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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

影の勇者はここにいる





「お見事! お見事にございますぞ勇者殿!」


 赤を基調とした豪奢な鎧を身につけ、立派な髭を蓄えた大男が大げさに手を叩く。

 わざとらしいとも取れるそのリアクションは、この男の人格を良く知る一行にとっては特に気にかけることでも無い。

 何せいつもの事だからである。


「いや、まだだよサンソン。僕はまだまだ上にイケるはずだ」


 全体的に真っ白で、所々に金色の装飾を施された神々しい鎧を身につけた青年がその真っ赤は頭髪を振る。

 右手に持つのは、赤水晶と白銀鉄で出来た神代の剣。

 柄と刀身の中央が真っ赤に光り、刃の部分がくすみ一つ無い白で形作られた直剣を一度振り、同じように赤い、腰の鞘に戻した。


 別に返り血を払った訳では無い。これはこの少年の癖である。

 その剣の価値を知り、知ってなお自分が所持しているという自負がある彼は、よくこうやって意味も無く剣を振る。


 分からないでも無い。

 彼がその手にするまで、その剣は永く所有者が現れないまま眠りについて居た。


 神剣フレイムファリオン。

 そう呼ばれるその剣は、伝説に謳われる程の至高の剣だ。


 曰く、その剣を持つ者は精霊に選ばれた神の使い。

 曰く、闇を打ち払い、世界に光をもたらす光明の剣。

 曰く、選ばれし者を天界へと導く灯火。


 曰くを述べれば、それだけで一冊の本が出来上がるほどの逸話に溢れているその剣を、彼は驚く事に齢一二の頃にその手に握った。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 伝承王国ローレン。

 地母神フェイムの名を冠したフェイム大陸の南端に位置する、由緒正しき王国。

 広大で緑豊かな土地と、恵みに溢れる海に面したその国の田舎で、彼こと勇者アーレスは生まれた。


 取り立てて何を誇れる訳でも無い、どこにでもある集落。

 町とも村とも呼べない規模のその集落で生活していたアーレスは、主に狩猟と農耕で生計を立てる、これまたどこにでも居そうな少年だった。

 年老いた父と母と暮らし、片手で数えるより目で確認した方が早い程度の村の子供達と遊び、田畑を耕し、森で獲物を取る毎日。

 つまらない、と思わないわけが無い。


 代わり映えのしない日常。

 変わるはずのない日常。


 アーレスもまた父や母のように、成人後は集落でただ一人の女の幼馴染、モニカと家庭を持つのだろう。

 モニカに不満がある訳では無い。

 実際彼女は可愛い部類に入る女の子だ。

 素朴ながら整った顔立ち。出る所が出始めたその体はきっと元気な子供の二、三人は産んでくれるはずだ。

 ただ、たまに集落を通過していく行商人達が連れだった王都の女性達に比ベると、どうしたって見劣りしてしまう。

 華やかさが人の形を成したかのような、あの可憐にして妖艶な彼女達との出会いは、アーレスにとっての性の目覚めを呼び起こしたビビットな出会いだった。


 (ただアーレスは知る由も無いが、行商人がわざわざ遠出の商売に連れ出すような女性は、いわゆる愛人であった。

 妻子には知られてはならない関係の、連れ出すのに最もらしい理由をこじつけた、いわゆるパトロン目当てのお高い女性。

 護衛の冒険者達には全ての事情がお察しで有り、商人側も取り立てて隠そうとはして居なかったが、立ち寄った村々や集落で声高々に関係を吹聴する必要性も無い。

 知らないのは特権階級や都会の事情に疎い田舎者だけなのである)


 それに比べたら、モニカのなんと面白みの無いことか。

 かつては幼いながらも将来の約束を交わしたモニカにそんな不義理な事を思ってしまう程度には、アーレスは普通の少年であった。


 そんなアーレスの人生の転機が訪れたのは、ある夜の事だ。


 集落の南、普段は近寄る事ができない魔物の巣と呼ばれる山に、流星が落ちた。


 派手な光と派手な音を立て、安眠を妨害する程度の揺れを伴い、燃えるでも無く消し飛ぶでも無く、その山は煌々とした光を放ってアーレスの目に飛び込んできたのだ。


 退屈な集落に、非日常が訪れたのである。


 抑圧された血気だけは盛んだったアーレスは、父や母やモニカ、そして幼馴染達の制止を振り切って山へと向かう。


 魔物が居る事など二の次だった。

 山が光るなんて有り得ない話だ。

 行商人や教会の司祭なんかが集落を訪れる時、一緒に護衛の冒険者達もやって来る。

 彼らが自慢げに見せてくれた魔法でさえも、アーレスにとっては非日常に値する驚くべき事象であったが、この時に比べたら鼻糞の様な物であっただろう。


 何せ目算で空を突き抜けるように見えるあの山が、明かりといえば月と星明かり程度しかないこの真っ暗な夜空を、真昼間の如く輝き照らして居るのだから。


 片手に木製の(クワ)、片手に鍋の木蓋を装備したアーレスの心境は、吟遊詩人が(うた)う冒険譚の主人公そのものであった。


 何が奇跡的かと言えば、このアーレスの運の強さが奇跡的だったのだろう。


 本来は右向けば一匹、左向けば十匹と言うほどに顔を効かして居た魔物達が、この時ばかりは驚き慄き、山から一目散に避難していたのだ。

 それによってアーレスは普段の山よりも安全、かつ迅速にその峰を登る事が出来てしまった。

 また森育ちのアーレスの体力や運動神経は意外に高く、半日という時間で未だに輝き続けて居た山の中腹まで辿り着く事が出来たのも、強運の成せる業であろう。


 まるで誂えたかのように整備された、台座の様な岩。

 探すまでも無く眩く光り輝くその台座の上に、これまた神々しいまでに真っ赤で不思議な光を纏ったその剣は刺さって居た。


(えっと、あれ? この子何?)


 のちに神の剣に宿りし意思。

 創世の火の使いである妖精、ファム・ミステリアは語る。


『だって! 見捨てるわけには行かなかったんだもん!』


 選ばれし者としか意思の疎通の出来ない彼女は、アーレスを制止し、逃げろと促す事は不可能だった。


(ちょっ! 何貴方! ダメだってば! 私は勇者様にしか! って早く逃げて! 私を追って魔神の僕がココに! なんで勇者様来ないの!? あ、あれ? えっと、ああああああああっ! 降りるとこ間違えたぁ!)


 神剣の意思、創世の火の使いである妖精ファムは、真面目であるがおっちょこちょいであると天界で有名であった。


(逃げっ! 逃げてってば! 貴方あの遠くの空から飛来してくる禍々しい巨鳥が目に見えないの!? な、なんで近寄ってくるの? や、やめて! 引っ張らないで! 取れないってば! 貴方じゃ無理なの! 勇者様じゃないと私を振るう事はできないんだってば! なんでそんな自信満々なの!? 聞いた事ぐらいあるでしょう! 神剣なのよ私! おとぎ話とか伝説とか、上司に頼んで一杯広めてもらっーーーーーーーわぁっ! 魔神の使いが来たぁ! 早く逃げろってばぁ! 逃げてよぉ! とっとと行けって言ってんだろくそがきぃっ!)


 そんなファムの声など全く聞こえないアーレスは、目の前にある神剣に心踊らせている真っ最中だった。


 王国、いやこの大陸、いや世界中どこの国の子供も一回は聞いた事があるであろう、神剣の伝説。


 それは色んな形、色んな終わり方こそあれど、共通している部分がある。

 むしろそこが全てなのだ。


『この世に悪が蝕み始める時、創世の火は神剣をこの世界に遣わす。手に取る事ができるのは、地母神フェイムと五柱の精霊神により選ばれし、真の英雄。

 雷光を纏いし風を乗りこなし、水の清らかさをもって大地を癒す、炎の化身。

 彼の者神剣を携えしとき、悪は悉く打ち倒されるであろう』


 そう、それはすなわち勇者。

 世界を救う、英雄の中の英雄。

 誰からも尊敬され、誰からも好かれる最高の存在。


 アーレスは、勿論こう考えた。


『勇者って、俺だったんだ!』


 何が悪いかといえば、全ての状況が悪かった。


 ファムが本来降りるべき場所を焦りから間違えた事も。

 そして目立つからきっと気づいてくれるだろうと言う理由で山全体を光らせた事も。

 田舎の暮らしに飽き、都会の(女性に)憧れを抱いていたアーレスがかなり夢見がちだった事も。

 すぐそこに神剣の破壊を目的として、魔神の使いである巨鳥が迫っていた事も。

 アーレスの空恐ろしいまでの強運も。


 そして、このままではアーレスが自分のせいで死んでしまうと気づいてしまった、ファムのその後の行動も。


 のちに、神剣の意思。

 創世の火の使いである妖精、ファム・ミステリアはこう語る。


『だって怒られると思ったんだもん! びええええ!』


 そして、五年の月日が流れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「アーレス様……あの、先ほども申しましたが。ここは大変地盤の緩い洞窟なんです。できればその、威力のある技を控えていただければと……」


