110.
北米条約連合側から電話がきたのは、ちょうどこの時だった。
すなわち、気象庁との会合が終了した時点である。
「総理、北米条約連合大統領より、緊急の電話会談をしたいと、連絡が来ておりますが」
閣議室の外で待機していた首相秘書官が、気象庁との会談の終わりを見計らって、部屋へと入ってきた。
「同時通訳システム起動。スピーカーにしてつないでくれ」
総理大臣が秘書官へ指示をすると、すぐに流暢な日本語が聞こえてくる。
「どうも、お久しぶりです」
「スバロフスキー・マーガレット大統領閣下、お元気そうでなによりです」
「うん、早速だが、話し合いをしたい」
「いいでしょう。おそらくは、露欧戦線について。そう認識しておりますが。ゆえに、必要な所管大臣らも、この会談には参加させたいのですが」
「当然だろう。こちらも統合参謀本部の面々が揃っている」
「それで、どうするおつもりですか。今回の攻撃に対しては」
「月面地域においては、戦闘らしい戦闘が起きていないのを幸いに、まだいくつかの最終兵器が残っている。貴殿も、未だに使っていないモノがあるだろう」
「……それを使うのは、それこそ我が国が亡国の危機に達した際です。ウブスナガミも、今は使うべきではないと判断しております」
この時、テレビが映っていたら、訝しむ大統領の顔が見えたことだろう。
「もしやと思いますが、衛星爆弾なるものは、本当は無いのでは」
「残念ながら、実在します。ただ、今はそれを使うべきタイミングではないだけです」
「なるほど。では、我々がその分の攻勢を強めるとしよう。使うタイミングを押し付けるのは、内政干渉にあたりますからね」
そして、大統領は一方的に切った。
それを受けて、首相が軍務総省大臣へ下命する。
「今、欧州へ向けれる彼らは何個ある」
「ざっと、10と言ったところでしょうか」
「では、北米へは」
「…5つほど。ですが、友好国へ向けて狙うというのは、よろしくないかと」
「重々承知。だが、北米の奴らは、我々が戦局の打破をできないことを利用して、版図拡大を目指すだろう。南アフリカ地域の油田を急襲し、配下に収めたようにな」
「そうなれば、今次の大戦が終われば、我々へと?」
「来てもおかしくない。だから、そのための準備をしておくんだ」
軍務総省大臣は、立ち上がり敬礼すると、すぐに閣議室から走って出て行った。
「では、今日の閣議はこれまで」
首相が宣言すると、その他の大臣らも部屋から出て行った。