29.
第30章 第3次世界大戦リアル前夜
北アフリカ共和国が連盟国から脱退するという話は、すぐさま東京、ワシントン両方に伝わる。
大使を通じて、完全な中立国として動くということを決定したとも伝わった。
それを受けて、東京では大使を緊急招集して相談に入っていた。
「北米条約連合は、欧州連盟を全面的に支援することはないのがわかっている。問題は、北アフリカ共和国が連盟側から脱退し、今後の戦況にどのような影響があるかだが…」
日本皇国首相が大使を集めた会議室で話し始めた。
「現時点で、ウブスナガミが下した結論によれば、資源がすくなることにより短期決戦になる疑いがあるという説が有力としながら、北米条約連合からの輸送船により物資を補給することを考慮に入れるべきだとしています」
「どちらにせよ、われわれの利は少ないということですね」
アジア連邦大使が言い切るが、それを遮るような形でチベット・ウイグル共同連邦の大使が言い続ける。
「しかし、敵国が一つ減るということは、それだけ戦うべき相手が減るということ。個々撃破でいけば、今回の戦争も勝てると思われます。北アフリカ共和国は中立と言いながらも、われわれのほうに好意を抱いているといいます。上手に進軍を行えば、彼らの土地を通過することも可能かもしれません」
「国際法上問題はないのか。好意を抱いているといっても、中立国宣言をした国だからな。交戦中の部隊が行軍する際に何らかの条件をつけられる可能性も否定はできない」
「それに対しては、そもそも不可能であると思った方が、後々のことも考えやすいでしょう。例えば、スイスは永世中立国として、第2次大戦時に連合国、枢軸国問わず、領空侵犯する飛行機を撃墜したという実話があります。そのことを考慮し、戦時国際法も考えに入れるとするならば、どちらに傾いても領域に入るのは得策ではないでしょう」
彼らが話し合っているのは、この場にいる全員に伝わっていた。
「ならば、アフリカ大陸は通れないと考えた方がいいな。ヨーロッパへとたどり着くためには、スエズ運河を通ることが近道。一方、この運河は北アフリカ共和国を構成している『エジプト』が有している。となれば、ここが通れないということになる」
「道は、喜望峰航路しかなくなるということですね」
「海路の場合は、という条件付きでしょう」
渋い声が、部屋中に響き渡る。
大声というわけではないが、よく通る声であることは間違いなかった。
「どういうことですか、首相」
日本皇国首相は、今までじっと耳を傾けているだけだったが、ここにきて発言をしたのだ。
「陸路で行うことも考慮に入れないといけません。ロシアが有している『シベリア鉄道』は、はるか過去の日露戦争の際にも、兵員等の輸送に使われました。鉄道を使用した"動く砲台"、『列車砲』を稼働させることも可能だと思います」
「そうか、列車砲か」
そう言って、首相の発言を肯定する者もいれば、
「いや、簡単に爆撃されてしまうではないか」
といって、否定的な者もいた。
「…ロシアとしてはどうお考えですか?」
喧噪の中、首相がロシア大使に発言を促すと、水を打ったように静まり返った。
「当国は、日本皇国と友好関係を持続させたいと考えております。列車砲を通してもらいたいと思われるのでしたら、シベリア鉄道を貸すこともやぶさかではございません。ただし……」
「ただし?」
大使が意味ありげな目くばせを送りながら、条件を言ってきた。
「但し、我々のヨーロッパ制覇に協力し、ヨーロッパ統治を我々がすることを認めていただきたい」
「……分かった、呑もう」
首相の決断は、勇断と世間では言われたが、一方でマスコミ各社はさらなる軍拡へつながると、けん制する文面が広がった。