フェミネアの出会い
「おいミラ、本当にここに出るのか?」
「うるさいジャン、目撃情報があった日からまだ2日だ。間違いなくまだこの辺にいる……と、思う」
ここは、ルーデンス王国王都レーフィスの東に位置する巨大な森……フェミネア大森林の中域。
そして今そこには、3人の男女の姿があった。
「は〜、しょうがないわね、ここで少し休憩しましょう」
「あぁ、疲れた、もうお家帰りたい」
「私も疲れました〜」
1人は、長い金髪をついテールにした少女。2人目は、真っ赤な髪の毛が短く切り揃えられている少年。3人目は、肩まで伸ばした水色の髪が特徴の少女。
3人とも服装は、おそらく学園の制服であろう服を着ている。
今は、歩き疲れている様で、3人とも木に背を預けて座っている。かなり披露している様だ。
「探索を始めてからもう5時間だぜ、やっぱりいねーんじゃねえのか」
「もうどこかに移動してしまったんでしょうか?」
なぜ学園に通っているであろう彼らがこんな森の中にいるのか、それは彼らが学生でもあり冒険者であるからだ。
そして今は、冒険者として依頼を受けてこの森に来ている。
その依頼は、
「ブラックオークは住処を移動することはほとんど無いはずよ、絶対どこかにはいるわ」
「そんなこと言ったってよミラ、こんな馬鹿でかい森からモンスター1体見つけろってのが無理な話だぜ。シーナもそう思うだろう」
「……」
「おいシーナ聞いてんのか?」
依頼についての愚痴をいうジャンがシーナに同意を求めたが、シーナは一点を見つめたままこちらを振り向こうともしない。
「……この魔力、間違いないです!」
「お、おいどうした急に?」
「ミラさん、オ、オークの群れがこっちに向かって来ています」
「ま、まじかよ‼︎」
「落ち着きなさいジャン」
オークの群れと聞いてジャンが飛び起きた。そして、慌てるジャンをミラが注意する。このパーティーではよく見る光景だ。
「シーナ敵の数は?」
「少し待ってください……」
シーナは索敵魔法を使いオークの数を調べる。
「!これは、不味いですミラさん」
「落ち着いてシーナ、敵の数は?」
焦るシーナをミラが落ち着かせて、数を尋ねると、シーナは答えた。
100体以上と。
「2人共すぐにここを離れるわよ」
「わ、分かった」
ミラとジャンが元来た道を走る。だが、なぜかシーナだけはその場を動こうとしない。
「何をしてるのシーナ、早く逃げるわよ‼︎」
「だ、ダメです。囲まれました。そっちには大量のブラックオークがいます」
「「なっ」」
シーナの報告に驚愕の声を上げる2人、だが即座にミラが逃げる道がないことを悟ると、2人に指示を出す。
「2人共死にたくなければ今すぐ木の上に登りなさい。早く‼︎」
敵に囲まれたという事実に絶望していた2人は、ミラの指示を聞いて我に帰り全力で木を登っていく。
「2人共私が木から飛び降りて敵を引きつけるからその隙に私と反対に逃げなさい」
「で、でもそれじゃ!」
「かんちがいしないで、自己犠牲なんかじゃないわ、これは全員が生き残るための最善手なのよ」
「ど、どういう事だよ?」
ミラが言った自己犠牲としか思えない作戦についてシーナが非難の声を上げるが、ミラが間違いを正す様にこれが最善手だと言う。
「私が敵を引きつけて逃げ回っている間2人は助けを呼びに行って。何、私が死ぬわけないでしょ」
「それなら、私が」
「シーナ、私は2人を信じてる。2人がきっと助けを読んで来てくれることを、だから」
そこまで言ってミラは2人から目をそらし自分の後方を見つめる。
「行ってくるわ」
ミラが木から飛び降りたら。そして案の定オークとブラックオークの群れがミラに向かって突進する。
「風よ 風よ その力を解放し 敵を滅しろ『ウインドカッター』」
ミラから放たれたその魔法は、それぞれの群れの先頭にいた2体の首を的確に刈り取る。
「『エンチャントレッグ』」
