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偽色彩師と漆黒の騎士  作者: 名紗すいか
美少女誘拐事件編
15/39

じゅう よん


 あの頃は幼くて、まだそれが普通だと思い込んでいた。



 話し相手が、いなかった。


 言葉を、掛けてくれる人も――――。



 必要な物は、頃合いを見計らって、堅牢な扉の向こう側の世界から運ばれて来る。

 食べ物だったり、服だったり……。



 少女はずっと、一人ぼっち。


 初めから、ずっと――――。



 背の高い南国の木、何種類もある果樹、香る草花、ちろちろと流れる人工の小川。

 中央に四阿があって、少女は一日の大半をそこで過ごす。


 草木を抜けた先には透明の板があって、四方八方、天井に至るまでを隙間なく囲われていた。


 お腹が空いたら果実をもぐ、喉が渇けば両手で川の水を掬う、寝たくなったら四阿か草の上で丸くなって眠る。


 小さな箱庭は、少女の世界の全てだった。


 そこは少女だけの、自由な楽園。


 ――こんな場所に、自由はないのですよ。


 少女に、その人が話す言葉は理解出来なかった。


 だけども、差し出された手は、躊躇わすに取った。


 その手は温かかった。

 少女の知らない、人の温もりだった。


 その人の瞳は澄んでいて、前に少女へと話し掛けたあの人のように、暗い光を宿していなかった。


 少女自身を、そのまま映していた。

 同じ生き物として、見てくれていた。

 

 ――――ルチカ。今日からそれが、あなたの名前です。


 ――――ル、チカ……?


 それが少女の、初めてしゃべった言葉だった。



 それが少女の、初めての贈り物となった。




◇◆◇◆◇◆



 ずき、と左のこめかみに、鋭い痛みが走った。


 ルチカはきつく眉根を寄せて、縫いとめられたように開かないまぶたを諦め、重たい上体をよろりと起こした。


 右目の薄い視界が、一部を映す。


 見知らぬ寝室だ。上手く閉めきれていない扉の隙間から、隣室の明かりがもれている。


 目に頼れないまま、ルチカは手で辺りを探った。


 チャリ、と鎖の馴染んだ音が耳へと流れ込み、自らを叱咤して右目だけはどうにかこじ開けた。


 左手首から伸びた鎖は、細かな傷がいくつか刻まれていたが、繋がる先の手錠はしっかりと彼の手首を捕らえていた。


「ヴィルッ……!」


 ルチカは潜めた叫びを上げた。


 寝台に転がされるようにして横たえられたヴィルバートは、昏睡している。揺すろうが名前を呼ぼうが、反応を示さない。


 彼の傍には手錠隠しに使っていた包帯が、乱雑に捨てられていた。


 ルチカは扉の向こうを気にしながら、その包帯をヴィルバートの傷口へと巻き始めた。


 何もしないよりはましなはずだ。


 ヴィルバートの頭を抱えて後頭部に包帯を潜らせたとき、はらはらと銀白桃の髪が落ちてきた。


 髪を結っていたはずのリボンがない。


 連れ去られるときに無くしてしまったのか。


 ルチカは悲嘆に暮れかけた顔を歪めて戻し、目の前のことにだけに意識を集中させた。


 リボンも大事だが、彼の方がずっと大切だ。


 このまま目を覚まさないとなると、深刻な状態に陥っているのかもしれない。

 ルチカよりも強く殴られたのか、打ち所が悪かったのか。

 どちらにしても、早く医師に診察を受けさせた方がいい。


 ルチカは無力な手のひらで、精一杯彼の頭を撫でた。

 手を当てることしか、ルチカに出来る処置はない。

 

「――――!」

「――――」


 突然、隣室から人の声が漏れ聞こえてきて、ルチカは聴覚を研ぎ澄ませた。


 誰かが怒鳴り、喚きながら近づいてくる。


「何で鍵も持って来ないのかな、この役立たずが!」


 一際大声で、男が怒鳴り散らした。


「鍵鍵鍵!鍵がないと希色のハニーに、忌み色の害虫がくっついたままになるじゃないかよぉ!」


(鍵って、……手錠の?)


