断絶のクロニクル
過去の人の過ちの世界。そう、彼らの世界は言われている。
常に厚く覆われた雲はいつも灰色で薄暗く、草木はとうに枯れ果て、人工物しかない。
貧困なんて当たり前。無法地帯はどこにでもあり、臓器売買、売春、人身売買なんて日常茶飯事だ。そこら辺に、臓器が抜かれ、骨とかわになった死体が転がっていたって、誰も見向きなんてしない。
そんな世界に、彼は産み落とされ、捨てられた。ものの数秒で、まるで何事もなかったように。
赤ん坊は無力だ。泣くことしかできない。あとは、ネズミや野良犬に喰われてその声を止ませるだけ。そんな単純作業がそこでも行われる。
「赤ちゃん……?」
筈だった。
ただ食われる運命を待っていた彼を拾い上げたのは、幼い少女。そんな少女の後ろから顔を出したのは、弟らしい少年。顔立ちが似ているところを見ると、2人は兄弟なのだろう。
「姉さん、それなに?」
「赤ん坊。しかも産まれたての」
「うわ。しわくちゃ」
「何言ってんの。美形じゃない。しかもピアスしてる」
「美形ね……」
「決めた。この子、育てるわ」
「何言ってるの!? 俺達2人で生きてるのが精一杯なのに」
弟のいう事は正論だった。彼らは数日前から汚水のみで生活している。固形物なんて、口にしたのは数週間前だ。そんな自分達に、こんな触ったらすぐに死んでしまいそうな幼い命を育てるなんて……。
そんな、弟の心配を他所に、彼女は笑ったのだ。
「こんな世界だからこそ、残したいじゃない」
私達が、生きた証を。
「この子はきっと、最高の証になってくれる」
「……」
「だから、育てましょ。2人で」
「わかったよ」
「ありがとう!」
「ただ。死んだらそれまでだからね」
「死なないように育てるのが私達の仕事だよ」
「はいはい」
彼らは知らない。この世界でまともな証など残せないことを。
それでも、彼らは選択したのだ。終わりしかない。この世界で歴史を紡ぐことを。
そう、これは、不幸が定められた悲しき男の生涯の一片を書き記した物語。




