32.番外編(4)
1週間後、定期船に乗り込み、両親が見送るのを背に地球へと出発した。
「初めての地球、どんなんだろ~」
楽しそうに笑っているのは、和代だった。
すぐ横にはいつも通り、太古がいる。
船の中はかなり太い鉛筆のようになっていて、壁面の内側にそれぞれの部屋があった。
私は彼らと相部屋になっているため、地球に着くまでの3日間、ずっと一緒にいることになっていた。
強化プラスチックを何層にも重ねて作られている窓兼床からは、宇宙で瞬く星々がしっかり見える。
この無数の星の中に、私たちも溶けてしまいそうな錯覚に陥った。
数分間、部屋の中でのんびりとした後、太古が船の中を見てみたいというので、先生にメールを送って部屋から出た。
部屋から出ると、重力がなくなり、体がふわりと浮きあがった。
扉を閉める反動で飛んで行きそうになるのを、あちこちにある取っ手をつかみながらゆっくりと速度を緩めさせた。
無重力状態は慣れないとかなり気分が悪くなるという話だったため、乗客は全員酔い止めを耳の後ろに貼ることが義務付けられていた。
シップの小さいものを耳の後ろに貼ることで、長期間酔い止めを飲むのと同じ効果があるらしい。
便利な世の中になったものだと、一瞬そんな言葉が頭をよぎった。
回転軸を覆っている鉄板の近くまで来ると、自動的に警告メッセージが流れる。
「これ以上近付かれると、お客様ご自身に危害が及ぶ恐れがあります。手すりを使い別の方向へ向かってください」
手すりは鉄板の上に無数についているから、好きなものを手にとり先頭の方へ向かった。
前の方には操縦する場所があり、その手前側に遊ぶためのスペースが確保されていた。
娯楽スペースと書かれた場所には、すでに数十名がいた。
重力がかかる場所ではないため、無重力が常時楽しめた。
3次元ドッジボールとかバスケットボールなどをしている中で、私たちは鬼ごっこを始めた。
娯楽スペースのあちこちにある強化プラスチックでできた球状の部屋の一つを使い、他の人たちと混じらずに鬼をじゃんけんで決めて遊び始めた。
途中で、同じクラスの子もやってきて鬼ごっこに混じった。
そんなことを3日間過ごしていると、あっという間に地球へ到着となった。
お世話になった船は宇宙ステーションでさよならして、別の船に乗り換えた。
日本が作った宇宙ステーションで、日本語がずっと壁に張り巡らされていた。
途中には"軍事部門"と書かれた黄色テープが張られているところもあり、軍民両用とされているのがよくわかった。
航宙空母である"大和"も、同型機も最大3機はここを母港とすることができるように設計されていた。
その大きな隙間は外からもよく見えていたが、いちおう軍事機密らしいので、だれもそのことを話さない。
ただ、明らかに上官と思う人がいろいろと指示を出しているのが見えた。
シャトル便で約3時間すると、『関西国際空港』に到着した。
宇宙と地球を結ぶための飛行場として、正式に始動した関空は、東アジア一帯の宇宙航という役割も担っている。
そのためか、あちこちに外国語の表記がぺたぺたと貼られているのが、すぐに目についた。
先生が私たちをひとまとまりの班にして、それらを"組"という単位に分けた。
私は、千島達と一緒になった。
建物から一歩外に出ると、春らしい雰囲気だった。
「ホームステイすることになってるから、そのご家族の方が来られてるはずなんだけど……」
先生が周りを見回すと、同じように近くにいるグループの中で一番身長が高い人が誰かを探しているようだった。
たがいに目が合うと、軽く会釈をして、近づきあう。
「多伎さんですね」
先生にその大男が話しかける。
「ええ、そうです。えっと……」
「繁居です。陸軍ではお世話になりました」
「ああ、そうだったわね」
後ろから、和代が先生に驚いた声で聞く。
「先生って、陸軍にいたの?」
「ええそうよ。結構前にね。私もあのころは若かったわー」
「じゃあ、少尉殿とかって言われてたの?」
「多伎さんは、元大尉だよ。大学を卒業してから何をしようか考えて、結局軍に入隊したんだ。今も昔も変わらず志願兵制を取ってるから、採用してくれるまでずっとねばったっていう話を昔聞かされたよ」
繁居が先生の過去をずっと話す。
「大学で取ってた小学校教諭の資格がこうやって役立ってるのよ。ところで、略式服装で来てもいいの?」
「ああ、部隊の許可は取ってある。陸軍も人員不足でね、志願兵を増やしたいのさ。今は人事少佐として陸軍の裏方作業中だけどね」
「繁居は昔から裏方だったじゃない。ま、私も人のこと言えた義理じゃないけど」
軍についてよく知らないが、裏方と表では2年目から配属され、そのあとは交わることはないそうだ。
30年以上前に出された軍務総省令によってそう決められたと話していた。
「さて、こんなところで油売ってても仕方がないし、ホームステイ先の家として俺が選んだ人たちと会わせたいから、ちょっとこっち来てくれるかな?」
「いいですよ」
先生は繁居の横を軍人のような歩き方で進んでいった。
誰がどこの家に行くかというのは、あらかじめ決めていなかったらしく、その場で代表者がじゃんけんしてどの家に行くかを決めた。
私たちは、繁居の家に1週間いることになった。