断絶のクロニクル③
「まさか、本当にお前に殺されることになるとはな……」
「姉さん、は、返して、もらうよ」
「ふっ、好きにしろ。ただ、管理は怠るなよ。あれは最高傑作だからな」
「……」
姉さんは、お前の芸術作品じゃない。心の中で呟きながら鴉はナイフを主人であり、宿敵の上へ落としたのだった。
あれから3年の月日が経った。鴉は、顔は知られずとも、その業界では名を知らぬ者がいないほど有名になっていた。彼にとって、男の依頼は彼を殺すための過程に過ぎず、淡々と殺す。それだけだった。ただ、目の前の奴が男だったら、と考えない日はなかった。
だからだろう。こうやって男を殺せたのは。
「やっと、自由に、なったよ。姉さん」
今では高価な花に囲まれた義姉の剥製を抱え、鴉は屋敷を出る。その時に火を放つのも忘れない。あんな黒歴史としか言いようのない過去の遺恨なんて、消すに限るからだ。
「……お人好し、元気、かな」
あれから1度も会えていない義兄。守るべき、もう1人の存在。
今は何をしているのか。あの廃墟にまだ住んでいるのだろうか? 期待半分、恐れ半分で足を進める。
「お前……」
「おひと、よし」
彼はいた。あの廃墟を城にして。自分の真似なのか、片耳に青い石の嵌ったピアスを輝かせて。
良かった。生きてた。全てを自分は失っていなかった。その思いが、鴉の心に安堵をそして、今の今まで張り詰めていた緊張の糸を切った。
「おひと……よし」
ボロボロと涙が溢れた。義姉の死体を見ても、どんなに辛いことがあっても出なかった涙が次から次へと溢れて止まらない。
そんな鴉を義兄は、抱きしめた。きつく、そして優しく。
「……おかえり。待ってたよ」
「た、だいま……ただ、いま」
咳き込みながらも子供のように泣く鴉。彼は家と呼べる場所に帰ってきたのだ。やっと。やっと。
だけど、そこに彼の居場所はなかった。
「殺し屋だ……」
「恐ろしや」
「なんで、あんな奴がここに」
「リーダーの知り合いなのか」
「俺達もあの腕の女みたいに殺されるのか」
恐怖、畏怖。そんな感情が嫌でも突き刺さってくる。まるで、あの屋敷みたいだ。とても、居心地が悪い。
「あ、ごめん。俺からはあいつらにきちんと言うから」
「いいよ。俺が、出てく」
「けど」
「ここは、お前の、居場所、俺は、違う」
そもそも、復讐の為とはいえ、大きく道がそれた自分になど居場所なんてないのだ。
「いつも、見守ってる」
「……」
「姉さん、頼んだ 」
そう笑い、鴉は姿を消した。
黒い羽の代わりに、1滴の涙を残して。