 フェイム教の司祭着の上から、ゴテゴテとした鎧を身にまとった女性がオズオズとアーレスに進言した。


「あ、ああ済まないヒナノ。つい魔物を見ると我を忘れてしまうんだ。アイツらを放っておけば、無辜(むこ)の民が危ういと思ったら居ても立っても居られなくてね」


 何かに思いを馳せる様に、洞窟の壁へと目を逸らすアーレス。

 だがチラチラとヒナノの方を向いては、その顔を伺っている。


 神剣を抜いた時に真っ赤に染まったその髪の毛は、勇者として王都に呼ばれた時に流行りの髪型にしてもらったアーレスの自慢だ。

 赤い髪自体はそう珍しくもなんともないが、今までが真っ黒で面白みの無い毛髪だったアーレスにとっては大切な毛だ。

 毎朝セットに1時間を費やしているのも伊達では無い。

 何をどうしたらそこまでガチガチになるのかヒナノにはさっぱり分からないが、きっと拘りがあるのだろう。

 正直、後から被る兜が浮いてしまってとても面白い事になるから止めた方が良いのではと思っているのだが、いつもアーレスを持ち上げる王国騎士のサンソンと、つい最近仲間になった魔法騎士のエグが褒め称えるものだから、止め時を見失ってしまったのだ。


「さっすが勇者殿! まっこと清く正しいそのお考えに、不肖このサンソン! 涙がはなはだ止まりません! なぁエグ殿!」


「ああ! この僕ですら、魔物を前にして多少の怯えを感じると言うのに、やっぱり君は凄い奴だよアーレス! それこそ僕の永遠のライバルさ!」


 男泣きに泣く髭の大男サンソンの横で、身長の高い細身の魔法剣士であるエグが自分の体を抱きしめながら悶えている。

 うっとおしいぐらいに長いその髪は男のくせに腰を超えて臀部まで届き、魔法剣士がゆえにどうしたって隙が生じる戦い方をしなければならないのに、なぜか黒いロングコートと扱いずらい長刀を装備するこのエグ。


 この二人が、アーレスを調子に乗らせる元凶であった。


 サンソンはローレンを出立する時に、自ら国王に勇者一行への出向を志願した王国騎士の一人である。

 五つある騎士団の中でも剣と守りを得意とする第五騎士団の一員で、王国貴族の次男坊だ。


 そう言う風に言えば格好がつくが、要は家も継げず、適した職も見い出せずにとりあえず騎士団を充てがわれただけだ。

 何せこのサンソン、もう齢は40手前にして、未だに独り身。

 そして役職にもつけていない。


 剣の腕は確かだ。それは誰もが認めている。

 王国騎士の中でも上位に食い込むほどの腕前の持ち主だろう。

 じゃあ、なぜ彼は出世できないのかと言えば、わかりやすく言うなれば、擁護できないアホなのだ。


 騎士と言うのは、単騎の腕っ節だけで評価されるほど甘い物では無い。

 真に必要とされるのは、集団行動に準じた組織的な強さである。


 伝承王国ローレンは、他の国に比べてその気風は比較的穏やかだ。

 かといって戦争と無縁と言うわけでは無い。

 曖昧に定義された国境を進軍してくる隣国との小さな諍いや、山賊などの犯罪者の武力制圧。村々や王都を魔物から守る大役がある。


 そう言う時に必要とされるのは、忠実に指揮系統を守り、そしてその命令を不足なく全うできる能力。


 サンソンにはその能力が全くと言って良いほど、無い。


 騎士団長から命令が下れば、曲解したのち大いに結果を間違える。

 一人合点の早合点なんて日常茶飯事だ。酷い時は王国公認の商隊(キャラバン)を隣国の侵攻軍と間違えて単騎で突撃した事もある。

 騎士団長がサンソンの父と親しい仲でなければ、彼はとうの昔に放逐されているか投獄されている。

 それほどまでに彼はアホだった。


 更にタチの悪い事に、普段のサンソンは王国騎士の模範とも言うべき人格で、忠義に篤く正義感溢れる男だった。

 悪気が一切ないその澄んだ眼差しを前にして、彼を叱ろうとする者は悉く毒気を抜かれてしまう始末。


 後輩の面倒見も良く(真実を言えば金ヅルで)、誰からも慕われている(と本人は思っている)男だったのである。


 勇者がローレンを出立する際に、王国騎士から護衛をつけるのは決定事項であった。

 だが国王はサンソンの志願をやんわりと却下している。

 もちろんである。

 ローレンの当代の国王は賢王と名高い。

 そんな王がこの暴れ馬のように取扱の難しい者を勇者の供に指名する筈が無い。


 それを押し切ったのが、おだてに弱いアーレス本人だったのが最悪だ。


 悪意や他意が微塵も含まれていないサンソンの大げさな言葉の全てに乗せられて、アーレスはサンソンを気に入ってしまったのだ。


 王は何度も止めた。

 他に適した者なら幾らでもいる。

 なんなら第一騎士団の次期騎士団長候補の男なんかはどうだ。実力ならサンソンに引けを取らず、いや、正直言えばサンソンなんか相手にもならない腕前で、更に頭も切れる最も優秀な騎士だ、と。


 だがアーレスは一歩も引かず、ついには国王が折れる形で同伴が決まったのだ。


「あの技! 素晴らしかったよ! 名前はなんて言うんだい? 神剣から繰り出される、空気を裂くような斬撃……もし良ければ、『神空斬(ゴッド・エア)』なんて名前はどうだろう。いや気にしないでくれたまえ。我がライバルが強くなる事をやっかむような器の小さな男じゃないんだ僕は」


 その長すぎる前髪をかきあげて、魔法剣士エグがアーレスに詰め寄る。


「『神空斬ゴッド・エア……いや、この技は『空神斬(ゴッド・スラスト)』と言う名前にするよ。君の名前を元に今閃いたんだ。ありがとうエグ」


「ああ! いいねそれ! それとっても良い! わぁ、勉強になるなぁ!」


「はぁ……」


 盛り上がるアーレスとエグを見るヒナノが、ため息を漏らす。


(名前なんて、どうでも良いと思います)


 心の底からそう思う。

 なんでこの二人は、こんなどうでも良い事で盛り上がれるのか。

 ヒナノにはそれが不思議で堪らない。


「レッカさん……」


 振り返り、少し遠い位置で壁にもたれている少女を見た。


「お願いヒナノ。私を見ないで。仲間だと思われたくないの」


「諦めてください。もう仲間なんです私たち」


 黒い三角帽子に、金の刺繍で魔法文様を施された黒いマントで口元までを隠した彼女はレッカと言う魔法士だ。


 王立の学術院魔法学科を、一三歳と言う若さで首席卒業を果たした才媛である。

 貴族・平民・奴隷に関係なく、実力だけで評価されるローエレンス学術学院において、過去に類を見ないほどの魔法の天才と言われている。

 平民上がりながらその頭脳は魔法だけに留まらず、算術・戦術・馬術・少しばかりの剣術までもを網羅していて、学術学院の特別講師枠まで掻っ攫っていった才能の塊のような少女だ。

 ちなみに剣術においてはたった一人、勝てなかった相手がいるらしい。

 そんな現在十五歳の彼女は、勇者一行の魔法士として同行して居る。


 見た目は輝くような金髪の長い髪をサイドテールに括った可憐な美少女で、他国の王族から側室の打診が大タル一杯送られてきたという嘘みたいな逸話まである。


 彼女とフェイム教の司祭であるヒナノは、正式に王から勇者の供を拝命した。


 とある男爵家の次女として生まれたヒナノもまた、生まれながらにして地母神の加護を賜ったと言われるフェイム教団の秘蔵っ子であり、レッカとは歳は2つしか違わない。

 敬虔なフェイム教のシスターであり、心優しくも美しいその姿から聖女などと言われている。

 銀髪をセミロングにして肩まで揃え、豊満なその胸を慎み深く隠し(つつも隠しきれていない)ながら祈るその姿は正に清らかな乙女の姿であり、王都の民ならず周辺国家からも見物客が来るほどの、正にアイドル的存在であった。歳はレッカより二つ上の十七歳で、瑞々しさに神聖さが加わり、彼女のシンパは今でもなお増え続けて居る。


 本来なら、王都での修行を終えたのちに宣教者となり、周辺国家や小国などを回りつつも慈善活動をする予定だったのだが、その確かな治癒の奇跡の腕前と、天才的な神聖魔法を王に見出され、勇者の旅の共となった。

 レッカも同じような理由である。


 旅に出た当初は、伝説に聞く勇者と一緒に世界を救える事を喜んだヒナノであるが、今はその喜びもどこかに消えている。

 レッカもまた、学術的観点から勇者という存在に興味を抱き、英雄にのみ許された聖なる炎の技をこの目で見れる事に興奮していたが、今ではできる限りあの勇者から遠ざかたいと思っている。


(カッコつけたい……だけなのよねぇ。このアホは)


(まぁ……私もそうは思いますけれど。実際に勇者様のお陰で助かっている人も居るんです。私たちも頑張らないと)


 小声で話し合う女子二人は、この旅を経てかなり親しくなっている。


 それは主に勇者アーレスの存在がそうさせたのだ。


(ほら、ヒナノ。さっきからあのアホがチラチラ見てるわよ。褒められたいんでしょきっと)


(い、いえ。あれはきっとレッカさんを見てるんですよ。ほら)