 マキの私物である手錠に、ルチカは指先で触れた。

 鎖についた無数の傷は、壊そうとして彼らがつけたもののようだ。


 マキの悪戯心で嵌められた手錠のお陰で、ヴィルバートと引き離されずに済んでいる。


(マキさんと言えば、あれも確か……)


「――――そうだ!鍵がだめなら殺せばいい!ドゥウェリ!殺って来い!」


「男の方は別口で必要だって言っただろ、……でしょう」


「……だったら腕を切り落として来い!腕を切って、人工林に棄てて来い!」


 気配はすぐそばまで来ていた。声音がはっきりと鮮明に聞こえる。


 ルチカはヴィルバートを庇い、右目で扉を注視した。


 明かりのもれる範囲が徐々に広がっていき、光を背負うように二つの黒い影が現れた。


 一つは小物色彩師のドゥウェリだ。

 凶器は持っていない。例の杖もだ。

 

 そしてもう一つの影。まだ若い男だった。

 金茶の髪を撫でつけて、首には透き通るような紅の皮毛をたたえたフェレットを巻きつけている。


 フェレットは死んだように、くたりと長い胴体を弛緩させていた。

 おそらく仮死状態だ。


 ルチカが初めて目にする色であり、希色仲間。


「ドゥウェリ!ハニーが起きてるじゃないか!何で薬を使っておかなかったんだ!本っ当に、使えない色彩師だな」


 男がルチカを指差しながら、ドゥウェリに蔑みを吐き捨てた。

 

「……どら息子が」


 ぼそりとしたドゥウェリの悪態は運良く、本人には届かなかったようだ。


 ずかずかと大股で近づいて来た男は、寝台に乗り上げ、ヴィルバートから遠ざけるようにルチカを押し倒した。

 ルチカの腹部に馬乗りになり、両手をシーツに縫いとめると、醜く相好を崩す。


 ルチカは嫌悪で思わず顔を背けた。


「そんなに怯えなくて大丈夫だからね。いい子にしてたら、苦ぁいお薬はなしにしてあげようか。ぼくはリュオールの棺よりも、リタの『箱庭』の方が好みだから」


 ルチカは全身から血の気が引いていくのを感じていた。


 またあの日々に、逆戻りしなければならないのか。

 こんなに遠くまで、来たというのに。

 

「……この手錠、本っ当邪魔だな。ドゥウェリ!鉈を持って来い!自分で切ればいいんだよな?」


「だからその男は俺の保険だから死なれたら困るって言ってるだろうが、……でしょう」


「ハニーと愛を確かめ合う間も、横に置いておけって言うのか?」


「縛っておけばいいだろうが。いっそ併せて『箱庭』に入れるのもありだな。どっちも希色には違いない。希色収集家のパルフラット伯爵様邸には、希色持ちが二人もいると話題にもなる」


 ドゥウェリが変な敬語を捨てて、いつもの口調へと戻った。


「ぼくが欲しいのはハニーだけだ。もう、この美しい色彩意外、何も要らない……」


 陶然としたパルフラット伯爵が、ルチカの髪に頬擦りをした。


 ルチカは顔をしかめたまま無心で耐え忍ぶ。

 逆らって、ヴィルバートの腕が切られるような事態は避けなくてはならない。


 それだけは、何としてでも。


「ハニーはお利口さんだね。このフェレットは、何度も噛みついたんだ」


 パルフラット伯爵は、首からフェレットを乱暴にむしり取ると、ドゥウェリに向かって放り投げた。


 宙を舞ったフェレットを、ドゥウェリが上手く受け止めたので、ルチカはそっと安堵の息をついた。


 希色仲間が傷つけられるのは、自分が傷つけられるに等しい。


 ドゥウェリはフェレットを持て余したのか、隣室へと運んでいった。


「可愛い服をたくさん買わないと。好きなものを何でも買ってあげようね。ハニーは何が欲しい?」


 間近で髪の匂いを嗅いでいたパルフラット伯爵が、ルチカに猫なで声で問い掛けた。

 熱っぽい吐息が鈍痛の残るこめかみを掠めて、身を捩る。


 視力は無事なようで、半開きの左目からパルフラット伯爵を睥睨した。


 するとルチカの腿を、スカートの布越しに何が秘めやかにまさぐり、体がびくりと跳ねた。


(そこは……)


