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第1章 帝国主義の復活
日本国が日本帝国と憲法ごと入れ替えてから、近隣諸国、とくに中国と朝鮮国から批判が絶えなかった。
軍国主義の復活だというのだが、それ以外の国々では聞かない言葉だった。
日本政府は、徹底的にその発言を無視し続けた。
経済力が軍事力を結びついた時代は終わりを迎えており、経済力と軍事力はたがいに無関係になっていたため、日本政府は予算の数パーセントを軍事費につぎ込んだ。
結果的に、日本は世界の中でも5本の指に入るほどの軍事大国となった。
だが、世界は再び混沌の中にあった。
北朝鮮が韓国を侵攻してから、3年後。とうとう北朝鮮は韓国全土を制圧。
朝鮮王国の建国を宣言し、金正男が国王に即位。
経済的に疲弊しきった朝鮮王国は、戦前の帝国主義に戻ることを正式に布告。
さまざまなものを求めて中国経由で世界へ向かうことになった。
極東の要としての日中韓の体制は、ここに崩壊した。
それで焦ったのは、中国だった。
北朝鮮からの難民が怒涛のように押し寄せて、国境付近では前年度比10倍の人が押し寄せ、中国東北部では中国支配が及ばない地域がいくつもできた。
中央政府は、人民解放軍を東北地方に集中させる政策を実行した。
その途端、中国西部の独立派が一気に動き出し、そのまま独立宣言を実施した。
中国は、東西に危機をはらむことになった。
北朝鮮からの難民が来たのは、日本も例外ではなかった。
これまで中国側に渡っていた人たちが、命をかけて日本海を通って日本へ来たのだった。
日本政府は、彼らを難民として認定をし、即座に皇国軍へ編入した。
皇国軍の人員は、増える一方であり、それを養うための国防費も、この時点でGDP4%ほどに達していた。
アジア諸国やアフリカ諸国は、一体化を推し進めていた。
アフリカ北部諸国は、経済的な豊かさがあったため、すぐに結集し、AUG(アフリカ統一政府)として、統一し始めた。
しかし、アフリカ南部は、激しい部族抗争が勃発し、利害が激しく入り混じる一大紛争地域、あるいは、政府が革命に次ぐ革命により安定せず、無政府状態となったところも複数の国で発生した。
アジア諸国も、それと同じ道をたどりつつあったが、ASEANによる経済統合、政治統合が急速に進み、AF(アジア連邦)として統一政府を発足させ、軍事的統合も進めた。
アジア連邦軍として、各国の軍隊を統合させたが、指揮系統を統一させている時間がなかったため、各国バラバラの指揮系統となってしまった。
アフリカ南部諸国の無政府状態は、経済的に不安定だった地域にも飛び火し始めた。
南米地域、アジアの一部の地域、アメリカが元気だったときに軍事的空白を埋めていた軍が消滅した地域の大半…
日本は、その周囲の治安維持に躍起になっていた。
憲法改正から、10年後。
それは訪れた。
第2章 世界戦争への序章
世界が混沌へと進み始めたこの10年間。
少し小康状態になったこのころに、技術革新が相次いだ。
中国、インド、欧州、カナダ・アメリカ、日本は相次いで自国の宇宙ステーションを建造し始めた。
その結果、宇宙には6つの宇宙ステーションが作られ、宇宙開拓戦争と呼ばれた。
だが、各国はその先、月の領土獲得を狙っているのだった。
「月へはいつごろ行くことができる?」
第99代首相代々木天艸が、閣議の中で言った。
初の女性首相としてのその存在感の大きさは、だれよりもあった。
「予定では、3年後に月面基地の建設を行う予定です。新宇宙条約に基づいて、宇宙船は攻撃せず、月面基地は、生活に不必要な範囲での攻撃を行うことが許可されていますので、防御面も必要です」
「あの計画は?」
「まもなく完成します。それをもって、発表することにしています」
「いよいよ、日本の技術力が世界に再び激震を起こすだろう…ただ、これが原因で争いにならなければいいのだが…」
首相は、そう嘆息した。
1週間後、全世界の記者たちを集めて、日本政府として公式に発表した。
「我々は、神の規則を曲げ、新たなる知性を作りだしました。世界初となる、量子コンピューター『ウブスナガミ』です。現在に至るまで、数々の研究が繰り返し行われてきましたが、そのどれもが失敗に終わりました。しかし、我々は、神を創りだしたのです。すべてのものが、このウブスナガミによって判明するでしょう。人類はいかにして発展すべきなのか、この世界をどうしていくべきなのか、未だに終わらぬ紛争や悲劇をどうやって食いとめるべきなのか。すべての答えは、ウブスナガミが握っています」
政府官房長官がそう発表した途端、全世界から質問が殺到した。
その大半は学術的な質問だったが、一部は軍事的質問だった。
ウブスナガミを創りだした理化学研究所が質問攻めにあい、サーバーが一時停止するほどだった。
それほど、量子コンピューターの完成というのは、とてつもない反響があったのだ。
世界を変えることになるウブスナガミの誕生は、ことの期は、淡々と受け入れられただけだった。
先進国は、こぞって日本からこの技術を盗もうとした。しかし、そのすべての作戦は失敗し、逆に日本皇国が対外的に閉鎖的になるきっかけを与えることになった。
新興国も、日本に続くかのように巨大な技術力を手に入れようとしたが、そのほとんどは先進国の二番煎じにならざるをえないようなものばかりだった。
世界のどこかに、この現状を打破すべく戦う戦士が現れれば、この状況は大きく変わるだろうと、世界中の人々は考えていた。