 勇者アーレスと共に旅をするようになった女子二人が日々実感するようになった事。

 それは勇者の力の凄まじさもある。

 魔神の侵攻を間近で見た危機感もある。

 魔物に怯える村々の現状もある。

 だがそれ以上に、女としての身の危険を感じるようになった事が一番大きい。


「なあヒナノ、この先危険がたくさんあると思うが、心配しないでくれ。僕が絶対に守って見せるよ。勿論レッカだって、その綺麗な肌に傷一つ負わせたりしない事を誓うさ」


「あ、ありがとうございます」


「要らない心配だわ。自分の身は自分で守れるもの。ヒナノだってそうでしょ?」


「そ、そうですね。私の防御結界も結構な物だと自負してるんですよ?」


 聞いてもいないのに気を引こうとアピールしてきたアーレスに、女子二人の身がまた少し後退した。


 こんなの、序の口なのだ。


 町について宿を取れば、何かと理由をつけてヒナノとレッカと同じ部屋に入ろうとする。

 ちょっとでもどちらかが席を立つと、すぐに隣に座り肩を抱いて自分がどれだけ二人を心配しているかを説き始める。

 事あるごとに酒を注文し、無理やり勧めようとする。


 一番酷かったのは部屋で湯浴みをしているときに、部屋を間違えたと装って覗きに来た事だ。


 道中、馬車で野宿をしようものなら、寝ている背中を舐め回すように視姦され、怖気が走った事など数えきれない。


 自然と、ヒナノとレッカは二人で行動する事で身を守る術を身につけた。


 二人だって年頃の女子である。


 恋愛を禁止せず、むしろ男女の健全な交際を推奨するフェイム教のシスターであるヒナノも、いつか素敵な旦那様と巡り会う事を夢見ている。


 レッカだってそうだ。自分の知識量に引けを取らず、何か一つの事でも良いから自分を関心させ、尊敬させられるような男性はいないものかと日々思っている。


 だが、コレは無い。

 絶対に無いのだ。

 なぜなら二人は知っている。


 アーレスが夜な夜な宿を飛び出し、国から貰った路銀を使って娼館に出入りしていることを。

 それもまぁ。嫌な事には変わりないが理解できないわけではない。

 なぜなら勇者と言えどもアーレスは若い男子。

 色々と溜まる事もあるだろうし、劣情を催す事もあるだろう。

 それだけなら二人はここまでアーレスを嫌わない。


 最悪なのは、自分が勇者だと言う立場を利用して、様々な娘に関係を強要している事だ。

 旅の初めに二人もやんわりと言われた事がある。


『勇者の子を成す事って、結構な誉れだよね?』


 と。

 訂正しよう。やんわりなんてもんじゃなく、どストレートに一発ヤらないかと誘われていたのだ。


 ヒナノは笑顔で誤魔化し、レッカは思いっきり軽蔑した目で拒否した。


 だが、アーレスの普段を知らない娘達。

 とりわけ田舎村の素朴な娘達には通用してしまうのだ。

 本人が望まなくても、村長や町長。酋長などを通して命令されてしまえば、彼女達に拒否権は無い。

 断れば、狭い集落や村社会でどんな目に会うか分からないのだ。

 中には喜んでその身を差し出す娘もいるが、それだって問題だ。

 曲がりなりにも勇者を名乗る人間がして良い事じゃない。


 もうヒナノとレッカには十分と言う程分かっている。


 このアーレス・アンタレスと言う若者は、勇者の器では無い。

 少なくとも、尊敬に値する人格を持っていない。


 世を救うのにその人間の善悪など関係ないのか。もしくは此れこそが地母神が望む善なる者のあるべき姿なのか。

 朝夜の祈りを欠かさず、肌身離さずフェイム教のシンボルを持つ程の敬虔な信徒であるヒナノにもその信仰への揺らぎすら生まれつつある程に、この勇者はまさしくクズであった。


「さーて、僕も張り切っちゃおうかなー。ふふふ、この魔刀ルナティックが血を欲しがって欲しがってしょうがないんだ」


 魔法剣士エグが先頭に立って洞窟を進む。

 この魔法剣士。

 本当になんで付いて来たのか不思議でたまらないと女子二人は思っている。


 最初に出会った時は、ヤケに上から目線でアーレスに食ってかかって来ていた。

 

『伝説に名高き勇者の力、この深淵のエグ・レッシェンドが見定めてあげるよ!』


 なんてのたまって突然切りかかって来たエグをレッカの魔法が撃ち抜いて気絶させた。

 深淵のエグ・レッシェンドなど、聞いた事も無い名前だった。

 二つ名付きの戦士や剣士、冒険者は結構居るが、皆一角(ひとかど)の実力者である。

 殆どが武勇や功績が知れ渡った有名な人物達で、国が違うとは言えエグと出会ったのはローレンの友好国であるアグナ。

 船で海を渡らなければならないが国交や輸入輸出も盛んであり、民間レベルで情報を交換しあう仲の国だ。

 二つ名付き、しかも実力ある魔法剣士なんてかなり珍しい。知らない訳が無いのだ。

 そもそも二つ名なんて周りから言われる物であって、本人が名乗るなんてどうかしている。


 ヒナノは自分の事を『聖女』などと思った事も名乗った事もないし、レッカは『魔法の申し子』だったり『大魔導へ至る者』などと持て囃されているが、本人はその呼び名を忌避している。


 だって、大袈裟だし、恥ずかしいから。


 それなのにエグは自らを『深淵』と名乗り、しかも寄りにも寄って勇者に剣を向けたのだ。

 普通なら只の目立ちたがり屋か、頭の可哀想な人だと思うだろう。


 只、その腕前は確かだった。


 言葉の端々に滲み出る隠し様の無い頭の悪さこそ確かな物だったけれど、その魔法のレパートリーや長剣の扱いにかけては、達人と言っていい程だ。


 魔法剣士なんて、勧んでなろうとするものじゃ無い。

 なぜならどちらも中途半端だから。

 魔法の腕も魔法士に敵わず、剣の腕も剣士に敵わない者が苦肉の策として名乗る物。

 それが魔法剣士だ。

 所謂器用貧乏の代名詞。

 結果として魔法剣士になった者は居れど、望んで魔法剣士になるなんてどうかしている。


 魔法というのは極めて精緻で、集中力を有する物だ。

 それは威力が高まれば高まる程に必要となる。

 だから魔法剣士の大半が、初級の魔法を使いながら剣を振るうことになる。

 稀に居たとしても、中級魔法の詠唱省略。

 威力と範囲を抑えに抑えた辛うじて中級の体を成した、扱い辛い物しか使えないだろう。


 だがエグは違う。

 上級魔法こそ使えない(いや、使ったところを見た事が無い)が、中級魔法を詠唱しながら、魔力を編んで魔法式を組み立てながら、あの取り回しに難のある長刀を振り回している。


 ヒナノとレッカは困惑するだけだ。


 これほどの腕前があるならば、その名前が耳に入って来ていてもおかしくは無い。

 二つ名があるのだって納得できる。


 とんでもないアホだが、とんでもなく強いのだ。

 神剣を持った勇者と、並んで戦える程に。


「エグ、待ってくれ。僕が先に行くよ。僕は勇者だからね」


「ああ! そうだね! 君は勇気ある者! つまりは勇者だ! ならばここは君に譲ろう! 僕は後ろで踊っているよ! 君の奏でる戦いの唄を聴きながらね!」


「ああ! 任せてくれ! きっと素晴らしい踊りにしてみせるとも!」


 そういってアーレスはレッカを見て口の端を持ち上げる。

 白い歯を見せて、まっすぐに。


 アレがキメ顔なんだろうか。全然カッコ良く見えない。

 それともヒナノとレッカがアーレスのその本性を知っているからそう思うだけで、世の女性達はアレがカッコいいと思えるのだろうか。


「はぁ……行きましょうレッカさん」


「ええ……少し離れて、ね」


 女子二人の疲労がどんどんと溜まって行く。

 なんで自分達がこんな奴らと共に旅をしなければならないのか。

 地母神フェイムよ。これが貴女が与えた試練と言うのであるならば、あまりにもあんまりな仕打ちではなかろうか。


「待ってくだされ勇者殿! エグ殿! 先陣を切るのはこの勇者殿の一の家臣! サンソン・サンペウルにお任せを!」


 ガチャガチャと金属音を鳴らしながら、サンソンがアーレスとエグの後を追う。


「……こんな狭い場所で、殿(しんがり)に魔法士と治癒術師を残して行くなんて、本当にアイツら馬鹿なんじゃ無いの?」


「……わ、私が一番後ろを歩きます。レッカさんは何時でも魔法を唱えられる様、準備して居てください」


「ええ、頼むわ。貴女の結界防御が頼りよ。こんな崩れ易い場所で魔法なんて、本当は使いたく無いのだけれど」


「が、頑張ります」


 女子二人は思う。


(私たちがしっかりしなければ、勇者の信頼は地に堕ちてしまう)


 と。


 その結果どうなるか。

 

 来たる魔神との戦いに、大きな影響を及ぼすだろう。

 魔神と戦うのは自分達勇者一行の仕事だが、その眷属である悪魔軍や魔物の群れは普通の兵士や冒険者達に相手をして貰わなければならない。

 彼らの協力無しで、世界の平和は守れないだろう。

 

 つまり、勇者を旗頭とした国家連合軍を作らねばならないのだ。


 この旅だって、本当はそれを目的とした挨拶回りみたいな物なのだ。


 だが、あの勇者の本性が知れ渡ってしまえば、それは叶わぬ夢となるだろう。

 この国家連合計画の要は、どの国にも属さない勇者と言う存在が肝だ。

 

