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罪に罰を、愛には愛を

作者: 抹茶ミルク

 




 ──あたし、死ぬの……?


 ──痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い──


 ……いやだ、いやだよ。死にたくない……。



 道路に飛び出した子供をかばって、トラックに轢かれた。まるで、漫画みたいだよね。

 でも、助けた子供はボールを拾ってそそくさと逃げてった。




 後悔。

 あたしは、あんな子供のために死ぬのか。

 後悔。

 死ぬ間際に恨み言じゃあ、救われないね。

 後悔。

 トラックの運転手さんの一生を狂わせちゃった。

 でもちょっとだけ、愉快。

 こんな状況でも他人を心配してる自分が、ちょっと嬉しい。

 けどやっぱりね、後悔。

 だって、だって、死にたくないよ……。


 薄れる痛み。離れる意識。

 最後の最期に、ぼやけた視界に微かに映ったのは、トラックから転がるように飛び出してきた人影だった。


 ◇◇◇






「……っ…………?」

「目、覚めたみたいだね」

「………………」

「気分、どう?」

「………………」

「体で痛むところ、ない?」

「………………」

「水、飲む?」

「………………」


 話す気は起こらなくて、軽く首を振って返事に代えた。

 だけど最後の質問だけは、縦に振った。

 コップを受け取るとき、彼女の指が触れた。

 ああ、温かい。生まれて初めて熱を感じたみたいな気分になった。


「怪我はしてなかったけど、なかなか起きなかったから。もうすぐ死んじゃうんじゃないかって、心配だったよ」

「…………ごめん」

「どうしてあんなところに倒れてたの?」

「………………分から、ない」


 潤った喉からは、かすれた声がこぼれた。

 体を起こそうとしたら、優しく止められた。


「もう少し安静に、ね」

「…………うん」


 どうやらここは天国か、地球じゃない別の星か。

 どっちにせよ全く別の、自分の常識が通用しない世界なのだろう。


 彼女についている大きな翼を見て、ぼく(・ ・)はそう思った。

 彼女はぼくと目が合うと、静かに微笑んだ。

 光差す窓を背に、彼女はとても美しかった。


 ◇◇◇






 ぼくはトラックの運転手をしていた。

 やっとの思いで就くことができた仕事だった。

 家族も、友達も、ご近所さんも、みんな祝福してくれた。


 だけど、あの日のぼくは疲れていた。

 お酒も飲んでいない。寝不足だったわけでもない。

 ただ少し、調子が悪かっただけだった。


 だから、子供が飛び出してきたのに気づいたとき、少し対応が遅れた。

 ブレーキは間に合わないかもしれないから、とっさにハンドルを右に切った。


 そのときだった。いきなり、もう一人が飛び出してきたのは。

 長い黒髪の、セーラー服の似合う女の子だった。

 ぼくは一瞬、訳が分からなくなって。そして、ブレーキが遅れた。

 今度は致命的な遅れだった。


 混乱して歪む視界が頭の中を激しくかき混ぜた。

 そして、衝撃がフロントからハンドルから腕から全身へと伝わってきた。

 ドッ……って。


 じわりじわりと広がる赤。

 慌ててトラックから降りようとして、シートベルトに阻まれた。

 カチカチ、カチカチカチ……。

 手が震えて、赤いボタンがしっかり押せなかった。



 警察と消防署に連絡して、ふらふら揺れるモノクロの視界に負けて、座り込んだ。

 彼女に触れることもできなかった。血が靴を濡らすくらい近くにいたのに、手を伸ばすことすらできなかった。

 あの子供が母親を連れて戻ってくるなんてこともなかったから、ぼくはたった一人、そこにいた。


 それから警察が来て、質問されて、アルコールの検査をされて、調書をとられた。

 正直、よく覚えていない。

 一体ぼくはいつ気を失ったのだろうか。

 どの記憶までが、真実なのだろうか。



 ◇◇◇






 ぼくの異世界での新たな生活が始まった。

 心に乗った重りは、なかなかとれなかった。



 完全にぼくが悪いわけではなかった、とは思えなかった。

 信号無視をしたわけでもないし、道を確認してなかったわけでもない。

 でも、ぼくなら止まれた。あの少女も死なずに済んだ。


