12.
第13章 月探査競争(1)
日本皇国の国会は、皇紀2710年までに、月に行くことを発表した。
これまでの予定をかなり前倒しに成功したのは、宇宙軍が開発に成功した、多人数乗車型宇宙船だった。
軍事転用も可能なこの宇宙船は、世界中から協力要請が出されるほどだった。
「現時点で、一切の協力を拒んでいます。しかし、協定国のみには、軍事転用をしないことと他国に一切を譲り渡さないことを条件に協力すべきだと思います」
閣議にて、軍務総省大臣が言った。
「しかし、それを受けて、情報隠匿は可能なのか」
首相が聞いた。
大臣は再び立ち上がって熱弁をふるい始めた。
「大丈夫です。すでに、各協定国に対しては、情報協定を結び、漏洩をした場合、いかなる援助も漏洩が発覚して以降、再発防止措置を設けない限り認めないことを明文化しております。さらに、2重3重のスパイ防止機能を設け、日本皇国に対し、国旗と天皇陛下に対しての忠誠、情報漏洩に対する誓いとして、その行為と認められる行為を行った場合、死罪が言い渡されます」
首相は手で話をやめるように指示した。
「よく分かった。では、決を採る。本議案に対し、反対のものは?」
誰も手を上げないと思ったら、法務大臣が手を上げた。
「…では、賛成のものは」
首相が聞いた。
法務大臣以外が手を上げた。
「賛成多数のため、本議案を閣議決定する。なお、反対意見があった旨を記し、その名を法務大臣とする。法務大臣には、その旨の補足として意見を付帯させる権利がある。どうする?」
法務大臣は言った。
「無論です。まず、宇宙軍を設置すること自体が不満ですが、しかし、国益に対して有益なのでそこは何も言いません。しかし、スパイがいること自体は、すでに周知の事実。スパイ防止法などの法律がすでにあるので、それ以上の防止策は効果が薄いと思われます」
「付帯意見として、以上の発言を記録する。それでは、次の議題へ移る」
閣議は、続いていたが、法務大臣だけはちょっと用事が出来たといって、外へ出た。
すぐ外では、誰かが待っていた。
「…さて、どうしました?」
何食わぬ顔で聞いているのは、中国の人らしかった。
「同志よ、日本は変わった。昔の日本国ではない。そのままが通ると思ったら、痛い目を見ることになりかねん」
「そうですか…それよりも、ウブスナガミがどこにあるか突き止めましたか?」
二人は、廊下をゆっくりと人目に付かないところへ歩いていった。
「ああ、どうやらうわさは正しいらしい。ウブスナガミは、宇宙空間に存在する。すこし前、日本皇国が月探査衛星と称して打ち上げたものがあるだろう?」
「ありましたね」
立ち止まり、周囲を確認してから大臣は何かのフロッピーディスクを渡した。
「この中に、その着地地点が書かれている。それを基にして割り出してくれ。うまくいけば、ウブスナガミを破壊することが出来る」
「同志よ。あなたの行いは、中国人民共和国政府が後々の世にまで伝えることになるだろう。日本皇国が滅ぼされたとき、あなたはその跡の地で、生涯君臨し、一切の行動の自由を赦された唯一の人物となることを保障しよう」
大臣は、その人物に深々と頭を下げた。
「ありがたき幸せ…閣下にも、お伝え願いますか?わたくしのような者を拾っていただき、いたく感謝していることを…」
「確実に伝えることを約束しましょう。それでは…」
彼はそれだけを伝えると、一人で歩いていった。
その方向と逆の方向に、大臣も歩いた。
閣議室に戻ると、本日の議題はすべて終了していた。
「法務大臣。たった今すべての議題が終了したところだ」
「そうですか、それは私としたことが」
法務大臣は、何事も無かった顔をして、一礼してから再び部屋の外へと出た。
首相は官邸に戻ると、秘書を呼んだ。
「法務大臣が取ったデータは?」
「すでに改ざん済みのものです。中国側がどのような反応を示すかが楽しみですが、しかし、これでよかったのですか?」
首相は、深々と椅子に腰掛け、ゆっくりと息を吐いた。
「ああ、すべては順調に進んでいるよ。法務大臣が内通者であることは前々から分かっていた。今回、その尻尾をつかんだに過ぎない。これからが勝負の本番だよ」
そういって、首相は椅子に座って他の書類に目を通した。