27.
第28章 北米条約連合の決断
96時間後に日本皇国と欧州連盟並びに欧州連盟側の国々が国交途絶するという宣言をすると同時に、北米条約連合にも日本皇国とたもとを別ってもらいたいという趣旨の公式な書類が届いていた。
緊急閣議が開かれると同時に、北米条約連合側の国々の首脳会談も開かれていた。
『ホワイトハウス』の会議室に巨大なテレビが据え置きされ、向こう側の首脳陣と同時に意見交換が可能になっていた。
同時に向こう側の国々も閣議の真っ最中であり、その場で宣戦するか国交断絶するか、それとも日本皇国側に立ち欧州連盟を非難するか、最後に局外中立国の宣言をするかが可能な状態であった。
「とにかく、即座にでも立場を表明する必要がある」
北米条約連合大統領スバロフキー・マーガレットによる重苦しい沈黙の中の発言で始まった。
彼女は、アメリカ合衆国時代から通算して初めての女性大統領だ。
「日本皇国側へたつか、中立を維持するか、欧州連盟に立つかということですね」
国防総省大臣がきく。
「ああ、その通りだ。そして、そのことを全世界に同時に通知する必要もある。我々はこうやって行動すると……」
だが、一様に消沈した表情を浮かべている。
第2次世界大戦以来、先進国同士が物理的な意味で戦火を交えることはなかった。
だが、その状況が目の前で起ころうとしている。
何としても止めなくてはいけない。
「一方で、こちら側も戦争の最前線候補の一つになってしまいます」
南アフリカ連盟の閣議の模様は、紛糾していたようだ。
テーブルの上に積まれている書類の束は、議会で議決した決議の一覧のようにも見える。
反戦決議が主なようだが、一方で民間が採択した参戦決議というのもある。
「欧州連盟に敵対した場合、南北アフリカが敵同士となり文字通り血で血を洗うような凄惨な戦争が起こる可能性が危惧されています。一方、日本皇国は、我々の希望の星のひとつでもあります。彼の国は、第1次大戦以前に列強の一つとして数えられるような強大な国家になりました。アジア・アフリカ諸国で独立を守り続けた数少ない国です。我々が虐げられていた間にも、彼らは欧米列強と対峙し続けていました。我々から見れば、彼らは我々に欧米人と他民族は同等であるという意味を、身をもって教えてくれた教師でもあります。そのような彼らに我々は対峙することはできません」
「それが、君たちの結論かね」
マーガレットは南アフリカ連盟国家主席アブラドル・リハーマンに訊ねた。
「その通りです」
アブラドルは、しっかりとした目つきで、マーガレットを見た。
「個々の判断は尊重せねばならない。問題は、大局的に見て我々がどのような道をとった場合が最も国益に合うのかということだ」
「国内の状況を打破すべきなのであれば、中立国となるべきです。軍産複合体は、戦争が国外で行われることを望んでおり、莫大な財が国内へ流入することになります」
財務省大臣は、報告書の分厚い束を手にしながら大統領へ進言する。
すぐ隣にいた外務省大臣がそれに対抗する形で大統領へ呼びかける。
「閣下、アメリカ合衆国は、常に1位を願い、実現するために邁進してまいりました。現状をみる限り、欧州連盟と日本皇国単体同士の対決であれば、日本皇国が勝つ見込みが高いです。各、協約国、連盟国に対しても、調査を行った結果、現時点で戦争を起こすのであれば、日本皇国側が勝利する可能性が高いということが判明しました。一方、我々が欧州連盟、日本皇国両側に対して武器供給を行えば、双方ともに相手方に対する武器供与の停止を要求するでしょう。ならば、勝つ可能性があり、償還の見込みも高い日本皇国側に集中的に武器の供与を行うことが、当国の利益になると思われます」
外務省と財務省の大臣の論争をよそに、大統領は別の国の情報を聞いていた。
「中米連合と南米経済共同体は、どのようにお考えですか」
中米連合は各国が主権を維持したままで緩やかに共通認識のもとで一緒になっているような状況だった。
国家元首は連合議長が務めており、各国の人数や経済力を特殊な式に当てはめ、各国への議席を与えており、その議会を連合議会と呼んでいる。
連合議長はその議会の議長という役職になっていた。
一方の南米経済共同体は、完全に経済のみが統合されており、その他のことに関しては共通認識程度で各国に主権は残っていた。
共同体事態に代表者はおらず、代わりに輪番制になっている共同体代表職があった。
もっとも、この共同体代表職もほとんどなれ合いの産物であり、共同体理事会の理事がなるのが通例となっていた。
「北米大統領閣下、中米連合に関しましては、日本皇国と長い付き合いもあります。数々の資金援助、技術援助、人的援助などの交流を踏まえ、日本皇国と戦火を交えるのは極力避けたいと考えております。一方の欧州連盟に対しましては、植民地支配をはじめとする圧政に苦しめられました。しかし、罪があるなら功もあるわけでして、われわれに共通した認識を与えてくれました。それが、欧米人とわれわれは対等になるためには、力を手に入れろという認識です」
「…つまり、中立にいるということか」
「中米連合は、単独でも中立を保つ予定です。両陣営に与せず、中立を保ち続けたほうが、外交面、経済面からみて正しい判断だと思われます。すでに議会からの承諾も得ております」
「わかりました。では、南米経済共同体は」
理事会のために使われている部屋は、どう見ても会議室をあわてて改装したという感じで、大部屋を仕切り小さな部屋にしているという感じがあった。
「閣下、我々、南米経済共同体は、北米条約連合と経済を中心として強く結ばれています。一衣帯水の関係とまではいっていないかもしれませんが、こちらはそのような認識で動いています」
「我々と同調するということで、よろしいですか」
「はい」
ときどき、彼らの仕切りの向こう側から騒がしい音が聞こえてきているが、誰も気にしなかった。
「では、総括を行います。よろしいですね」
マーガレット大統領が、手にした決定議案書を見ながら画面の向こう側、閣議室の面々の顔を一人一人見ながら聞いた。
「北米条約連合大統領、南アフリカ連盟、中米連合、南米経済共同体。以上の4カ国は2070年6月1日、テレビ会議にて会合を開き、以下のことを決議した。
1、欧州連盟に対しては局外中立の旨を通告する。
1、日本皇国に対しては局外中立の旨を通告する。
1、各国政府の考えを重視するため、上記の決議に対しては各国の議会の決定を優先する。
1、欧州連盟、日本皇国両陣営に対して、武器の供給を行う場合は、両陣営に対して行う。
1、欧州連盟、日本皇国両陣営に対して、情報提供を求められた場合は求められた分のみの情報を提供する。
以上、全会一致により決議した」
その後、それぞれの国の代表者による口頭署名がおこなわれた。
それぞれの本名[フルネーム]をテレビ画面の前で言うというものだ。
「…お疲れ様でした。これで、今回の緊急決議集会は終了します」
大統領が静かにテレビに向かい言い切ると、すぐに行動を開始した。
テレビの電源を切るとすぐに、閣僚に対していった。
「日本皇国駐在、欧州連盟駐在の大使に通達してくれ。局外中立のことをそれぞれの国に伝える必要がある。今すぐだ」