 両手ですくえるものをこぼすのは、罪か。救えるものをこぼすのは、悪か。

 ぼくは、人の命をトラックで轢いたんだ。


 しばらくの間、ずっとそんなことばかりを考えていた。

 元気のないぼくに、彼女はいろいろと世話を焼いてくれた。

 どこに行っても迷惑かけてばかりだと思った。情けない。




 ぼくを拾ってくれた彼女は、静かな森の小さな一軒家に老人と二人で暮らしていた。

 彼女もまた、幼いころに拾ってもらったとのこと。

 まだ幼い彼女を捨てた両親は、行方不明。

 どこの世界にも似たようなことはあるらしい。


 老人にも翼が生えていた。

 その人から、この世界では翼があるのが普通だと教わった。

 ぼくはそのとき、一度も外に出て、様々な人と話すことをしていなかったから、そんなことは知らなかった。


 しかし、彼女に生えている翼は片方が欠けていた。

 だから彼女は、飛べなかった。

 ぼくはつたない言葉で彼女を励まそうとした。

「人は歩いてどこへでも行けるんだよ。ぼくがもといた世界ではね、自動車っていう……」

 これが、少しずつ立ち直りかけていたぼくの、小さな一歩。




 初めて街に買い物に行ったとき、いきなりぼくは笑われた。

 道行く人々には、一対の翼が生えていた。

 彼女も馬鹿にされていた。ぼくは彼女を心配した。

 けれども彼女は笑って、「慣れてる」と言った。でもやっぱり、彼女はまだ辛いみたいで、ぼくはその笑顔を直視できなかった。



 この世界では、翼がないことは劣っていることとされていた。

 他にも翼が小さかったり、色がくすんでいたりするだけでも差別対象になるらしい。

 ただ、表面上ではあまり大きな問題になっていないらしいのだが。

 どの世界にも似たようなことはあるらしいと、またぼくは思った。


 翼の揃った人々は飛ぶことができる。

 でも、老人や子供、怪我人など、飛べない人もいる。

 ぼくたちは、そういった人のために整備された道路を歩いた。

 速度は出ない。でも彼女と話しながらゆっくり歩く道も、いいと思った。

 地球ではいそいそとどこへ向かっていたのだろうか。せかせかと何を目指していたのだろうか。

 そんなことを考えさせられるほど、この世界はゆっくりと回っていた。




 満天の星夜の晩、老人が亡くなった。彼女と、短い間だったけどぼくの親だった人だ。

 涙は出た。人の死ぬ瞬間を目の当たりにするのは二回目だった。

 でも思ったより気分は沈まなかった。


 だけど彼女にはぼくよりも深い思い入れがあるから、その落ち込みようはひどいものだった。

 ぼくは震える彼女の肩を抱いた。少しでもその心を慰めたくて。少しでも早く笑ってほしくて。

 そしたら彼女は力いっぱいぼくにすがりついて、胸に顔をうずめて泣いた。

 ぼくは長い間迷ったあと、彼女の頭に手を乗せた。そしてまた長い間迷ってから、恐る恐る髪をくように手を動かし始めた。


 そうやって体を寄せ合っていたら、いつの間にかぼくも泣いていた。

 彼女の悲しみを少しでも分かち合えたとしたなら、ぼくは幸せだ。

 結局そのあとは彼女が泣きやむのが先で、今度はぼくが慰めてもらった。

 頭を撫でる柔らかくて小さな手が、たまらなく愛おしかった。





 そんなとき、この世界に「天界の門(ヘヴンズ・ゲート)」なる場所があると知った。

 この世で最も神聖なる場所へと繋がる門。

 神々しい力が溢れる場所で、願いが叶う場所。

 ただの言い伝えだったけど、不思議と作り話とは思えなかった。



 この頃ぼくは、もとの世界に戻りたかった。

 ホームシックってやつだろうか。

 この世界は好きだったけど、ぼくはこの世界の住人じゃないから。


 いや、違う。そんな理由じゃない。

 相変わらずぼくの心にはあの事故があって、たまに夢に見るほど。

 だからぼくは彼女の遺族に謝りたかった。

 日本の法律じゃあぼくを殺してはくれない。

 ぼくは少しでもこの、罪という業を背負った体に罰という鞭がほしかったのだ。


 いろいろと未練もあったけど、とにかくぼくはもとの世界に戻るために行動を開始した。

 天界の門を探すのだ。

 ぼくは旅へ出た。彼女と共に。




 ゆっくりと地を進む旅になった。

 悠然とそびえる山岳を、渓谷の切り立った崖道を、果てまで続くかのような大森林を、いにしえの乾いた大地を、ぼくたちは歩いて進んだ。



 ある場所では、翼がないことを馬鹿にされ、迫害を受けた。