 ルチカは眉をひそめて、パルフラット伯爵へと言葉を返した。


「自由」


「あはは。この邸から出ないなら、自由をあげようね」


 パルフラット伯爵は頭を起こして、屈託のない笑顔を浮かべた。

 

 彼には本当に、ルチカしか見えていないようだ。――――ルチカの、色彩しか。


 ルチカはすぅ、と静かに息を吸い込むと、一気に言葉の濁流を浴びせ掛けた。


「それは自由じゃありませんよ。甘やかされ過ぎて自由を履き違えた口ですか。欲しいものを欲しいのままに手に入れることが自由だと思ってるんですね。箱庭出身のわたしから見てもあなたは不自由ですよ。自由は他人から与えられるものじゃなくて、自分で取りに行くものです。あなたがいう通り、わたしはとてもお利口さんなので、飼い主様の気持ちを察して動くことが出来るんです」


 ぽかんとしたパルフラット伯爵の口を、素早く身を起こした黒い影が、背後から手のひらで塞いだ。


「んぐっ――――!?」


 ルチカの眼前で、パルフラット伯爵の喉が、ごくりと上下するのをはっきりと捉えた。


(飲んだ!)


 ルチカの両手を拘束していたパルフラット伯爵の手がみるみるほどけていき、驚きに満ちていた目も、とろんと惚けたものへと変わっていく。


 そのパルフラット伯爵を粗雑に寝台へと沈め、影のような彼が、ルチカを見下ろした。

 その、紫石英の瞳で。


「大丈夫か?」


 ヴィルバートがルチカの背中を支え起こして、顔を覗く。


 左眉尻からこめかみ辺りに走る、赤い杖の痕に、ヴィルバートの表情が険しくなった。

 ルチカの髪を横へと梳き流して、腫れた皮膚の状態を確かめる。


「わたしは大丈夫ですよ。それより、あなたは平気なんですか?いつから意識が?」


「……この男が入ってくる、……少し前」


 意識のないふりをして、反撃の機会を待っていたのだろうか。

 ヴィルバートは居心地悪そうに顔を逸らした。

 漆黒の髪が、目尻を覆う。


 ルチカは、焦点の合わない虚ろな目で横たわるパルフラット伯爵を一瞥した。


「あれって、わたしがマキさんの部屋からくすねたあめ玉ですよね?」


 スカートのポケットに忍ばせていた劇薬指定のあめ玉を探り取られた瞬間、ヴィルバートの無事を確信して従順に耐えるのをやめたのだ。


「あれは何ですか?あの人、夢見る少女みたいに、うっとり至福の表情を浮かべてますよ?」


 陶酔という言葉を全身で表現するパルフラット伯爵に、ヴィルバートが眉を寄せ少し考えてから言った。


「……あの反応は、マキが調合した媚薬の一種だろうな。どれに当たるかは、賭けだったが」


 ルチカはあと二つ、件のあめ玉を持っている。

 もしかしたらそれぞれ成分が違い、副作用も変わってくるのかもしれない。


(恐るべし、マキさん)


「多彩な才能があの性格を支えてるんですね。悪戯にかける熱意が常軌を逸してます」


「……」


 ヴィルバートは沈黙を守り、寝台から音をたてず下りた。


 それに倣い、ルチカも息を潜めて彼の後ろに続く。

 隣室にはまだ、ドゥウェリが残っている可能性がある。慎重に爪先で歩いた。


 扉に体を潜め、ヴィルバートが明るい隣室をうかがう。

 

