど…」
「警察みたいな仕事をいつもしてますよ。次の年度の時に、警官が初めて入るので、それまでの間という期限付きですけど」
「学校の先生もしてくれるし、かなり助かってるよ」
私が言った後に、続けて和代が話す。
「そうかそうか。それはよかった」
「それで、第4軍ってどんなことしてるんですか」
一瞬、ようやく来たといった顔が見えたような気がした。
「日本を5つにわけて、第10師団[守山駐屯地に司令部]、第11旅団[大津]、第12師団[千僧]、第13旅団[宇治]、第14師団[善通寺]、第15師団[海田市]を統括しているのがこの第4軍だよ。敵が万に一つないと思う可能性で皇国の領土に進攻してきたとき、自分たちが国民を保護し逃がす目的を第一として、敵の侵攻を食い止めて追い出す係りなんだ。ちなみに第4軍は中部、近畿、四国・中国地方を活動場所としてるよ」
「陸軍大将って言ってたけど、繁居さんは人事少佐っていう肩書になってるし、他にもあるの?」
太古が彼に聞いた。
「ああ、そうだよ。陸軍なら、憲兵、近衛、参謀、砲兵、工兵、航空兵、輸送、補給、戦車、偵察という各兵科と、技術、経理、医療、軍楽、情報、法務、人事という後方部隊の2種類があるんだ。ただ、全部が一つの師団にあるわけじゃなくて、その中からそれぞれの師団の情勢に合わせて組み合わせるんだ。ただ、後方部隊はたいていのところにはそろってるね」
「それで、その各科を頭につけて階級と組み合わせて肩書にするっていうことですね」
「そういうこと」
私たちにくれた宣伝用プリントに書かれていないことも、いろいろ教えてくれる。
階級表と書かれた紙もくれたが、そのままファイルへ収まっただけだった。
「あの、これから別のところへ刊行する予定があるんですけど…」
30分ほど、彼らと対談をしたところで、繁居が軍隊長に話す。
「そうか、それではこのあたりで失礼しよう」
残念そうな表情を浮かべている二人が立つと、私たちもつられるようにして立ち上がる。
「また、お会いしたいです」
「こちらこそ」
握手を交わして、私たちが先に部屋の外へ出た。