 のちに国同士の禍根を残さぬ為にも、国ではなく世界の味方としての勇者を旗頭にしなければならない。

 その為にローレンは、各国に勇者を派遣してその顔を繋ぎ、莫大な金銭を投入して交渉をしているのだ。

 条約文にご丁寧に、『有事の際、ローレンは勇者への救援要請資格を放棄する』とまで明記して。

 つまり、『ローレンは自国の存亡の危機にあっても、勇者を独占する事は無い』のだ。

 それが、当代ローレン国王が世界の危機を救う為に導き出した答え。

 この答えが、後の世にどう記されるのかは分からない。

 もしかしたら、とんでもない失策だと揶揄されるのかも知れない。


 だが、目先の利益を放棄する事でローレンは周辺国家の信頼を勝ち取ったのだ。


 ヒナノとレッカはそれを痛い程良く理解している。


 何せ国王直々に頭を下げられたのだから。


 だから、どんなに身の危険を感じても、生理的嫌悪感を覚えても、与えられた使命を放棄したりしない。


 彼女達もまた、世界の重さをその小さな両肩に乗せてしまったのだ。


 そして二人は歩き出す。


 レッカは常に魔法式を編みながら、この洞窟と言う場所で使うに適した魔法の、4節ある詠唱の内の2節目までを繰り返し呟く。


 ヒナノは胸の谷間に埋もれていたフェイム教のシンボルを取り出し、神聖魔法の中でも特に面の防御に優れた結界を貼りながらも、そのシスターとしての第六感を駆使して魔物の気配を探る。


 どれも常人には真似のできない高度な技術だ。


 レッカの詠唱を繰り返す技術。それは常に魔力を消費し、編んだ魔法式を逆戻しで瞬時に解し、寸分の狂いもなくまた瞬時に編むという離れ業。


 ヒナノが行う、結界と感知の神聖魔法の二重使用。

 これは右を見ながら左を見る、そんな矛盾を実際に行う行為に等しい。


 それほどまでに、勇者一行が潜ったこの地底遺跡へと続く洞窟は危険な場所なのだ。


 だが二人は気づいていない。


 ローレンを出てから今までの2年。


 本当に危険を感じるような魔物が勇者一行の背後から迫ってきたことなんて、一度も無いと言う事を。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「あっぶねぇなぁ……何考えてんだあのアホは」


 本当に意表を突かれた時、人は思わず考えてる事を口に出してしまう物だ。

 それは影に潜む事が日常化しつつある本職の隠密である彼も一緒だった。


 いや、正確には隠密稼業を始めて2年と3ヶ月だ。

 勇者一行がローレンを発つ3ヶ月前に急遽与えられたその任務は、彼にとって最早日常となっている。


 洞窟の通路の曲線を利用し、勘の良いレッカや感知系魔法に秀でたヒナノから隠れながら、右手の小さな手鏡の反射を利用して様子を伺う。


 大丈夫。バレてはいないようだ。


 姿が見えなくなったのを確認したら手早く近くの壁に手を当てて、魔法式を編んだ。


(ギリギリ保ったか。やっぱり直感ってのはここぞとばかりに働くもんだぜ。信じてよかった! 良くやった俺!)


 ほんの数時間前に、この洞窟の入り口で感じた嫌な予感。

 自らの直感を信じた彼は、勇者一行が入り口に入り最初に接敵した魔物と戦闘に入るまでに、『入り口から地底遺跡の広間まで』を全て土の魔法で補強したのだ。


 驚くべきだ。

 驚嘆するべきだ。

 何せメートルで言えば、地下四十メートルはあるであろうこの洞窟の、行き止まりから回り道、隠し通路から隠し部屋までもの全ての壁を、『入り口』から補強したのだから。


(いやぁ、地底遺跡が魔法的建造物で助かったなぁ。そうでなきゃこんな大規模魔法、レッカ・ウィンスターが見逃すはず無いもんなぁ)


 勇者一行の目的地である地底遺跡、そこに眠る古代の秘宝。

 情報として集めた伝承と、この地の先住民族と仲良くなって仕入れた文献が正しければ、膨大な魔力を蓄えた兵器で間違いない筈だ。

 そしてそれを守る目的で建造された地底遺跡もまた、現代の常識では計り知れない程の魔法的叡智が施された特別な建造物である。


 なればこその、強硬手段だった。


 事前調査段階ですでに、地底遺跡から漏れ出す魔力だけでとんでもない量を検知している。

 それは周辺の魔物を活性化するほど、そして軟弱な者ならば人体に悪影響を及ぼす程の濃度だ。


 だから彼が勇者達に気付かれずに土の大規模魔法行使しながらも、こと魔法に関しては神懸かり的な知識と技術を持つレッカや、ヒナノの魔力感知を掻い潜れたのもそのおかげだ。

 ヒナノの感知は対生命、対魔物用の術式だから、何重にも秘匿の紋様を施した彼が感知される筈が無い。


 目論見は大成功で終わった。


 あのアホ勇者はやっぱりアホで、切って捨てればそれで良かったはずの雑魚魔物になぜか適当かつ始めて見る大技を繰り出した。

 その場の勢いと見栄えを意識し、ヒナノやレッカの前でカッコつけたかっったのだろう。

 考えるだけでも頭が痛くなる。


 最初にこの依頼を勇者に依頼した村長(と言う設定の山賊)の話を聞いていなかったのだろうか。

 いや、よしんば聞いていてもあのアホが覚えていられるはずが無い。


『洞窟は魔法的な仕掛けで崩れやすくなってるんです。侵入者が戦闘行動を取れば、侵入者がいる場所だけ崩落が起きます。侵入者が絶命した時に、洞窟は本来の姿に自動的に戻る仕組みなんです。そのおかげで私達はあの洞窟の奥まで行けた事が無いんです。奥にある魔道具のおかげで5年に一度魔物が凶暴化し、大人しくなるまで病を抱えながらひたすら怯えて暮らさねばなりません。どうか勇者様! 私達に救いの手を!』


 それは彼が事前に走り回って得た情報だ。勇者一行に危機感を持って洞窟を踏破して貰う為に、寝る間を惜しんで手に入れた破格の情報である。

 あのアホ勇者にこんな長い会話。覚えろと言う方が無理だったのだ。


(とは言っても。今回の件を解決したらこの国の勇者のイメージは鰻登りだしなぁ。道すがら拿捕したあの山賊もいい演技してくれたし、陛下に頼んで打ち首は勘弁して貰うかな? 懲役5年ぐらいの刑で、釈放後は俺の部下にってのもアリかも。あ、でも流石に労働奴隷にさせられそう)


 そう考えつつも、彼は壁に手を当て、魔法式を編み始める。

 

 この後もあのアホ勇者は考えなしに大技をぶっ放すだろう。

 ならば洞窟の壁の補強は最優先事項だ。


(一番気がかりだった洞窟自体の制御魔法は解除したとは言え、油断はできない)


 侵入者を迎撃するための魔法的な仕掛けは、もう気にする必要は無い。

 洞窟の中間にあった侵入者への防衛システムは、彼が一行に魔物をけしかける事で道を絞り、見事に案内する事に成功したからだ。

 あのシステムさえ見つけてもらえれば、後はレッカ・ウィンスターが勝手にシステムを解除してくれると踏んで、特に仕掛けは施さなかった。

 先に解除しておくのも考えたが、それは幾ら何でも不自然だろうと結論つけた。

 あんまりやりすぎると勇者に自分の存在がバレてしまう恐れがあるのだ。


(ほんと手間のかかる勇者だなー。レッカ・ウィンスターとヒナノ・チェンバレンが居なかったらどうなってた事やら)


 ローレンで勇者出立の大規模なパレードを行い、大勢の国民に見送られて旅立って言ったのはもう二年も前だ。

 この二年、彼は常に勇者アーレスを見守っていたが、一向に人間的成長が見られないのが不思議で堪らない。


(おっかしいなぁ。結構な死線をくぐって来た筈なんだけどなぁ。あのアホ勇者)


 彼は頭を傾げる。洞窟の壁の補強魔法式を編む事はやめない。


(新兵が一端の強者に化ける程度には戦って来てるだろうに)

 

 勇者達の旅は、彼やローレンの援助があるとはいえ過酷だ。

 手強い魔物や、魔神の手の者と死闘を繰り広げた事だってある。


 確かに戦士として、勇者としての腕前だけはメキメキと上がっている。

 最初の頃の戦いぶりなんかとても見れたものじゃなく、振るだけで高威力の波動を派生させる神剣をブンブンと振り回すだけだった。

 今では場数をこなして来たからなのか、構えや足運びだけで言うなら一流の剣士のソレであろう。

 とは言っても、神剣を持った勇者アーレスに太刀打ちできる存在なんて魔神の配下ぐらいのもので、実力が拮抗した相手と神剣を持たずに一対一で戦えばまず勇者が負けるのは分かっている。

 何せあの勇者、駆け引きなんて微塵も意識していない。

 よく言えば素直、悪く言えば直情的な勇者の太刀筋なんて、それなりに剣の腕に自信のある剣士からしたら避けるのも受けるのも捌くのも容易い。

 苦戦した事が無いと言う幸運が、アーレスの剣技の成長を止めているのだ。

 だが勇者の真価は神剣とセットになって発揮されるべきだ。

 勇者だけでも駄目だ。神剣だけならなおさらいけない。誰にも扱う事の出来ない武器など、存在価値が無いに等しい。


 だが今代の勇者アーレスに限って言えば、むしろ神剣のおまけが勇者だと思えてならない。


(今度ローレンに帰ったら、そこんとこ相談してみるか) 