 ぼくたちは黙って通り過ぎた。ぼくたちは「慣れてる」と言って笑い合った。その笑顔にはもうあのときみたいな辛さはなかった。


 ある場所では、同じように翼の欠けた旅人に出会った。

 しばらくみちをともにし、友の契りを交わして別れた。焚き火を囲んだあの夜を、ぼくは忘れない。


 ある場所では、彼女が病を患った。

 ぼくは命がけで薬の材料を集め、彼女を治した。余った薬は同じように困っている人に譲った。


 ある場所では、とある里が災害にあって苦しんでいた。

 ぼくたちは復興作業を手伝い、人々から感謝を受けた。人と人は、助け合い、認め合えることを実感した。


 ある場所では、猛獣と対峙した。

 なんとか彼女を守り抜き、ぼくも生き残れた。二本の爪痕は、今も胸から腹にかけて残っている。


 ある場所では、川を渡った。

 必死に頼み込んで、なんとか渡し守を説得した。岸で盗賊に待ち伏せされて、荷物の半分を失って逃げ切った。渡し守と盗賊はグルだった。


 ある場所では、友と再開した。

 彼は事業に成功していて、ボロボロのぼくたちとは対照的に映った。この世界から差別をなくすと意気込む彼に、僕は地球で差別と戦った偉人の話を聞かせて応援した。




 ◇◇◇






 いろいろなことがあった。

 長い時間がかかった。

 死にそうになったことも何度もある。

 だけど、友もたくさんできた。

 何度となく笑い、何度となく泣いた。


 けれどもぼくは今、彼女と二人で巨大な門の前にいる。

 足元は黄金の雲だ。足首まで雲に埋まってしまっている。

 ふわふわとした足場だけれど、不思議と不安にはならない。

 足から伝わるエネルギーがぼくを、彼女を包んでいる。


 門からは神々しい光が溢れてくる。

 暖かく、それでいて何者も寄せ付けない神聖さを持った光だった。


「これが、天界の門……」

「綺麗ね……」


 ぼくたちはしばらく動くこともできず立ち尽くしていた。


「よし……」


 ぼくはようやく門に触れる決心を固めて、手を伸ばした。

 門に近づくにつれて、あるはずのない圧力に負けそうになる。

 ようやく手が届きそうなところまで来たとき、不意に声が響いた。


「待て」


「……!? あ、あなたは……?」

「この門の門番だ。来客とは何年ぶりだろうか」


 ぼくはいきなり目の前に現れた存在に驚いて尻餅をついた。

 柔らかな雲に腰まで埋まった。

 彼女がぼくを心配してしゃがみこむ。


 それは、人の形をした「何か」だった。

 姿はぼくと背丈の変わらない女性なのに、絶対に及ばない距離があるように感じる。

 そして、それを象徴するかのように、背中に三対の白い翼が生えていた。


「主らがここに来た理由は分かっている」

「願いを叶えてくれるというのは、本当なのか?」

「本当だ。この場所に関する記憶と引き換えに、であるがな」


 ぼくを見下ろす目が細まった。

 体がカアッと熱くなる。

 ようやく、ぼくの願いが叶うのか……。




「主らはただの言い伝えを信じ! 長く厳しい旅路を経てなおここを求め! その絆は確かに主らを固く結んで離さなかった!」


「故に我はその絆に誓う! 主らの願いは必ずや叶えよう!」



「さあ、想え! そして言うがよい! 主らの願いを!」


 高らかに、そして歌うように彼女が言った。


 ドクン、と。心臓が大きく鳴った。

 ぼくは大きく息を吸う。



「ぼくは……」



 思い出す。

 ここに辿り着くまでに起こった様々を。



「ぼくは……」



 思い出す。

 地球での記憶を。



「ぼくは……!」



 そして見る。

 今、ぼくのとなりで手を握ってくれている彼女の顔を。

 苦難を共にしてきた、その美しき彼女の顔を。



 大きく息を吸った。


「ぼくは! ぼくが殺した彼女に!」


 叫ぶように、ぼくは言葉を絞り出す。





「謝りたいっ!!」





 ぼくは最初、もとの世界に戻り、罪を償いたい、罰を受けたいと思っていた。


 でも、どんなとがでもその優しく暖かい笑顔で包んでくれる彼女と旅をして。

 ぼくは己の本当の罪に気が付いたんだ。


 真の罪とは。

 本当の過ちとは。


 ぼくが、ぼくが殺した彼女から目を背けていたことだ。


 ぼくがどれだけ苦しんでも、彼女は癒されない。報われない。救われない。

