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第25章 決別
社長室への連絡は、東京からだった。
「本日、皇紀2730年4月7日12時、欧州連合より国交断絶の報伝わる。96時間以内に日本皇国月面県を第3国に対し解放せぬ場合、我らに対し宣戦布告する旨伝わる。なお、第3国とは、日本皇国と協約を結んでいる国以外のことであり、96時間後に日本皇国と協約を結んでいる国とも断絶する旨伝わる」
電話を切ると、少しばかり青ざめた顔をしてミハイルが、先ほどの電話の内容を社長室にいたもう一人の日本人である河霜翡翠に伝える。
顔がみるみる間に引き締まっていくのが、はっきりと分かった。
日本皇国軍陸軍代表としてここにいる彼は、今は大佐の階級にあり、日本皇国中央兵学校卒業後、これまで中央司令部砲兵科に15年、北海道管区戦車大隊隊長を5年経てここに来ていた。
「皇国陸軍、海軍ともに臨時招集をかけます。96時間以内に、応戦準備を整える必要があるので……」
「分かりました。私も出来るだけの協力を行います」
ミハイルは、河霜とがっちり握手をしたのち、即座に電話をあちこちにかける。
電話のプッシュ音を聞きながら、河霜は携帯電話を使い、全部隊へ緊急招集をかけた。
1時間もしないうちに、戦闘準備態勢は整い、全部隊が即座に攻撃・防御することができる状態になった。
全兵が、本部宿舎前広場に集まる姿は圧巻だった。
整然と並んだいくつもの部隊は、各科ごとに集まって集合している。
さまざまな大隊旗が、彼らの先頭を飾り、陸軍代表である河霜が訓示を述べている間、風による揺れ以外は何一つ起きなかった。
「全員に集まってもらったのは、本日、96時間という猶予期間ののち、欧州連合並びに欧州連合に与する者たちから国交断絶の報があったと、最高司令部たる東京より緊急電が入った。本土では、厳戒体制下にて戦闘準備が整えられておる。我々も、危急につき油井を一部放棄しても本陣地を守る義務がある。本油田地帯は、いまや9割がたが我々の友好国であるロシアのものとなっておる。しかし、残り1割は、中国国境以南にあり、我々の石油を彼らは虎視眈々と狙い続けておる。我々が、この油田基地を失えば、それはすなわち、日本皇国自体が石油存亡の危機になるということであり、ひいては日本皇国は第2次世界大戦時のような敗北を喫することになってしまう」
訓示の最中、ミハイルは次々と電話をかけ続けながらも、その言葉一つ一つを細大漏らさず聴き取っていた。
「諸君、我々には日本という母国がある。我々には日本という守らなければならないものがある。我々には日本といういまや3極の一つになるほど巨大になった国がある。冬ののちには必ず春が来るように、この地にも必ず春は訪れる。我々はその時、この場に残り続けなければならない。全兵に告ぐ。本日より48時間後まで、必要以外の外出を禁ず。本油田を守護するために、本土から空軍・宇宙軍による特別編成がこの地へ入ることになっている。我々には、宙から見ることができる衛星を持っている。諸君の武勇長久とともに、日本皇国の永久の栄のあらんことを」
小学校にありそうな朝礼台の上からの訓示は、これだけだった。
それから万歳三唱が起こり、各大隊長だけが、指令長室へ呼ばれた。
その他の兵士は、三々五々、散らばりながら各隊舎へと戻って行った。
河霜が大隊長である10人を指令長室へ集めると、詳細を知らせた。
「本日、東京より来た緊急電並びに国交断絶に関する種々の政令および今上天皇陛下御自身が裁可なされたなされた特別勅令により、本日付で、沿海州内陸油田護衛派遣隊は第21師団と命名された。同時に、派遣大隊大隊長を第21師団各大隊長へ任ずる旨、伝令より報告された。よって、ここに各大隊長に対し任命状を交付し、新たな役職及び階級とともに軍務記録に残される」
そう言って、指令長室の窓側に置かれている樫の木で造られた机の上に置かれている、漆塗りの箱の中の書類を取り出す。
漉和紙で作られ、金縁をされている任命状だった。
厚紙のようにしっかりと作られており、曲げることは難しい。
河霜の声はどっしりとした声で、部屋中にびりびりと弱い電気のように体の中からしびれさせる声だった。
「第1003戦車大隊長、第1001歩兵大隊長、第1002歩兵大隊長、第1004補給大隊長、第1005施設大隊長、第1006通信大隊長、第1007特科大隊長、第1008偵察隊隊長、第1009衛生大隊長並びに第1010高射特科大隊長。以上10名を各官へ任命す」
10名の各隊長それぞれに手渡しをすることはなく、一括で任命した。
「以上だ。さて、これからが本題だ」
そういうと、一面だけ真っ白になっている壁に向かって、プロジェクターを使い付近一帯の地図を出した。
「では、これより対中及び対欧戦作戦会議を開始する」