 あんまり野放しにしておくと国王が心労で倒れてしまう可能性があるので、何かと理由をつけてはローレンに呼び戻すようにしている。


 彼にとってはその期間が唯一の休暇だ。


(自分から志願した事とは言え、どうにも裏方ってのは疲れる仕事だよな。まぁ俺の事情を考えてくれた陛下と殿下の為にも、一生懸命頑張らないと)


 そう、彼はローレン国王が勇者達の補助の為に送り込んだ、影の者である。

 とは言っても、本職では無い。

 この任務のために急遽任命された、なりたてホヤホヤの諜報員だ。


 主な任務は勇者アーレスの覇道を揺るぎない物にする事。


(ほっといたらどんどん悪評が広まっちまうとか、どんな勇者だよ)


 国王は、勇者アーレスの人格面に関して大きな危機感を抱いていた。

 それはアーレスが勇者として初めて王城へと登城したその日に、彼を見た全ての家臣が悟った事である。


 あまりにも身の丈に合わない大きな鎧に、背中に大きく『伝説の勇者、ここに爆誕!』と書かれた(のぼり)を担がれれば嫌でも分かってしまうだろう。


 勇者アーレスの自己顕示欲の強さは、王城に居た全ての者が知っているのだ。


 焦った国王はすぐに出発したがった勇者の出立を無理やり延期し、緊急会議を開いた。

 議題は、『伝説の信頼性を保つ為に、勇者をどう扱うか』である。


 前回の勇者の誕生が、各地に残された文献を信じるならば四百年前。

 その時は魔導死王(ワイトキング)なる闇の王が現れ、世界を蹂躙していた。

 死を司る髑髏しゃれこうべ、穢れた者達を総べる王。

 暗黒の雲と共に大地を汚し、瘴気と共に病を広めた最悪にして災厄の化身。

 ある日突然とある国を滅ぼし、その城を根城に虐殺と侵略の限りを尽くした恐るべき世界の敵。

 誰もが皆命を諦め、誰もが皆明日を放り捨てた。


 世界はその時、終わる筈だった。


 だが突如として神剣と共に世に現われ出でた勇者一人の力によって、災厄はあっけなく討ち滅ぼされる。


 伝説の具現化。伝承の再来。

 人々の心の拠り所にして光明となった、英雄の中の英雄。


 数多くの魔物を屠り、数多くの命を救い、単身で魔王を葬り去った救世主。


 世界中が彼を愛し、地母神フェイムと神剣フレイムファリオンを称えた。


 そんな爽快かつファンタジックな英雄譚の中で一際気になるのが、魔導死王(ワイトキング)が最後に残した言葉である。


『ふふふっ……ワシを倒した程度で喜ぶなどと、おめでたい奴らだ。ワシは魔神様に仕える72の王の一人でしか無い……しかもその末席に座る最も弱き王だ。そんなワシすら止められず、たった一ヶ所だがもう封印は解かれた! 魔神様は復活なされるぞ! どれだけ時間がかかっても! きっとお前らを滅ぼすために降臨なされるであろう! 貴様らは魔神様の手のひらで転がされて……なに? 納得だと? え? どうりで手応えがない? いや、ワシ、結構強かっただろう? なあ、聞いてる? あ、ちょっと待って。やめて! その聖なる炎はワシに効く! もう少しだけカッコつけさぐわあああああっ!』


 伝承では笑い話となり、吟遊詩人達もその秀逸なオチを好んで良く謳い、子供達に大人気の魔導死王(ワイトキング)だが、決して雑魚なんかでは無い。

 先代の勇者が強すぎたのだ。

 当時の列強国家がその軍事力を全投入しても勝ちを見出せなかったほどに、魔導死王(ワイトキング)は圧倒的だった。

 だがそんな魔導死王(ワイトキング)でも、神剣を携えた勇者の手に掛かれば一気にマスコットキャラになってしまう。

 四百年経った今ではその残虐な行いへの恨みも風化し、ローレンなどでは祭りの際の小さな棉人形として商品化する始末。

 恐ろしくもどこか憎めないキャラクター性が追加付与され、定期的に大衆演劇の題目にまでなってしまっている。


 問題は、その今際の際に残した魔神復活の予言である。


 その言葉が真実ならば、魔導死王(ワイトキング)など雑魚に等しいレベルの恐ろしい魔神が復活してしまう事になる。


 果たして伝説的な強さを誇る勇者と言えども、太刀打ちできるのか。

 その保証はどこにも無いし、誰にも分からない。


 だからこそ、当代の勇者には頑張って貰わねばならない。

 決して民の信頼を裏切ってはいけない。

 必ず比較されるであろう先代勇者の武功と武勲に、少しでも負けてはいけないのだ。


 何せ今代の勇者が戦うべきは、魔導死王(ワイトキング)ですら末端の配下として扱う魔神である。

 勇者アーレスには当然ながら先代勇者と同じか、それ以上の強さが求められてしまう。

 それ以上に、彼には民の心の支えとなって貰わねば困るのだ。


 勇者が弱みを見せれば、民は不安がるであろう。

 勇者の素行が悪ければ、民の心に曇りができる。

 勇者の人格に問題があれば、きっと世界は打倒魔神を合言葉に団結する事など出来はしまい。

 

 絶望がただ広がっていくだけだ。


 だが、見てしまった。知ってしまった。

 国王とその家臣は思う。

 無理だ、と。


 そんな経緯で開かれた緊急会議は、1週間ほとんどノンストップで進行して行った。

 王の目の下の隈は日に日に濃くなっていき、財務を担う大臣は頭を抱え、軍事を担う将軍は目頭を押えて天を仰いだ。


 会議に出席した者達が共通して思ってしまった事は、『なぜよりにもよって我が国に現れてしまったのか』だった。


(あのアホがみっともない真似したら、ローレンが馬鹿にされちまう)


 洞窟の補強を終えた彼は、腰に下げていた水筒を取り出すと少しばかり口に含んだ。

 魔法で出した変な味のする水では無い。

 街で仕入れたちゃんとした飲み水だ。


「っぷはぁ」


 本当なら勢いよく煽りたいのだが、この先は長丁場が予想される。

 水は大事だ。

 食料を失っても、水さえあれば命は繋げられるのだから。


(おっと、定期報告が来たぞ)


 彼の胸元に淡い独特の魔法光が光る。

 身に付けた薄い皮の鎧の下から、くるくると丸めてあるボロボロの羊皮紙を取り出した。


(さーて、何があったのかなっと)


 輪止めとして使っていた麻紐を解く。

 この麻紐も、そして羊皮紙も、とんでもない価値がある魔道具である。

 失われた魔法が施されたその羊皮紙は、対となるもう一つの羊皮紙に書かれた事が同時に浮き出してくるという優れ物だ。

 本来なら国の重鎮や要職に就く者にしか与えられないその羊皮紙を彼が持っているのは、ひとえに国王からの信頼と期待の証であった。


 茶色がかった羊皮紙を開くと、まるで右から左に文字が流れていくように文章が浮き上がってくる。


『もう嫌だ! この勇者本当にキモい! レオ! 僕を助けて!』


(報告をしろっての)


 思わず苦笑してしまった。


 アイツ、さっきはあんなノリノリで勇者を褒め称えていた癖に。

 本当に演技が上手い奴だ。


 麻紐に括り付けられた短くて細い棒状の水晶に魔力を流すと、羊皮紙から文字が消えた。

 文字を消せるのは送信された側だけだ。つまり文字が消えた事で、相手がその文面を読んだという証になる。


 棒状の水晶を手に取り、その先端で羊皮紙に文章を書いた。

 乾燥したインクのようなその黒い線が、縁を淡く光らせながら現れる。


『何があったんだよ。また『神空斬ゴッド・エア』でもぶっ放したか?』


『や、やめてよもう! 茶化さないでってば!』


 彼はまた喉を小さく鳴らして笑う。


(自分で考えた癖に)


『今奥の広場でみんなで休憩してるんだけどさ。交代で仮眠を取る事になったんだよ。僕本当はもう寝れる筈だったのに、アーレスが自慢ばっかり話しかけてくるもんだから眠れないよ! 嘘だってわかる自慢話に大げさに驚くのもう嫌なんだ! アーレスの言葉が本当なら、ローレンの南部では十五匹のべへモスが我が物顔で闊歩してて、氷河の巨人グレイシャードギガントの達がせっせと巣作りしつつ、上級悪魔(グレーターデーモン)が毎晩踊り狂う暗黒の地になっちゃうんだけど!?』


 大変だな、と彼は思う。

 そう思いながらも、簡単に労う訳にはいかない。

 何せこの羊皮紙の向こうにいる相手は、すぐに調子に乗るから。


『了解。って事は俺も休んで良いって事だな? 眠る順番を教えてくれないか?』


 わざとらしく冷たくあしらった。

 心からその健闘を褒めるのもやぶさかでは無かったが、彼と羊皮紙の向こうにいる『彼女』はそう簡単な仲では無い。


『ね、ねえ。僕に労いの言葉は無いの? 少しぐらい褒めてくれたって良くない?』


『そういうのはちゃんとお仕事を終えてからにしろよな。俺ってば怒っちゃうぞ? 深淵のエグ・レッシェンドさん?』


『レオがいぢめる……。えっと、まずは僕とアーレスが最初に仮眠して、アーレスが先に起きてサンソンと交代するんだ』


『ケツに気をつけるんだぞ』


(ああ、面白い)