ミラは自分の足に身体強化の魔法を掛けて南の方角に向かって疾走する。そしてその後をオークとダークオークの群れが波の様に追っていく。
2つの群れが見えなくなると木に登っていたシーナとジャンはミラが逃げた方向と逆に向かって走る。
「くそっ」
走りながらジャンが悪態を吐く。
「俺が、俺が、もっと強かったら……くそっ」
「ジャン君、自分を責めないでください。今の私達にはまだやることがあるじゃないですか!」
「シーナ」
ジャンがシーナの方を向くとそこには、涙を堪えながらでも堪えきれずに雫をこぼしながら走る少女の姿があった。
(何やってんだ、俺。こんな少女でも何をするか分かってるのに、男がきいてあきれる)
「シーナ、絶対にミラを助けよう」
「はい‼︎」
走ること数分
「きゃぁ」
突如としてシーナが悲鳴をあげた。
「シーナ!」
そこには、一体のオークがシーナを押し倒していた。
「い、嫌、辞めて」
シーナは暴れるが、オークの怪力からは逃れることができずにおさえつけられたままだ。
「た、助け」
グサッ、
死の恐怖から目を瞑っていたシーナは自分を押さえつける力が消え恐る恐る目を開けるとそこには、首から剣を生やしたオークとそのオークの上に乗って剣の柄を握るジャンの姿があった。
「大丈夫か、シーナ」
ジャンはオークから剣を引き抜くと直ぐにシーナを起こして声をかけた。
「だ、大丈夫。ありがとうジャン君」
「気にすんな、立てるか?」
「大丈夫。先を急ごうジャン君」
「分かった」
そうして2人はもう一度並んで走り出した。
更に走ること数十分、もう日は暮れ森の中は闇に包まれていた。
だが、走る2人の前に1筋の光が現れた。
2人は顔を合わせ同時に頷くと、その光に向かって走った。
そこにあったのは1つの家だった。小さいがしっかりとした造りの綺麗な家だ。
ジャンは、その家の扉を叩く。
コンコン
少しの静寂の後に扉が開いた。
「はい、どちら様ですか?」
中から出て来たのは、白髪に銀眼の少年だった。
「た、助けてください」
シーナが少年に向かってお願いする。
少年は、いきなりだったので驚いた様子だったが2人の怪我と服に血がついているのを見て何かがあったことを察して2人を家の中に入る様に促した。
「中に入ってください。話はそこで聞きましょう」
「あ、ありがとうございます」
家の中に入れると少年は2人を椅子に座らせて、自分はテーブルを挟んで逆の席に座った。
「えーと、さっき助けて下さいって言っていたけど何があったか教えてもらえるかな?」
その少年の質問に2人は1度顔を見合わせてから少年の方に向き直って頷いき、あった事の全てを少年に話した。
「成る程、それはモンスタートラップだね」
「モンスタートラップ?」
「モンスタートラップっていうのはね、群れの中で1体だけモンスターが自分がいる事をわざと見つけさせて、そこに討伐にやって来た人間を群れで囲んで殺す事を言うんだ。今回君達は見事にそれに引っかかったのさ」
「そ、そんな」
その事実を聞いて愕然とする2人を横目に少年は椅子から立ち上がるとどこから取り出したのか黒いコートを纏うと、2人に向かってこう言った。
「案内してくれ、僕が力になるよ」
「「‼︎」」
その言葉に2人はとても驚いた顔をしている。
「どう、してですか、今の話を聞いてどうして赤の他人を助けようと思うんですか?」
「どうして助けるかですか、そうですね……僕も昔死にかけているところを、助けてもらったことがありました」
そこで一拍おいて少年は2人に言った。
「自分の手が届く範囲に助けられる人がいるなら迷うな。僕の命の恩人の言葉です。そして、これが助けようとする理由です」
そう言って少年は玄関の扉を開ける。
「な、名前を教えて下さい」
「おっと、そういえばまだ名乗って無かったね。では改めて、シリス・リアクターそれが僕の名前です。よろしく」