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第23章 欧米の仲違い
北米条約連合が正式に月面基地を建造すると発表してから5年の月日がたった。
欧州連邦と同調し、今では日本皇国とともに世界の3局支配の一角を担っていた。
月では、移民政策が政府主導で行われていることもあり、徐々に人数が多くなっていっている。
真っ先に移民を開始した日本皇国領月面基地は、今では友好国からの移民を含め、3000人の民間人、590人の陸空宇宙軍部隊が駐屯していた。
その中で、最高責任者であり、月面基地行政長を兼務している氷ノ山は、居住施設である天照の中にいた。
「本国との調整の結果、本月面基地は翌日午前0時をもって、月面県として地方公共団体となります」
今まで月面基地は日本皇国政府直轄地域となっていたものを、ちょうど年度が変わる4月1日から県へと昇格し、他の都道府県と同等の権限を持つことになった。
「選挙があるまでは、現在の役職を維持します。多少役職の名称の変更はありますが、人の変更はありません」
行政長は知事になり、司法長などはすべて都道府県と同じになることが決まった。
氷ノ山はそのことを全員に通達し、さらに本国政府は他国にそのことを通達した。
北米条約連合と欧州連盟は同じ施設を共同使用しており、地方公共団体になったとしても、現状を変えることはないということを明言した。
だが、県と同格になるということは、それだけ重要視されるということになり、純粋な領土として存在することにつながる。
どちらにしても、攻め込んだ瞬間に、国家間の戦争になるということは間違いなかった。
「だとすれば、どのようにして日本皇国を黙らせ、月の資源を最大限使用することができるかを考えなくては…」
「そうは言っても、月の資源も限られています。もっとも有用なのはヘリウム3などを含んだ鉱石でしょう」
北米条約連合と欧州連盟のそれぞれの事務間協議の場で、話し合われているのは、月面基地についてだった。
「日本皇国、北米条約連合、欧州連盟。この3つの国々が一つになれば、最も効果的になるんだが……」
「日本皇国側は了承するわけがないだろ。最初に月面基地を作った国だぞ」
「だったら、ムリにでも了承させるように仕向けるしかないか……」
欧州側の代表者が、物騒なことを提案し始める。
「日本皇国と国交断絶の通牒を出す」
そのことは、欧州連盟と日本皇国が戦争を行っても不思議ではないことを示唆する。
「そして、世界は戦火へ再び包まれると。次こそは、世界が粉になりますよ」
北米条約側の代表者が、顔を青くしながら言い返す。
「ですが、いずれは北米条約連合と欧州連盟 対 日本皇国という戦争が起きかねない。否、必ず起きてしまう。その時、あなた方はどちらにつく御つもりですか」
欧州代表者が叫ぶようにして言いきると、一方的に切ってしまった。
北米条約代表者は、震える手で大統領へと電話をかけた。