 『彼女』とこうやって連絡を取り合うのは、彼の日常における少ない娯楽の一つだ。

 名目上は仕事と言っているが、茶化したりおだてたりすると良い反応を返してくれて飽きない。

 出会いは最悪だったし、雇用主としての責任もあるが、良いパートナーが見つかったと思う。


『怖い事言うなぁ! なんで僕、今男になってるのに男の人に襲われなきゃいけないのさ!』


『女に戻ったら戻ったで、勇者に押し倒されるんじゃないか?』


『……あれ? もしかして僕詰んでる?』


(詰んでない詰んでない)


 良く良く考えれば逃げ道なんてたくさんあるだろうに。

 羊皮紙の向こうの相手はよっぽど混乱しているようだ。


 彼、いや本来は『彼女』と言うべき羊皮紙の向こうにいる相手は、先ほど勇者達と共に洞窟の奥へと進んで行った魔法剣士エグ・レッシェンドその人だ。


 もっと正確に言えば、かつて月下の王国アルサラムで進出鬼没の怪盗として活動していたエルダーエルフ、アグリ・エグリと言う女性である。


 本来の姿はエルフらしく若々しくて、愛嬌のある顔つきの美しい少女だが、今はエルダーエルフの失われし古代魔法によって男に姿を変えている。


 その目的はレオと呼ばれたこの青年が、より自然に勇者達を補助するためにと送り込んだ、ちょっと違うがスパイのような役割である。


『だから野宿は嫌だって言ったんだ! もし僕が襲われたら責任取ってよね!』


『責任って、何をしろってんだよ』


『嫁に取れ! そして僕をいっぱい優しく愛でろ!』


『あー、考えとくわ』


『あ、あのさ。もうちょっと真剣に受け取っても良くない? 滅び行くエルダーエルフ最後の処女である僕が、意を決して告白してるんだけど? そりゃちょっと茶化した僕も悪いけどさ』


(んな事言ったって、お前に告白されるの何回目だと思ってんだよ)


 なんでこうまで自分に惚れ込むのか、レオにはそこがさっぱり理解できない。


 元はと言えば、アルサラムの有力者に怪盗退治を依頼された勇者が、姿を表した彼女をいきなり力任せに吹き飛ばしたところを助けたのが出会いだ。

 助けたと言えば聞こえはいいが、ようはフォローのために隠れ控えていたレオが飛んでいく彼女を慌てて抱きとめ、容疑者として確保したに過ぎない。


 その正体がすでに絶滅していたと思われていたエルダーエルフだったのが、ちょっと不味かった。


 アルサラムは独裁国家だ。

 国王は色々と黒い噂の絶えない男で、その支配力を増す為ならば手段を選ばない事で有名だった。

 そこに、古代に失われた強力な魔法を操るエルダーエルフの登場だ。

 ありとあらゆる手を使って彼女を洗脳、または拷問による屈服を目論むだろう。

 それによって古代魔法を得たアルサラムは軍事力を増し、魔神復活の混乱に乗じて近隣諸国へと侵攻を開始するだろう事は想像に難くない。


 なので、レオは彼女を引き込む事にした。


 なんでも怪盗をやっていたのは、かつて滅びた同胞が遺していったエルフの工芸品を回収する事が目的だったらしい。

 そう言う骨董品は値が張るし、所有しているのは例外なく金持ちや権力者だ。

 いくら長命種であるエルフの祖でも、アグリはまだ四百六十歳。

 エルダーエルフでは小娘に分類される若さだった。

 金の稼ぎ方など知らず、でも同胞が遺した工芸品を別の種族の手に渡したままなのは我慢がならないと、仕方なく怪盗稼業をしていたに過ぎない。


 なら、その工芸品はローレンが正当なルートで掻き集めよう。

 アグリの使う古代魔法は、現代魔法と違って派手さこそないが威力はえげつなく、そして便利だ。

 彼女にはローレンが投資するに充分な価値がある。


 国王にそう報告し、親友である第二王子にも根回しをしてもらった。

 涙を流して喜ぶアグリはすぐにレオに懐き、感謝の印として体を差し出すとまでのたまったのには驚いたが、別にレオはアグリの体が目的では無いと断った。


 レオは立派な青年男子である。年もまだ一八歳。もちろんアグリはエルフ特有の美しさと抜群のプロポーションを持っていて、抱いて欲しいと言うのなら喜んで抱いただろう。

 だがレオの使命がそれを許さない。

 常に勇者を監視しつつそのフォローに回るレオには、自由になる時間が無いのだ。


 女にうつつを抜かしてその使命を疎かにすれば恩義ある国王に申し訳ないどころじゃすまなくなる。

 王都に居る義母や義父、義兄や義姉に合わす顔を無くしてしまう。

 正直レオに甘すぎる家族はそれでも無条件でレオを許してくれそうだが、レオ本人のプライドが許さない。


 なのでアグリの誘いを内心血の涙を流しながら断り、なおかつ関係が悪化しないようにしながらレオは接して居るのだ。


 ここで告白を受けたりなんかしたら、きっと油断が生じていつか彼女を押し倒し、使命を忘れて情事に溺れるだろう。


 だから、レオは彼女の告白を茶化し続ける。

 心に罪悪感の棘を一本づつ刺しながら。


『んなことより、じゃあお前が起きるのは二番目って事で良いな?』


『うん。女子二人と交代する予定だよ。ヒナノとレッカもアーレスと二人っきりが怖いんだろうねきっと。その点サンソンはほら、女の子に興味無いからある意味安心だし』


 この旅を通して知ってしまった、先輩騎士であるサンソンの性癖にげんなりするレオ。

 元々は第一騎士団の見習い団員だったレオは、サンソンの事を知っている。


 第五騎士団に所属するサンソンは主に王都南部とその周辺の領の守護が任務で、レオの所属する第一騎士団は王都だけでなくローレン各地へと飛び回る遊撃騎士団。

 顔こそ合わせた事はないが、その面倒見の良さやトンチンカンな言動は騎士達の中でも有名だった男だ。


 知りたくなかった。彼が男色であるなんて。


『レッカ・ウィンスターやヒナノ・チェンバレンには、ローレンに戻ったら褒美をやるよう陛下に嘆願書を送っている。本当に苦労をかけてるからなぁ』


『レオの方が苦労してると、僕は思うなぁ』


『そうか? 俺は結構自由にやってると思うんだけど』


 レオは本気でそう思っている。

 元々何かに縛られる事を嫌がるレオが、見習いと言えども騎士団に所属していたのは育ててくれた義理の両親の為である。

 グランハインド伯爵家は、身寄りが無い上に色々と問題を抱えていたレオをかなり可愛がってくれた。その可愛がりはちょっとレオが引くぐらいだ。


 レオにとって伯爵家への恩は一生かかっても返し切れないほどの巨大な物。


 義母や義父が喜ぶならば、あんまり公の場に立つ事を許されいないこの身ができる事全てをやろうと心に固く誓っている。


 だから、国や王のために働く事はレオにとって義務であり、責務なのだ。


 そんな義務で仕事をしていたレオにとって、この勇者補佐の秘匿任務はかなりありがたい。

 騎士団に在籍しながら出世するものは大抵貴族だ。

 全てが全てでは無いし、実際上司である第一騎士団団長は尊敬に値する傑物であるが、貴族とはほぼほぼ腐りきっている。

 彼らとのしがらみは見習いであったレオにですら日常レベルで存在していたし、グランハインドの養子であるレオをやっかむ下級貴族は大勢居た。


 それらのしがらみから解放され、尚且つレオに与えられた裁量と決定権は騎士団と独立している。

 つまり、自由なのだ。

 全ての事をレオが判断し、レオが推し進める事ができる。


 こんなにやりやすい仕事は無い。

 勇者が問題児だからと言っても、根回しさえ怠らなければストレスは無いのだ。


『……自覚の無い労働狂い(ワーカーホリック)って救いようが無いよね。まぁ、レオなら化け物みたいな体力と実力があるから余裕なんだろうけどさ』


『エルダーエルフに褒められるなんて光栄だ。さて、出発までどれくらい休むつもりなんだ?』


『八時間だよ』


 アグリがレオを過大評価するのも、良い加減慣れ始めている。


 なんでそんなに驚くのかはわからないが、アグリにとってレオは存在が信じられないほどの奇跡的な生き物らしい。


『そんな馬鹿げた魔力量で今まで体が破裂せずに生きてこれたのは奇跡だよほんと。勇者って本当は君なんじゃない?』


『んな訳あるか。神剣が手元に無いのが何よりの証拠だろ?』


 羊皮紙に浮かんでは消えていく文字。

 慣れた二人は普通に喋っているかのように文通をしている。


『神剣が間違えたんだよきっと』


『そいつは良い。あのアホ勇者から解放されるって事か?』


『ああ! それはとっても素敵な事だね! そうに違いないよ! もしくはアーレスが神剣を騙したんだ! くそあの卑劣漢の下劣野郎め! 女の子を見たら猿の様に腰を振る事しか考えられない低脳勇者! ああ! 勇者に呪いあれ! 股間を重点的に! もぉぉおおおっ! レオの顔が見たい! こんな紙っ切れじゃなくお顔見て話がしたーい!』


(病んでるなぁ。今度ローレンに戻ってきたときに構ってやるか)


 怒涛の如く流れる文字を見て、少しアグリの身と精神を案じてしまうレオ。

 

 彼女の変身魔法はレッカをも欺けるほどの高度な魔法だ。

 それを利用して謎の魔法剣士として勇者一行に潜り込ませ、レオからの指示に従って動いて貰う事で、レオは勇者一行の梶を取れる様になった。


 剣術の腕は疑い様の無い一級で、中級魔法に見える様に工夫された古代魔法は見事と言う他無い。

 アグリは充分なほど働いてくれている。


(やっぱり、もう一人必要かなぁ)