「今度こそ牢屋にぶち込んでやりましょう」


「静かに」


 短く叱られて、ルチカは大人しく口をつぐんだ。

 そしてヴィルバートの顎の下から顔をひょいと出し、隣室をながめた。


 煌々とした明かりの照らす室内には、ドゥウェリの姿はない。

 別室までフェレットを連れて行ったようだ。


「これからどうしますか?わたしたちは、ミアさんとは別件で拐われたみたいでしたよ?」


「そうとは限らない。あの色彩師で繋がっていただろう?」


 ヴィルバートは隣室に踏み込み、警戒しながらルチカの手錠を引いて進む。


「あの小物を捕らえて吐かせればいいんですね。わたしとあなたにした仕打ちを後悔させてやりましょう」


 意気込むルチカを、ヴィルバートがちらっと振り返り言った。


「もう、呼ばないのか?」


「……?」


「……わからないならいい」


 ヴィルバートは不機嫌そうに眉を寄せたまま、廊下へと続く扉に背を張りつけ、ゆっくりと開いた。

 しかし廊下の先は暗く長い。奥まで見通せずに、一度扉を閉めて作戦を練ることにした。


「武器になりそうなものならありますよ」


 暖炉の傍から火掻き棒を拾い、ルチカは学院の生徒たちに指摘された点を念頭におき、――――構えた。


「……くっ……」


 刹那、目の前でヴィルバートが崩れ落ちた。


 いつものように手の甲で口元を隠す余裕もないのか、片膝を突いて小刻みに震えている。

 時折、苦しげな呻きがもれ聞こえてきた。


「……こういう技です」


 腹筋が悲鳴を上げているヴィルバートが、項垂れたままで言葉をもらす。


「嘘を……つく、な……」


(効果のほどはたった今実証されたのに)


 ルチカは構えていた火掻き棒を下ろして、しゃがみ込んだ。


 ヴィルバートは笑いの沸点が低い。

 ドゥウェリ相手には通用しないかもしれない。

 となると、もう一つあめ玉を使用することも考慮するべきか。


「いつまで笑ってるんですか。騎士なら腹筋ぐらい鍛えてますよね」


(この禁断の技名は腹筋殺しにしよう)


 震えが治まり、ヴィルバートは深呼吸を繰り返してから、ルチカをはたいた。


「邪魔をするな。お利口な猫だなんてよく言えたものだな」


「立派に戦ったじゃないですか。あなたを守るためにあの変態色彩愛好家に、何をされても耐えたんですから」


「……何を、された?」


 ヴィルバートの表情が凍りついた。

 目を閉じていたから見えていなかったのだろう。


「馬乗りされて手を拘束されたいたいけな少女の髪に、何度も頬擦りする変態の所業を見逃しましたか」


 ヴィルバートがルチカの頭に触れて、不快そうに顔をしかめた。


「水場が……」


「噴水に突き落としたら怒りますよ」


「口だけで、どうせ怒らないだろう。ぶっ飛ばすっていうのも口癖みたいだが、実際に手を出したところを見たことがない」


 ルチカは押し黙った。

 的を射た発言に、少々戸惑う。

 言われてみれば、拳を振るったことなどなかった。

 

「今度は守ってやるから、にゃーにゃー騒ぐな。わかったか?」


 ぽん、と頭に手を置いて笑んだヴィルバートに、心臓が音を立てて飛び跳ねたルチカは、俯いて絨毯の毛をむしり、気を紛らわした。


 稀な笑顔が網膜に焼きつき消えてくれない。

 鼓動が加速し、一心不乱に絨毯をむしり尽くそうとていたときだ。


 ヴィルバートが研ぎ澄まされた表情に切り換え、ルチカを引き連れ扉の脇へと身を潜めた。


 壁に背中を預け、息を詰める。

 足音が微弱な振動となり、背筋から伝わり流れてきた。

 徐々に伝動が鮮明さを増す。


(――――来る)


