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30.

第31章 変わらなかった開戦


勢力圏が小さくなったとしても、連盟国は戦争をするという決意を燃やしていた。

「我々は必ず日本皇国に勝たなければなりません」

中国大使がベルリンで開かれている会議で力説した。

日本皇国側に与えた猶予は残り1時間ほどとなっていた。

「すでに内部から瓦解させ、外部から侵略することは可能です。政府中枢にも我々の仲間がおります」

「後々、彼らの力は必要になる。その時に彼らには一定の余力がなければならない。そのことは理解していますよね」

念を押すかのように欧州連盟代表が話しかける。

「無論です。我々はすでに何処を攻撃すべきかも考慮に入れて作戦を練っていました。1945年に第2次世界大戦が終結して以来、我々が直接戦火を交えたのは1回きり。その1回もすでに遠くになりました。一方で、我々が攻撃を加えて被る損害についてもすでに考えております」

「……攻撃の概略をここで語ってもらうことは可能ですか」

インド代表者が中国大使へ聞く。

「中国は小さくなったとはいえ、10億を越える人口があります。大半を義勇兵として朝鮮半島へ送り、南部を制圧します。そこを拠点とし、対馬と九州を攻略。その時点で沖縄も同時に侵略します。朝鮮王国南部へ進撃をすると同時に、日本国内へ潜伏している間者が行動を開始し、大阪、東京、名古屋、札幌、広島、福岡など大都市を中心に暴動を発生させ統治機構を混乱させます。その機に乗じて日本海側から多数の兵を送り攻撃を加えます。ここまでで2週間を予定しています。本州の本格的な攻略は九州地方を平定してからとなるのは、最前線の基地として有効的に利用を行う予定だからです。ロシアに対しては、満州を一気に駆け抜けることができる機械化師団を動員し満州を1週間で吸収してから牽制となる小競り合いを行います」

「だが、それよりも先に日本皇国が進撃してくる可能性も否定はできない。そうなるとこの計画はご破算だ。それに日本皇国が保有している航宙空母や航空空母軍についても考慮に入れておかなければならない。東南アジアに存在する海空軍も強敵だ。そちらの方もこの計画には入っているのですかな?」

皮肉を言っているようにも聞こえる口調で、欧州連盟代表が中国大使へ聞く。

「無論です。そちらはインドの方々にお願いしようと思います。原子力空母を有しているインド海軍の総力を持って、東南アジア軍を引きつけていただきたいのです」

「その話は、前もって聞いておきたかったですね」

ティーカップにコーヒーと多めのミルクを入れて飲んでいるインド代表者がひとり言のように言った。

中国大使は、その発言を黙殺し、何事もなかったかのように話を続ける。

「もちろん、我々が負けるということも億に1つはあるかもしれません。しかし、勝つことを常に考えておかなければ、勝ち戦も負けてしまいます。武力と気持ち、肉体と精神は切っても切れない関係にあることを、念頭に置いてください」

「こちら側と思想形態が違うといっても、最終的に必要なのは精神論ではなく、常に資源と武力になるからな。その資源分野に関しては我々よりも敵方の方が強い」

「こちらには、それを上回る技術があります。欧州の技術は日本の上を言っていると考えております。すでに日本にできて欧州にできないものはないと、宣言していましたよね」

「昨年の話だ。いまだに有効かどうかはわからんぞ。現状ではごく細いつながりしかない状況で、1時間以内にそのつながりもプツリと切れることになっている。そのような状況で、欧州連盟側のスパイが暗躍し報告を届けるのは困難だ。ネットを使ったとしても、隅々まで監視されているだろう」

一息を入れ、缶コーヒーを飲んだ。

「完全に制御できるような代物ではないと思いますが……」

中国大使が言うと、欧州代表は缶コーヒーを近くのテーブルの上に置くと、中国大使を半ば睨むような目つきで言い続けた。

「量子コンピューターの存在ですよ。ウブスナガミがいる限り、すべてのメールを監視し、気に食わないものは排除するということも可能でしょう。もちろん、メールに限らず、チャット、手紙、宅配などなど、すべての想定できる手段は監視されているといっても過言ではないでしょうね。スパイの一行は、すでに引き揚げさせました。いま日本皇国並びに皇国に与する国々にいるのは、欧州連盟の企業法人に属する人々か、大使などの公的な人のみです。それらの人々も交換船または航空機に乗り込み1時間以内にこちらにいる日本皇国国籍を有する人々と交換することになっています」

「やはり、先ほどの作戦しかないのですね」

インド代表者が、ティーソーサーごとティーカップを缶コーヒーの横に置き、嘆息しながら言った。

「こちらとしては、できるだけ戦争はしたくなかったのですが……」

「外交上のすべての手段がなくなった以上、戦争という武力衝突に踏み切らなければならないのは自明の理でしょう。われわれに勝利の可能性がある限り、それに賭けてみませんか?」

中国大使はそう言って、すべてに決着をつけた。


数分間の秘密会合ののち、欧州連盟、中華人民共和国、インド共和国の連名とそのほかの欧州連盟に与する国々の署名によって、相互防衛条約が発効した。

これによれば、条約に加盟するいずれかの国が条約当事国以外の国と戦争状態に入ったと宣言をした時点で、条約加盟国のすべては戦争状態に入った国に対して最大限の便宜を行うということが取り決められた。

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