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皇国戦記  作者: 尚文産商堂


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16.番外編(2)

第17章 閑話休題(2)


賑やかし居酒屋の店の中で、このあたりだけは少しばかり静まり返っていた。

「宇宙軍だけで、全体の4割を使っているということは、陸海空軍で各軍平均2割か」

「でも、それだけのお金をどこにつぎ込むっていうんだよ」

ビールを飲みながら、幌が聞いてみる。

「技術開発費…詳しくは軍事機密になるから言えないんだけど、月へ行くみたいなんだ」

「氷ノ山が?」

「そこは軍事機密扱いっていうことで…」

コップをわずかに傾けながら笑って言った。

「それで、軍事機密扱いになっていない情報はないんか」

琴子がつついてくる。

「んー…」

氷ノ山は悩んだ挙句、すぐ横に座っている星井出に耳打ちした。

軽くうなづくのを見てから、話し出す。

「実は、国民保護の名目で、色々な兵器を作っているの。その内容は言えないんだけど、どうやらどこかの国と戦争するためのものっぽいの」

「ということは、宇宙軍が最初に戦うっていうこと?」

「そのことはよくわからない。陸海空の方も、徐々に増えてはいるけどな」

酒も入り始め、自制心を保ったまま饒舌になりつつあった。


「よっしゃー!じゃあ、2次会行こっかー」

「そんなにふらふらだったら、明日に支障が出るだろ。今日はもう終わりだ」

千足鳥になっている氷ノ山を、星井出が支える。

「あしたなんてゆーきゅーとればいいんだよ!」

徐々に、体が前かがみになっていく。

そして、完全に寝始めた。

「ふぅ……」

星井出は軽くため息をつくと、氷ノ山を軽々と背負い、そこにいるみんなに言った。

「ごめんだけど、こんな状況だから、先に帰るよ」

「分かった。じゃあ、また今度会う時にな」

幌の言葉に、右腕をあげてこたえる。

そのまま、夜の街へと消えていく二人を見て、桜がポツリと言った。

「こんな平和な時期、もうそろそろ終わるのかな…」

真っ暗な空に、その声はむなしく溶け込んでいく。

「さあね。でも、平和な時期なんて、いわば幻想にすぎないんだと思うよ」

雅が桜の手を握りながら静かに答える。

「幻想?」

「そ。大東亜戦争のときだって、第1次世界大戦が最後だって言われていたんだ。でも、本当は最後ではなかった。第2次世界大戦の時も同じ。今でも平和と言いながら、戦争は絶えない。だから、平和は幻想にすぎない。そう思うんだ」

2次会の会場へと移動している道すがら、彼らは話していた。

「平和ね…昭和憲法[日本国憲法のこと]が施行された時にも、これでやっと平和になるって思われていたらしいし。繰り返し戦争を起こしているのは、その後々の話だしね。それを考えると、平和はやろうと思えばすぐにでも実現できるんじゃないかな」

幌が少し後ろを歩いている。

「明治憲法、昭和憲法、それに今の憲法と3つ通じて分かったことは、世界と日本がどうやって行動するべきか、だよな」

山門が幌に声をかける。

「明治時代は、日本が植民地化されないように。昭和時代は、世界が再び戦争の惨禍に見舞われないように。今の憲法では、世界の中の日本の存在が弱まらないように。ぐらいしか説明が思い浮かばないんだが」

幌が、困ったような声を出して、山門に言う。

「そんなもんじゃない?」

鈴が山門の腕にしがみつくようにして幌に言う。

「日本皇国として、これからは波乱に満ちているかもしれない。でも、日本という文明自体を滅ぼすには、日本民族の根絶をしなければならない。そのために、彼らはその代償として、世界に名だたる文明国を一つ崩壊させることができるのか……」

「それが問題か」

その時、幌のすぐ後ろから明活な声が聞こえてきた。

「そんなもの、どうでもいいじゃない。日本民族とか、文明とか。戦争が避けられないとなれば、日本国民として、国家存続の為に全力を尽くす。文明を守ることも重要かもしれないけど、それよりも重要なのは、自分たちの子々孫々が受け継ぐべきこの大地じゃない。そのための国でしょ」

桜の言葉は、なんとなくだが伝わったようだ。

「じゃあ、2次会に行こ!」

桜に引っ張られるようにして、みんなは2次会へと足を進めた。

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