零劇目 「32歳のアルバイター俺が死んだ日」
俺の名前は・・・まぁ、置いておこう。
この話は俺が転生してからがメインだからな。
歳は32歳、職業はフリーターだ。
こんな年齢にもなってアルバイトだなんて・・・。
俺だってこんな事にはなりたくなかった。
そう、俺の運のツキは大学入試にまで遡る。
14年前。
俺はA判定が出ていた第一志望W大の試験日に高熱が出て、滑り止めのK大の試験日に熱が振り返った。
もちろん結果は不合格。
マッハで心が折れ、浪人する気にもなれなかった俺は四流大に入学。
しかもその大学にも馴染めずに6年かけてどうにか卒業。
もちろん就活などする気もなく、フリーターになった。
バイト仲間はどんどん年下になっていき、「長老」などと言われるようになった。
そして俺は良い気になって偉そうに仕事を教えていたが、彼らは1、2年もすると「就活」→「内定」という理由から辞めていく。
気がつけば俺も「長老」から「神様」とランクアップ!!
きゃっほいと喜んだが、実際に上がった時給は80円ぽっち。
親も痴呆が入り、どうにか叔父さんが面倒を見てくれている。
「あぁ、えっとぉ・・・はじめましてぇ」
と母が俺に頭をさげる。
子供の頃に俺を叱り、抱きしめ、励ましてくれた母。
A判定を取った事を一番喜んでくれて、大学時代に心配してくれてた母。
俺が呆然としていると
「前に会いまひたっけ」
と首をかしげた。
その時に
俺は全てから目を背け出した。
家事も、洗濯も、掃除も放棄した。
バイトリーダーという薄っぺらい役職にしがみつき、そこには自己犠牲と若い時間の浪費しか無かった。
真実と現実に目を瞑りながら、「俺は一流大学にA判定だった。本当は有能で、引く手数多だった」という妄想を肴に、発泡酒を煽る日々。
いつの間にか腹は出て、二重顎の髪の薄くなった自分の姿が鏡に写り実感する。
あの時やっておけば良かった、と。
☆
気がつけば三十路も過ぎ、二年が経った。
神様はどうしようも無い俺に最後のチャンスを与えてくれたらしい。
バイトの「正社員登用」だが、俺はそれすらも棒に振ったのだ。
「お前、このままじゃどうしようもなくなるぞ!?」
今更何を言う。あれだけ安時給でこき使ったくせに!
俺の頭には「恨」と「怨」という字しか無かった。
店長は本気でそう言ってくれたらしいが、その時俺は
「良いんすよ・・・、俺の人生なんてどうせクズですから」
と暴言にも似た、戯言を吐いて捨てた。
店長は二週間後に本部に栄転。人事部に移動になったらしい。
バイトの後輩に
「店長はあの時、どんな手を使っても正社員にさせたかったらしいですよ」
と言われ、俺はその日に全てを諦めた。
笑いたきゃ笑えば良い。
俺にしてみれば、外に出無いと頑なになるニートの方が根性があると思う。
だから俺はバイトを辞めて、部屋に閉じこもった。
どこかで本気を出せば良かった。
どこかでやる気を出せば良かった。
過去と比較して、あの時やればと後悔する罪があれば。
未来と比較して、今からやろうと反省する罰があれば。
あの時やっていれば。
全てを放棄した者に神は愛想をつかせたらしく、赤信号に気づかずに俺はその人生を終了させた。
はずだった。
☆
「ん?」
俺は「俺」という意識が、既に存在している事に驚く。
「真っ暗だ」
俺は発生し、聞こえるという感覚に気づく。
五感。
生きている証左。
「それは目を瞑っているからだにゃぁ♪」
他者が居る。
俺はその他者の指摘に、言われた通り目を開けた。
「どこだ?ここ?」
「名前も無い町・・・みんな忘却街って呼んでるニョ」
そこに居たのは、年齢が二桁になったかどうかの少女だった。
まん丸い目をパチパチさせ、低い鼻が可愛らしい。
「大丈夫かニャ?」と心配しながら小さな口を開き、心配する。
人に心配してもらったのなんて何年ぶりだろう。
そして俺は彼女の頭に目線を向けた。
そう、頭の上に生えた。
猫の耳。
「え?」
俺がびっくりしたのに気づいたのか、その耳をくるくると回してから
「この耳が珍しいニャか?」
とケラケラと笑う。
「君は一体どこから来たのかニャ?」
その少女は透き通った瞳で俺を覗き込んだ。
猫耳を生やす女の子なんて地球上にいるわけが無い。
そう、俺は異世界に転生したのだと、自覚した。