 アグリに姿を変えさせてまで動いて貰っているのは、レオ一人だとどうしても監視の目が行き届かないからだ。

 便意を催す事だってあるし寝る事だってある。食事も取らなければならないし、かといって勇者に近づきすぎる訳にもいかない。


 本当ならこんな仕事、要らないのだ。

 勇者が勇者の名前に相応しい品行方正で礼儀正しく、威厳に溢れた人格をしていたら、わざわざコソコソとその名前を守るために暗躍する必要も無い。

 もっと言えば、本当だったら隠れる必要も無い。


 神剣の力はこの世界における、個の力の頂点だ。

 ローレンはその神剣を有する勇者の所有権を放棄している。

 だから勇者が王国軍を率いる事は無い。


 来たる未来に連合軍の旗頭にはなって貰うが、勇者は一国が所有すべき戦力では無いのだ。


 だからこその少数精鋭。

 レッカやヒナノ、なぜかサンソンがくっついてきたが、自由に世界を飛び回る身軽かつ強力な部隊こそ、勇者の力と伝説に最も適している形なのだ。


 だがアーレスは自己の欲求に忠実な男だった。

 本来の勇者一行は、七名を予定していた。


 騎士団から二名と、レッカの指名した優秀な魔法士が二名。

 全て男性である。


 レッカとヒナノは見目麗しい女性であり、アーレスは二人を自分のハーレムだと思っている節がある。

 例外的にサンソンや、アグリ扮するエグを一行に入れたのも自分を無条件で褒め称える存在だったからだ。


 他に、男は要らない。


 何を血迷ったか、アーレスは自分の国の王を目の前にしてのうのうとのたまった。

 同行を予定していたメンバーを見ての一言である。


 原因はその四名の同行予定者がアーレスから見てそこそこの美男子だった事。

 田舎者のアーレスは、内心では劣等感の塊であった。

 彼の目に移る王都の垢抜けた男性は、アーレスにとって邪魔以外の何者でも無かったのだ。

 彼らが居れば、やがて築かれるであろう自分のハーレム環境に悪影響を及ぼすと、アーレスは本気で思っていた。


 自尊心を歪に膨れ上がらせ、劣等感という武装で固めたアーレスは、根拠と裏打ちの無い絶対的な自信を持ってしまったのだ。


 だからこそ、ローレンの上層部はレオに隠密行動を強いて、その補佐を任命した。


 自分に隠れてローレンが動いている事を知ったアーレスは間違いなくこう思うであろう。


「勇者の力が信じられないのか!」


 と。


 信じていないのは、勇者の力でなくアーレスの人格であるなんて、言えるわけが無い。

 だから、レオは決してアーレスに感づかれる事なく、その行動の全てを制御し、それが無理なら悪評が広まらない様に根回しや工作を行っているのだ。


 だが、勇者一行の行動範囲が広まりつつある最近だと、一人で動くのも無理が出てきてしまった。

 故にアグリを部下にして潜り込ませたが、そのアグリの精神が病み始めている。


 これに焦って適当な人材を国に請求したところで、能力が足りていない者が来ても意味が無い。

 求められるのは、勇者達が取りこぼした魔物の群れを単騎で殲滅できる剣の腕と、決して気取られない様に行動できる隠密性。

 なおかつ勇者が訪れる町々や村々と円滑にコミュニケーションが取れる人格者であり、そして不測の事態に対応できる柔軟な思考の持ち主。


 難しすぎる。


 レオの昔馴染みであり、今も対等に接してくれる親友のソレブラント第二王子も、レオの苦労を知ってか人材の育成と確保に走ってくれているが、あまり期待できる報告は入ってこない。


 せめてもう一人。

 もう一人、信頼の置ける優秀な腹心の部下が居たら、アグリをすぐにこっちへ戻して労ってやれるのに。


『……僕疲れたからもう寝るね。君の夢を見る事を願ってる。愛してるよレオ』


『ああ、お疲れアグリ。俺も、まあ愛しちゃってるよ』


『かるぅーい。でもそれで満足しちゃってる僕もなかなかの末期だね。おやすみ、愛しのレオニール・フレイム・グランハインド。僕の王子様』


『ああ、おやすみ』


 羊皮紙の文字が消えた。

 アグリが魔力を送る事をやめたのだ。


(本当だったら、目一杯抱きしめてやりたいところなんだがなぁ)


 使命と義務にがんじがらめのその身では、到底叶わぬ事である。


 もう返事が返ってこない事をもう一度確認し、羊皮紙を丸めて麻紐で輪止めする。

 革の鎧の胸当てを指で広げ、裏側にあるポケットに羊皮紙をしまいこんだ。


 洞窟の奥で、独特の放射光を放ちながら魔法の火が揺らめいて壁を照らしている。

 その明かりに映された二つのシルエットは、寝ずに周囲を警戒しているレッカとヒナノの物だろう。


 レオはそのシルエットしばらく眺め、やがて周囲を見渡し、ちょうど体がすっぽりと収まる壁の窪みを見つけた。


 まだ先は長い。眠れる内に眠っておいた方が良いだろう。

 そう判断したレオはすぐに行動する。

 窪みに体を入れ、体を壁に預ける。

 足元に小さな魔法文字を書き入れ、腰に括り付けた小袋から緑色の石を取り出して手で砕いてまぶした。

 魔石の中でも秘匿や隠蔽に適した(りょく)魔石。

 その力を借りて魔物避けの小さな結界を張る。


 これで一先ず寝る余裕は確保したが、完全に熟睡する訳にもいかない。

 今度は紫の石を腰の袋から取り出し、またも粉々に砕いて今度は全て口に含んだ。


 不思議な甘さが口に広がり、やがて消えていく。

 自分の額に右手の人差し指を当て、短く詠唱する。


 これで決まった時間だけ、浅い眠りに入れる様になる。

 騎士団伝統の夜警時に用いる仮眠魔法である。


 さて、目が覚めれば今度は地底遺跡が待っている。


 文献によれば数々の魔法的トラップに固められた厄介な場所だ。

 そこの奥に眠る古代兵器を回収、もしくは破壊できれば勇者達の依頼は完遂。

 ここの周辺の魔物はおとなしくなり、近くの村で蔓延する病も収束するはずだ。


(そしたら、一度ローレンに戻ろう。陛下に後で魔法通信をしなければ。グランハインドの家に挨拶に行って、義兄上(あにうえ)義姉上(あねうえ)に戻った事と任務の報告を……ああ、そう呼ぶとまた怒られるな。お兄様とお姉様、か)


 ウトウトとまどろみながら、凛々しくも逞しく、そして優しい義理の兄と、美しくも気高い、そして優しい義理の姉を脳裏に思い浮かべる。

 義父と義母を輪にかけて過保護なあの二人は、きっと笑顔に涙を浮かべてレオを迎え入れてくれるだろう。


義父上(ちちうえ)は外交でお疲れであろうから……義母上(ははうえ)にご相談して何か贈り物でも……ああ、道中に買った義母上(ははうえ)への土産もまとめないとな……騎士寮に戻ったら、ローズエルナにも渡さないと)


 いつも自分を守ってくれて、そして立派に育て上げてくれた義父と義母を思い出す。

 本当の息子以上に接してくれた、大切な人達だ。

 そして思い出すのは、生まれてからずっと一緒に居てくれた侍女のローズエルナの事。

 滅び行く祖国を背に、まだ幼かったレオの手を引いてローレンへと導いた2つ年上の彼女は、レオにとって第三の母に等しい。

 絶対に頭が上がらず、そして泣かせたくない女性であった。


(ローズは、モニカの事ちゃんと見てくれているのかな……急に連れてきちゃったから大変だろうけど、あの子結構頑張り屋だから、きっと可愛がってくれてるだろ)


 勇者アーレスの生まれ故郷に居た素朴で可愛らしい少女、モニカ。

 王都まで頑張ってアーレスに会う為にやって来たのに、一方的に別れを告げられ悲壮な顔で歓楽街を歩く彼女を放って置けなかったレオは、自分の騎士寮に彼女を雇い入れた。

 ローズの教育の元で侍女として成長すれば、見た目が好かれやすいモニカの事だ。

 きっと就職先に困る事はないだろう。

 そういう思惑であった。


 この時レオは知る由もないが、モニカはグランハインド家の家長であるオーランド伯爵に召し抱えられ、正式にレオ専属の侍女としてローズの部下として働いて居た。

 その胸にレオへの淡い恋心を抱きながら。


(まぁ、そしたら……アグリを飯にでも連れてってやるか。王立劇場の今年の演目、なんだったけか……使ってない給金が溜まりに溜まってるから、多少贅沢しても問題は……ない…………)


 来たる休日に思いを馳せながら、レオは三十二時間ぶりの睡眠へと落ちて行った。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





(勇者様! どこですか! 勇者様!) 


 寝ているアーレスの隣に立てかけられた神剣フレイムファリオンから、悲愴な叫びが木霊する。

 これだけ必死に、そして大音量で叫んでいるのにアーレスが起きないのは、全く聞こえないからである。


(あぁあああっ! 存在はすぐ近くにずっとあるのに! なんで姿を現してくれないんですかぁ! ファムはもう充分反省しましたぁ! もうこの変態に使われるの嫌ぁ!)


