23.
第24章 日亜露
日本皇国側は、徐々に月での領土を広げていっていた。
最初はISS[国際宇宙ステーション]ほどの大きさしかなかったが、今では淡路島二つ分ぐらいよりわずかに大きいぐらいになっていた。
「この現状を維持するためには、協力し合うことが重要です」
日本皇国主体で開催された"第2次東京会議"では、日本側に与するすべての国が集まっていた。
北米条約、欧州側からは誰も来ていなかったため、なごなごした雰囲気で時間が過ぎて行った。
「現在のところ、月面県へ行くことができるのは、日本皇国にある種子島宇宙センターからの定期便および、旧インドネシアにある発射場のみであり、早急に数を増やさなければならない。ロシア側から協力を得て、沿海州にある発射台を借りているが、老朽化が激しく、今年から数年間にわたり補修工事の必要性がある」
「急激なことは、避けるべきですね」
自国生産品であるお茶を手のひらサイズのティーカップに入れ、ゆっくりと冷ましながら飲んでいるのは、アジア連邦外務大臣だった。
すぐそばにあるテーブルの上に、ティーソーサーを飾りのように置き、日本に対して言った。
「我々にも、当然の如く権利は生じるのですから。ウブスナガミを使用し、世界を手のひらの上で踊らすことも可能な日本皇国に対し、我々は、協力を惜しみませんよ」
「もちろんです。ウブスナガミの使用権、宇宙基地での同居権、最恵国待遇など、語りつくせないほど、協力を強化してまいりました。ロシア代表がここにいないのが少し不気味ですが……」
「彼らには、彼らなりの考えがあるのでしょう。我々に与するとするならば仲間として扱い、与せずと決めた際には、敵として扱えばいい。ただそれだけの話ですよ」
そう言いきると、さらに一口すすった。
そのロシアは、日本皇国との協約に従って、石油基地の護衛を任せる一方で、中国側へと領土を広げていた。
北方領土問題は、択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島のそれぞれの主権は日本皇国側が持っていることを確認するという覚書を互いに交換し、残りの部分はすべてロシア連邦側が権利を有しているということで決着した。
「あれから、幾年が過ぎた……」
覚書を互いに交換した時の外務大臣である、スバロフスク・ミハイルは、ここの石油を発掘している国営企業の社長をしていた。
それと同時に、この周辺に展開している日本皇国軍指揮も覚書に基づいて行っている。
「日本側へは、ウラジオストクにタンカー港を増強させて正解だったな。あそこを通して新潟経由で全国へ運ばれることになっている……」
誰かに向かって話すわけでもなく、社長室の広い部屋の中には、ミハイルともう一人の日本人だけがいた。
「そのタンカーを護衛しているのは、我ら日本皇国の海軍なんですがね」
「わかっておりますよ。なにせ、この私が日本大使館へ出向き協約を締結してほしいと頼んだのですから」
「それから5年間外務大臣として活躍して、ここの国営企業社長定年に伴いここに異動となった。そうでしたね」
社長室からは、油井があちこちにあるのが見える。
その頂上からは火柱は見えない。
石油を掘りだすと同時に出てくる天然ガスも回収されて、車の燃料などに使われるからだ。
「この広い土地の下に、石油が眠っているんですね」
「ええ。21世紀の前半も半分以上終わり、石油に代わる材質のものを開発しつつありますが、全席亜へと普及するには至っていませんね。あと数十年は、このままいくのではないでしょうか」
「でしょうね。ですから、我々がこうしてここを守っているんですから」
実際には、ガソリンに代わる材料として、ほぼ無尽蔵にあるとされている水素を使うという案もあり、現在では、最先進国家群のみがそれらを使っている。
石油は、それ以外の分野で使われている。
たとえば、合成繊維や塗料などだ。
だからこそ、どこの国に対しても石油はいまだに必須なのだった。
その時、社長室の電話が鳴った。