 ルチカが注視していた扉が押し開かれた。

 それと同時に、ヴィルバートが扉の陰から飛び出して、侵入者の背後から首に腕を掛けて締め上げた。


 ヴィルバートの腕をバシバシ叩き、降参を訴えるのはドゥウェリだ。

 抵抗する力が弱まりだしたところで、首の戒めをほどき、ドゥウェリの腕を後方へと捻ると、壁へと叩きつけた。


「ぐっ――――!」


「カドニールで誘拐された四人はどこだ」


 ヴィルバートが体重を掛け、ドゥウェリをさらに壁へと押しつける。


「し、知らない!俺は頼まれただけだ!」


 潰されていない顔半分で、ドゥウェリが叫ぶ。


「さっき、俺のことを保険と言っていたな?あれは何だ」


「それは……」


 ドゥウェリの目が泳ぎ、ルチカとぱちりと合うと悔しげに吐き捨てた。


「おまえが美少女だったらあっちに連れて行ったのにッ、くそッ!」


「ぶっ飛ばして地層深くに頭からめり込ませてやる」


「落ち着け、猫。――――確かに美少女ではないが、美少女という体で連れて行けばいいだろう」


「この俺の審美眼が疑われるようなことは御免被る。美しくなってから出直してこい!ガキはあのどら息子の相手で十分だ!」


「美の基準を少し下げるだけだろう。さっさと案内しろ」


 ヴィルバートは頭に巻かれた包帯をほどくと、ドゥウェリの両手を厳重に就縛し、背中を押して歩かせた。


「この失礼な会話の応酬は何ですか。二人でわたしを貶し合っただけですよね。そんなに可愛くないですか」


 廊下へと出ていく二人を追いながら、ルチカは自分の顔を触って確かめる。


(師匠は可愛い可愛いって言ってくれるのに)

 

「……可愛くないとは言ってないだろう」


「白ゴリラを違和感なく可愛がれるあなたに言われても」


「マリアは正真正銘、猫だ。――――色彩師、しっかり足を動かせ」


 ヴィルバートがドゥウェリを叱りつける。


 するとドゥウェリが虚を突かれたように目を丸くしてから、じわりと強かな笑みを口元に浮かべた。


(この余裕は?)


 訝しみながら屋外へと出たときだ、ドゥウェリがにやりと笑って足を止めた。


「そう言えばおまえ……色酔いするんじゃなかったか?いいのか?今ここで力を使ったらどうなるか、見物だな」


 ヴィルバートが反射的にドゥウェリから体を離した。


「おぉっと、こんなところに芽吹いたばかりの草が」


 後ろ手に縛られたドゥウェリは、脅しかけるように地面へとどかりと座り、小さな二枚の葉を生やした白い草へと触れた。


 ルチカは咄嗟にヴィルバートを庇い、前に立ちはだかった。

 それが、意味のないことであっても。


 ドゥウェリの腕を掴み、草から遠ざけようとしたが簡単に弾き飛ばされ、ヴィルバートに抱き止められた。


「しばらく気分が悪くなるだけだ」


 そうは言ったが、ドゥウェリ手首からから伸びた包帯の先を固く握り締めている。

 条件反射なのか、彼の額に汗がにじんだ。


 ルチカが、今度は体当たりをしようと身構えたときだ。


「――――な、なぜだ!?」


 ドゥウェリがひどく狼狽し、何度も草に触れて、最後は苛立ちを込めて草を引き千切った。


 白い、草を。


「そんな、馬鹿な……!そのガキには指一本触れてないじゃないかッ!」


 のたうち回るドゥウェリに、ヴィルバートが面食らったらのか、ルチカを抱き寄せてつぶやいた。


「何が……?」


「天罰でも下ったんじゃないですか」


「そこの不美人ッ!何しやがった!!」


 暴れ転げたドゥウェリがルチカを憎悪に満ちあふれたで睨みつけた。


 ルチカは冷めた表情でドゥウェリを見下ろし言った。


「女神の力を奪われたんじゃないですか?胸に手を当ててよく考えなさい。最近、絶世の美女と濃密な口づけを交わしませんでしたか?」




 ルチカの言葉に、ドゥウェリが驚愕に目を見開いた。



マキさんは出番がなくても大活躍です。

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