115.
「水野さん。終戦ですって」
皇国通信社で、平和条約が結ばれたことを見ていた側島が、たまたま通りかかった水野に声をかけた。
「らしいな」
「あれ、タバコですか」
「ん?ああ。禁煙してたんだが、どうにも出来なくてな」
最近は、タバコは再びブームになっている。
ただブームとはいっても、昔禁煙していた人が再び喫煙をしている状態だから、結果として、喫煙人口は減り続けている。
分煙が進んだだけではなく、機械によって周囲と隔絶するエアーカーテンが個人レベルで出来るようになったり、額に巻くだけで煙草の煙を全て剃ってくれる空気清浄機などが発売されている。
そのため、最近は全面禁煙は減っていて、個人毎に喫煙、禁煙をするというのが流行っている。
「それで、これからどうなっていくと思います、世界は」
「変わんねえだろうな」
タバコに火をつけながら、水野は答える。
「戦争をするのは人間だ。人間である以上、戦争は感情で動く。ただな、それが全部ロボットになっちまったら、その時初めて、戦争はデータになるんだよ。それまでは、今までとちっとも変わりはしないさ」
ふぅと息を吐き、紫煙が細くたなびいていった。