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第20章 月面着陸
3日ほどたった時、月面が目の前に迫ってきていた。
「ここが、月ですね」
「見たらわかるさ」
操縦士が船内放送をかけている声に対して、宮司がつぶやいた。
「これより、着陸態勢に入ります。シートベルトを着けてください」
直後に船内放送が入る。
3日ぶりぐらいにシートベルトを着ける。
5分ほど間が空いてから、再び放送が聞こえてきた。
「本船はこれより、降下します。着陸場所は、指定されている場所です」
ガクンと下がる感覚を覚えている。
ぐんぐん月面が近づいてくる。
だが、宮司たちは不思議と心配はしていなかった。
操縦士に全てをゆだねることにして、ゆっくりと眼を閉じた。
「目標地点、着陸成功。シートベルトをはずしてもらって結構です」
ゆっくりと眼を開けると、次々とシートベルトをはずしていた。
「着いたのか……」
「そうよ。さあ、宮司も降りる」
氷ノ山が宮司を早くおろそうとする。
「宮司が最初に地鎮祭をしてくれないと、建物が建てられないでしょ」
地鎮祭は、重要だと思われている。
その土地の神々へ対して祈りをささげ、これからの居住の安全を願うのだ。
大東亜戦争の時、天皇陛下を中心として国を持って行ったように、中心となるものが必要となる。
今回の場合、月の神々である。
とりあえず、服を着替え、宇宙服を着、それから外へ出た。
重力が6分の1だから、一歩歩くたびに、軽く飛び跳ねてしまう。
それでも、ようやくテントの下まで来ると、全ての準備は整っていた。
「それでは、始めさせていただきます」
月と太陽の神々への捧げものの前で、大幣を振りながら、宮司が祝詞を読み上げた。
10分ほどで、儀式が終わるとすぐさまテントを中心として開発が始まった。
「ここが、新しい月面基地になるんだ……」
宮司が氷ノ山に近付いて言った。
「そうよ」
宇宙服だから、無線を通しての話になる。
それと並行して、地球からの電波も受信する。
「おーい、聞こえるかー」
どうやら、地球にいる星井出かららしい。
「ええ、聞こえるわよ」
「宮司、あんまり氷ノ山といちゃつくなよ。帰ってきたら、ドツいてやるからな」
それで満足したらしく、笑いながら無線は切られた。
「とりあえず、戻りますか」
宮司が氷ノ山に言う。
何も言わず、一回うなづいた。
「宇宙服は、宇宙に出るときだけで十分だよー」
軍服を着てうちわ片手というのは、なかなかシュールだ。
「……写メ、いいっすか?」
「駄目に決まってるでしょ」
宮司が、氷ノ山に聞いたが、速攻で却下された。
窓から外をのぞくと、地盤に杭を差し込んでいるのが見える。
「ここは、地盤が緩い場所なの。しっかりと底の岩盤とつないでおかないと、何かの拍子で崩れる可能性があるからね」
氷ノ山が、外を見ている宮司に言う。
すでに、宮司は陸軍の服に着替えており、カバンの中に大幣をしまっているところだった。
「なるほど、月震とかありますからね」
「奥深くの生きているプレートっぽいものが、っていうあれ?」
「そうですよ。実際に観測もされてるんですから、いつ起きても不思議じゃないですよ」
だが、地震の大国である日本から来ている宮司たちが、実際に体験するかどうかは、この時点ではほとんどないと思われた。
事実、以後も体感することはなかった。