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第29章 連盟国内の不和


「…北米条約連合は、我々に与しないことになった」

欧州連盟大統領キープ・クイングルは同盟を結んでいる国々の代表者を一同に集めて会合を開いていた。

その最中に、そのことが知らされたのだ。

「我々の計画では、北米条約連合は日本皇国と反目しあい、こちら側に付くという予定ではなかったのですか」

インド代表として、駐欧特命全権大使ラジュ・シンが、キープに問いただす。

「ああ、その予定だった。キリスト教という一つの精神的なつながりがすでに途切れていたと考えるべきだろうな……」

「多極化した世界では、だれがどこに付くのかを正確に見極める必要があります。日本皇国に対抗するために必要な人材は、中欧印でそろっているはずです。材料は北アフリカ共和国に多量に存在しているので、当面はどうにかなるでしょう」

中華人民共和国代表は、外務大臣の張枇峪だ。

「問題は、それだけではないものと思われます」

「どういうことだ」

「お集まりの皆さん方ならお分かりになられておられると思いますが、日本皇国は量子コンピューターをどこの国よりも早く開発をし、それを月へ設置しているのです」

「わかっている。だからこそ問題なのだ。月へは宇宙条約が適応され、攻撃は一般民以外の地域に限られる」

「ならば、一般民がいない地域ならば問題はありませんね」

「ああ、そうだが…」

一枚の紙を、張は懐から取り出すと、テーブルの上へ滑らす。

ピタッと大統領の目の前で止まると、紙を広げるように指示をした。

「数十年前、すでに没した、日本皇国の外務大臣から仕入れた情報です。その座標は。どこにあたりましたか」

「…月の北極地域の永久影の部分か」

張は満足そうにうなずくと、さらにつづけた。

「一般民居住地域の攻撃がだめならば、秘密基地へ対しての攻撃は可能のはずです。なにせ、そこには何もないことにされているのですから」

「日本側も何も文句を言わないということか…」

「しかしです、一つ問題が発生します」

北アフリカ共和国陸海空総司令官であるデブチ・カルパースは、後方支援から最前線までさまざまなところを渡り歩いてきた人物で、どこに何が、どれだけ、どのような形態で必要かをすべて知っているとされている。

「どうしたんですか」

「日本皇国の中小企業が作り出す数々の部品は、こちらにも必要なものが数多くあります。劣化コピーのようなものでは到底間に合わないような高品質、高精度の部品の数々は、銃の発射装置のようなものにさりげなくつかわれていたり、われわれが使っているコンピューターの中に入り込んでいたりします。それらを考えると、日本皇国と争うことは得策ではないと思われます」

「…我々に同等の品質のものが作れないと?」

片眉をあげ、キープがデブチをにらみつける。

それを見てから、張とラジュがヒソヒソ話を始め、ものの数秒で終わった。

「その点については、欧州でモデルを一つ作り、それを中国で個々の部品について大量製造し、インドで組み立てます。組みあがったものは同盟国中に広がりさまざまなところで活躍するでしょう」

デブチはそれでも不服そうな顔を浮かべている。

追い打ちをかけるようにその場にいる中東連盟と朝鮮王国北部の代表者も首を縦に振った。

「我々もキープ氏に同意見です。何事かある前にすでに準備を整えておくべきでしょう。北米条約連合から支援を受けられないことがはっきりとした今、敵国である朝鮮南部、南アフリカ連盟、日本皇国などは、我々と長期にわたり対峙することになるでしょう。だとしたら、相手を完膚なきまでにたたきつぶし、二度と起き上がれなくなるようにするのが、今するべき重要なことではないでしょうか」

朝鮮王国北部からの代表者は、最後のほうになると、椅子から立ち上がりコブシをぶんぶん振り回して熱弁をふるい始めた。

それを引き継ぐように、キープもデブチにやさしく話しかける。

「斜陽の国、日本皇国に対抗し、北米条約連合と同調するという約束はできなかったが、それでも日本皇国は我々に対抗する力を持っている。ロシアも危ないが、彼らを使い北部ヨーロッパを蹂躙する日露軍など私は見たくない。結論はすでに出ているのだよ。日本皇国軍と戦わなければ、我らに再び日が当たることはない」

「たとえそれが、茨の道だとしても、通るしか選択肢がないと」

「ああ、その通りだ」

反論などできないだろうという、自信に満ちた顔を浮かべ、キープたちはデブチを見つめていた。

「…ならば私がとる選択肢は、本国へ通信し…いえ、とるまでもありません。私たち、北アフリカ共和国は南部と戦争になることを全くもって望んでおりません。この時点で、脱退をさせていただきます」

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