 五年前、あのローレンの田舎の山で。

 自らのおっちょこちょいのせいでアーレスが死んでしまうと思った神剣の意思、創世の火の使いである妖精、ファム・ミステリアは大きな失敗を再び犯した。


 本来勇者が行使するはずの神剣の所有者権限の一部。

 全体から見たら百分の一にも満たない微々たるその権限を、ファムに許されたレベルでアーレスへと移譲してしまったのだ。

 

 その失態のリカバリーは後日、本物の勇者が現れれば問題なく是正されるはずだった。

 勇者が神剣のすぐ側に居ればファムの力は増幅し、所有者権限はファムの意思で本来の持ち主へと移るからだ。


 だが最大の誤算は、アーレスと名乗る変態はファムの想像の斜め上かつ枠外を行くアホだった事。

 そして神剣の力が伝説ではあんまり詳しく描かれていなかった事だろう。


 飛来した魔神の使いである巨鳥を神剣の力で倒したのはアーレスだ。

 だがその勝ち方は、一言で言えば無様だった。


 本来の力の百分の一程度の力に振り回され、更には一撃で葬れるはずの雑魚である巨鳥と半日も戦っての辛勝。

 全身ズタボロのアーレスをファムの魔法で癒したのは、罪悪感からに他ならないが、アーレスは盛大にそれを勘違いした。


 神剣の力を十全に扱っていると錯覚したのだ。


 そんな訳が無い。

 

 創世の火によって鍛えられ、地母神と五柱の精霊神に磨かれた神剣と、その当代の管理者であるファム。

 そしてその魂が人々を守る為に延々と輪廻を繰り返す契約を地母神と結んだ気高き勇者の力が合わされば、その気になれば世界を作り変える事すら可能なのだ。


 アーレスが用いた物なんて、言うなれば冷たい氷に纏わりつく微かな冷気。

 燃え盛る炎によって生まれた肌を温める暖気でしか無い。


 なのに、アーレスは増長した。

 その日から自分こそは勇者であると吹聴してまわり、勝手に集落を飛び出し、近隣の山賊や魔物を自分勝手に殺して回るほどには増長した。


 夢見がちだが平凡の域をでない田舎の少年は、手に持った強大な力に溺れてただの殺戮者と化したのだ。


 それから二年余り、少しだけ大人になれたアーレスは山賊狩りをとりあえずやめてくれた。

 これは彼に残った微かな善意が鎌首を持ち上げたからではなく、山賊狩りは女子にウケが悪い事に気づいたからだ。


 この時のファムにはまだ罪悪感が残っていた。

 普通の素朴な少年に、自分という異質な力を分け与えてしまった事を深く後悔し、反省を繰り返していた。


 やがて迎えに来るであろう本来の主人。

 勇者にどう詫びようかと毎日泣き濡らしていた。


 だがそれも時間と共に薄れて行く。


 このかつて少年だったアーレスという青年に、人格面での学習能力というものは存在しないと薄々気づき始めたからだ。

 

 こうまで簡単に、そしてこうまで極端に堕ちて行くアーレスをただの異常者だと認識し始めたのだ。


 それからというもの、ファムはアーレスから所有者権限を取り上げる方法を思索していく。

 一刻も早く、一秒でも早くこのアホから逃げねば。

 神剣の名が地に落ちてしまう。


 ファムが焦れば焦るほど、アーレスの身勝手な行動は増長して行く。


 やがてアーレスの存在がにわかに騒がれ始め、ついには国王の耳に入ってしまった。


 意気揚々と兵士に連れられて王都に入り、身分不相応な額の金銭を渡され、その金で購入した馬鹿みたいに派手な鎧と馬鹿丸出しな『伝説の勇者、爆誕!』の文字がはためくのぼりを身につけたアーレスが王城に登城するのを頭を抱えて見ているしかなかった。


 だがそこで、ファムは見つけた。


(ゆ、勇者様の気配だぁあああ)


 大粒の涙をポロポロと零しながら、ファムは必死に勇者の姿を探す。

 神剣から離れられない自身の呪い、それでも周囲の景色を全て見逃さないよう全力で探す。


 が、見つからなかった。


 居るのだ。

 絶対に居るとファムか確信してた。


 かつて恋い焦がれた愛しの勇者。生まれては魔を打ちのめし、死んではまた輪廻を待つその魂。

 何百回、何千回と見てきたその勇姿。

 姿形は違えどもいつだって凛々しく、そして雄々しいその勇姿。

 人知を超越したその力は凄まじいが、決して特別気高い性格をしているわけでは無かった。

 普通笑い、普通に泣いて、普通に怒り、普通に恋をし、普通に幸せを求めた。

 だからこそ、勇者は気高いのだ。何よりも穏やかな暮らしを欲したからこそ、彼は特別だったのだ、

 そんな勇者と、ファムは常に共に在った。

 勇者の輪廻と共に死に、勇者の輪廻と共に新しいファムとして生まれる。

 その人格は全て違えど、勇者を求め欲する気持ちだけは変わらない。

 それは魂に刻まれた恋。永劫の時を共にすると近い合った、初代ファム・ミステリアと初代勇者との約束だ。


 だからファムは間違えない。

 神剣が魔神の存在を察知し目覚めるまで、ずっと天界でその時を待っていたのだ。

 間違える訳が無い。


 ローレンの王都は広い。

 そして数えきれないほどの人々で賑わっている。

 でも分かる。

 そう遠く無い場所に、勇者は居る。


(ゆうしゃさまぁ! ファムです! 貴方のファムはここにいます! 待たせてしまいました! 間違えてしまいました! ごめんなさい! でも! 私はあなたに会うためにここに居ます! ゆうしゃさまぁ!)


 だがその声は届かない。

 本来勇者にだけ届くはずのその声は、アーレスに移譲した所有者権限によってかなり短い範囲にまで制限されてしまったからだ。


 悔やんでも、悔やみきれない。

 なぜ自分は降りる場所を間違えたのか。


 最初に神剣として目覚めた場所は、魔神の配下によって今にも滅ぼされようとしていた小さな国の宝物庫だった。


 なぜそこに神剣が在ったのかはファムには分からない。

 ただ、魔神達は神剣を折る為の手段を持っている事だけは理解していた。

 すぐにポッキリと折るわけではない。

 神剣はそんなに脆くない。

 魔神の血に長く浸す事で脆くなるのだ。

 

 だからファムは、自身に許された力の限りを尽くして逃げた。


 勇者の側に居ないファムの力はとても弱い。

 それでも神剣を浮かし飛ばす事ぐらいはできた。

 三日三晩飛び続け、その時は感じ取れた勇者の存在を頼りにローレンを目指した。


 焦ったのは、魔神の使いのスピードだった。

 ファムと神剣が逃げたの事が発覚したのは、翌日の事だったはず。

 なのにたったの1日で追いつかれるとは思ってもみなかった。

 

 混乱し、疲労した結果があのザマだ。

 目的地は遥か遠くで、勇者は居ない。

 

 なんの関係もないサイコパスな少年を守るために所有権を移譲し、勇者を感知するための力もかなり弱まった。


 だけど、今勇者はここに居る。


(どこですか! 勇者様!)


 必死に叫ぶファムの思いも虚しく、勇者はその姿を現わす事は無かった。


 あれから二年。もうファムはゲンナリである。

 何せ勇者の存在は常に近くにあるのに、一回もその姿を見つけられていない。


 地獄かと思った。

 鼻先に人参をぶら下げられた馬の気持ちがすごく理解できる。

 ふざけるなと。

 いい加減にしてくれと。


 この二年の間にアーレスも成長して居る。

 主にゲスい方面にすくすくと。


 勇者の肩書きを悪用し、目につく婦女子を片っ端から戴くその姿に殺意さえ抱いてしまった。


 何が勇者だ!

 勇者様はそんな節操なく女子をもてあそんだりしない!


 そう言いたくても、ファムの声は誰にも届かない。


 そして今日、この洞窟で。

 今までで一番近く勇者の存在が接近して居る。


 届かなくてもファムは叫び続ける。

 ここから見えるあの洞窟の曲がり角。

 おそらくそこにはファムが心から待ち望んで居た勇者の姿が在る筈だ。


(あっ!)


 根気強く喉を枯らして叫ぶファムは見た。


 薄暗い洞窟の中で、レッカとヒナノが暖をとるあの魔法火に照らされて。


 背の高い男性の影が一瞬壁に映し出されたのを、ファムはその目で目撃した。


(あ、ああ……ああああああぁぁああ)


 涙が止まらない。

 もしかしたらずっ感じていた勇者の存在は、絶望に沈んだ自分の気が狂った結果の産物なのではないかとまで追い込まれていたからだ。


(居る……勇者様は確かにそこに居るんですね! なんで隠れて居るのかはわかりませんが! でもちゃんと私のすぐ近くに居るんですね! わかりました! ファム、頑張りますから! あなたが迎えに来てくれるその日まで! 今日この時の思い出を胸に生きていきますから!)


 神剣の意思。

 創世の火の使いである妖精。

 かつて愛した男のために命を投げ打った魂の生まれ変わり、ファム・ミステリア。


 彼女は今、幸せの中にいる。




 だいぶ病んだ幸せだが。

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[気になる点] 続きが気になります!!
[良い点] 人の心理描写などが蛇足だと感じられることもなく、逆にキャラクター一人一人のことが良く理解できる文章でした。 [一言] 自分好みの作品すぎて、連載でないことの悲しみと続きが欲しくなるもどかし…
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