33.番外編(5)
『大阪』近郊のあちこちに私たちの仲間は散らばった。
1週間以内に近郊の有名なところを観光する手はずになっている。
私たちは、『宝塚市』にある繁居の家にいた。
「いろいろまわってもらおうと思って、観光地図を買ってしまったよ」
中学生の一人娘がまだ学校に行っているため、家にいるのは私達と繁居夫婦だけだった。
「でも、どこに行きたいかは先に聞いておこうかな」
「『ユニバーサルスタジオジャパン』や『大阪 梅田』に行ってみたいな」
和代が観光地図を受け取りながら言った。
月にいる間に、大阪のあたりのことをずっと調べていた。
どこに遊びに行こうかとか、どんな歴史があるかとかをレポートにまとめてクラス内発表もした。
だが、そんなことは現地に来たらスッポリと頭から抜け落ちて、観光地を回るということになりつつなっていた。
「"USJ"と"キタ"だね。えっと、ただ明日は軍の方へ来てもらえるかな」
「どうして」
「月面に派遣されている陸軍は、ここからの出向という形になっているんだ。それで軍団長が向こうの情報を知りたいって言っていてね」
「生情報を聴かせてくれる私たちが来たから、好都合だっていうことですか」
「んー…まあそういうことになるね」
今回の旅行の費用の半分は、軍を中心とする月面県側が支出しているし、残り半分は学校が出している。
それに、後々に書かされるだろうレポートのうち、優秀者は月面県の県会館の中に展示されるということになっている。
ということは、その中に軍の話を入れさせて、それを誰かに読ませて軍の志願者を増やそうという目論見じゃないのかと、私はかなり深読みをしていた。
「しょうがないか」
私は繁居に言った。
「軍といっても、このあたりにはあちこちにあったでしょ。どこに行くの」
陸軍だけでも関西圏には第12師団と第13師団と命名された2つの師団があった。
日本全国には、総計20の師団又は旅団があり、それらは5つの軍という単位にまとめられていた。
海軍や空軍に関しても同じことだったが、数が変わった。
ちなみに関西圏にある他の軍の駐屯地は、海軍は東灘に第6艦隊本拠地、空軍は白山に第7航空隊、経ヶ岬に第6航空隊、八尾に第10航空隊がそれぞれ配備されていた。
第6艦隊は瀬戸内、空軍は四国、中国に配備されている航空隊とまとめて近畿、四国、中部を管轄することになっている。
「第12師団と第4軍指令室だ。今回は特別に軍隊長と会えるようにセッティングしたから」
「そんなに偉い人?」
和代が繁居に聞く。
「ああ、中将や大将クラスが軍隊長をすることになってる。陸軍なら日本全国を5つの軍管区にわけて、その一つのすべての権限を担うんだ。それぐらいの地位になるみたいだな」
その時、ピンポーンというチャイムの音が聞こえてきた。
「娘が帰って来たね」
繁居は立ち上がり、玄関へ向かった。
「ただいま~って、いらっしゃい。月からの?」
「そうだよ」
太古が彼女に話す。
「初めまして、繁居井西と言います」
私たちが立ち上がると、彼女と背比べを無意識にしていた。
「あれ、身長あまり変わらないですね」
井西は私に言った。
「月で生まれた人は、低重力の影響で体が大きくなる傾向があるのよ。ただ、誰でも月に暮れば骨がもろくなるから、私たちは毎日、それを防ぐためのクスリを飲むことになってるんだけど…」
「だけど?」
井西はカバンを机の横に置きながら言った。
「地球へくる最中に聞いたんだけど、あまり意味がないんだって。骨太になって骨折しにくくなるから、成長期に飲んでおくことは無意味じゃないらしいんだけど……」
「いいんじゃない?」
井西が私たちに言う。
「お医者さんが言ってることなんだから、飲んでおいて損はないみたいだし、それだったら、飲んだ方がいいと思うよ」
それから、中学校からのプリントを親に渡して聞いた。
「それで、今日のご飯は?」