15.番外編
番外編と言いながら、通し番号は振っておきます。
第16章 閑話休題(1)
「かんぱーい!」
世界は、戦間期と後に言われる時期に突入していた。
東京のとある居酒屋。
同窓会と称して、集まっているメンバーがいた。
「っぷっはー。やっぱり、夏に飲むビールは最高だな」
「そんなこと言って、普段ビールなんてあまり飲まないのに」
そう言いながら、チューハイをちびちび飲んでいるのは、世界企業となった山口コーポレーション現社長の永嶋鈴[旧姓:山口]だった。
昔から巨大な企業だったが、第2次世界大戦前の財閥をほうふつとさせるような会社になりつつあった。
すぐ横にいるのは鈴の夫である、永嶋山門だ。
「しっかし、俺の友人の中に社長が出てくるなんて思いもしなかったな」
山門と酒を飲み交わしている井野嶽幌が言った。
高校時代からの友人である彼らは、他の人たちと合わせてグループを構成しており、こうやって暇になると集まって同窓会と称した会合を開くのだった。
「ところで、聞いたか。件のうわさ」
唐突に口を開いたのは、星井出包矛だ。
陸軍で研究科に配属されている士官だ。
軍務に属しているときは、星井出中佐といわれる。
「何の話だよ。軍にいないからよくわからんが」
幌が一気にビールをあおる。
「軍の中じゃ結構噂になってるあの話かな。でも、あれは部外者に話しちゃだめっていわれてなかった?」
星井出の妻である氷ノ山亜紀留が清酒を飲みながら言う。
彼らは結婚したが名前を統一していない夫婦だった。
ここ最近増えてきているらしいタイプの人たちである。
「…口からゲソはみ出している奴が言うような話じゃないっていうことはよくわかった」
幌が少し引き気味に言った。
「簡単な話、アメリカが日本を合法的に攻撃するようなんだ。ついこの前、宇宙条約というものが改正されたのは、色々といわれているから知っていると思う」
星井出は急に声のトーンを落として話し始める。
「ああ、数十年間放置されていたのに、突然改正したという話だったな」
「その話に関連してなんだが、朝鮮王国があるだろ。いまは南半分を日本皇国、北半分が中国が間接統治という形で決着している。その全土を中国に引き渡す代わりに、日本皇国領土は北米がとるということになるらしい」
「なるほど、そのために宇宙条約の改正が必要だったと…」
星井出の話に、幌が合わせる。
「そういうことだ」
「でもさ、なんでわざわざ改正なんて必要だったの。もともと、ほとんど無視されているような条約でしょ。だったら気にする必要性はないんじゃないの」
幌の姉で、今は陽遇雅の妻になっている桜が聞いた。
「第2次世界大戦前、今は戦前と言っているその時代、日本は大日本帝国といわれていた国だったのは、知っているよな」
星井出は桜に聞いた。
一回だけうなづいた。それで十分意思は伝わったようだ。
「明治憲法の第1条にそう書かれていたからでしょ。でも、それとこれとどんな関係があるの」
「ちょっと前の一部の人たちが言っていた説に、日本が大東亜戦争に負けたのは、国際ルールを守りすぎたのが原因だという人がいるんだ。今でも言っている人たちはいるな」
星井出は大ジョッキ半分ほどに残っていたビールを一気に飲み干した。
「どういうことよ。守りすぎたのなら、普通は何もならないことじゃないの」
桜が反論する。
「その怒りごもっとも。でも、そういうことを言っている人がいるのも事実。ただ、半分ほどの学者は、日米間の物資量の極端な差や、日本の人命軽視の風潮が、負けさせたのだという意見になっている」
「半分程って、残りの学者はなんて言っているのよ」
鈴が焼酎の水割りを新たに頼んでから言った。
「日本は負けるべくして負けた。運命論者さ。どちらにせよ、あの戦争は1945年8月14日、ポツダム宣言受諾を宣言して終わった。15日が終戦記念日になっているのは、あの日に終戦しましたということを国民全員に報告したという日にすぎない」
「歴史にIfはないけれど……っていうことか」
幌もビールを一気に飲み干してからつなげた。
「まさしくね。そんな過去の話をするといくらでも出てくるけど、そっちの話よりも、そんな日本が再軍備して、正確には自国防衛、自国民保護を憲法で宣言したうえでの再軍備をして、再び世界へ挑もうとしているんだ」
「次の舞台は宇宙っていうことか…そういえば、宇宙軍が組織されたっていう話だったな。あいつらって何しているんだ」
山門が星井出に聞く。
「それは私が答えましょう」
氷ノ山が言った。
「そういえば、氷ノ山は宇宙軍だったな」
思い出したかのように幌が言う。
「そうよ。だから、宇宙軍についてなら私に聞いてちょうだい。まず、宇宙軍についてだけど、つい最近、言っても5年もたってない間なんだけどね、そんな軍隊なの。でも、総軍事費のうち、宇宙軍に直接支給される分が約4割占めてるわ」
そう言って、いったん息をついた。