 ぼくの臆病な罪の意識は、そんな簡単なことに気付くのにたくさんの年月をかけさせた。


 ぼくが本当にすべきだったのは。

 彼女に会い、話し、謝ることだ。

 もうぼくは間違えない。何があろうと、彼女から目を逸らさない、向き合うことを恐れない。



「お願い、します……」



 ぼく一人では気づけなかった。

 彼女がいてくれたから気づくことができた。

 ぼくは、馬鹿だから……。


 ぼくは、伝えきれないほどの感謝の念を込めて。

 彼女の手を強く握り返した。


 ぼくは、もとの世界には戻れない。

 きみとは、ずっと一緒だ。

 だから、長い時間をかけてきみに伝えよう。

 そう思って。





「ふむ。では、主はなにを願う?」


 門番は、視線を彼女に向けた。


 ぼくは、彼女の願いを知らない。

 旅の中で、ぼくは彼女の願いを教えてもらえなかったのだ。


「私の願い……」


 彼女はそこで一度切り、深呼吸をすると力強く言った。



「私たちを、もとの世界に帰してほしい」


「……え?」



 その瞬間、思考が止まり、間抜けな声が洩れた。

 どういう、ことだ……?



「ここの記憶はあげる。けど、今までの、私たちが出会ってからここに着くまでの記憶は残して」

「いいだろう。ただし、この場所を目指していたことは忘れてもらう」

「ええ。いいわ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうことなんだ!?」


 ぼくに振り向いた彼女は、優しく微笑んでいた。


「え、は、ちょっと……」

「ではまず、一つ目の願いを叶えよう」


 慌てるぼくをよそに、門番は厳かに言った。

 刹那、門から溢れる光が強くなり、何も見えなくなった。


 ◇◇◇





「あ……」

「………………」


 ぼくの隣には、彼女・ ・がいた。

 ぼくが殺した、彼女だ。


 その姿を見た瞬間、ぼくの中で何かが破れた。言葉が、思いが溢れてきて、止まらなくなる。


「ぼ、く、ああ……」

「ごめんね。いままで黙ってて」


 その声は、ぼくが聞き慣れた彼女の声だったけど、なぜか懐かしい響きをもってぼくに届いた。

 涙がこぼれてくる。


「ぼく……ぁ……っ、ごめん!」


「ぼくのせいで、きみを傷つけた!」


「きみの人生を奪った!」



「きみから、逃げようとした!!」



 ああ、そうか。そうなんだね。

 きみは、ずっとぼくを見てきたんだね。

 きみから目を背け、逃げようとして、そのくせ自分だけ楽になろうとする最低なぼくを。

 きみはずっと、一番近いところで見てきたんだね。



 しばらく黙ってぼくの告白を聞いていた彼女が口を開いた。


「あのね。嬉しかったよ」

「…………っ」



 そのときぼくはもう、考えていた、言いたかった言葉が詰まっていて。


「旅の途中で自分の正体に気づいたんだけど。なかなか言い出せなくって」

「そ、んな…………」

「あたしも、ごめんね。焦ってて、浮ついてて、何も考えずに飛び出して」

「そんな……そんなこと……」

「それで、こんなことになっちゃって」

「違うよ……! ぼくが……!」

「ううん。違わない」



「あたしにも、罪を背負わせて?」


「あたしにも、罰を分けてよ?」



「一人で勝手に納得してるのは、ずるいから。ね?」




 涙が、止まらなかった。

 どうしたらいいのか、全く分からなくって。

 ぼくは逃げるように泣き続けた。


 彼女はいつかのようにぼくの頭を撫で続けてくれた。

 ぼくが泣きやむまで、ずっと。ずっと。


 ◇◇◇






「では、二つ目の願いを叶えよう」

「「はい」」


 ぼくたちを黄金色の光が包む。



「確かに! 主らはここに立ち! 確かな絆をこの門に刻んだ!」



 ぼくたちはお互いを見合って、微笑み合う。



「その勇気と愛に免じて! ここに二つ目の願いを叶えよう!」



 手を繋いだ。

 美しい手だ。

 そして、たまらなく愛おしい手でもある。


 光がより一層強くなる。

 もう彼女の顔も見えない。

 けど確かに彼女は、ここにいる。

 ここに生きている。



 そしてぼくたちは、もとの世界に戻った。


 ◇◇◇






「ん……」


 薄暗い部屋に、ぼくは座っていた。

 目の前には、真っ白なベッドがあった。


「おはよう」


 ベッドには、半身を起こした彼女がいた。

 白い服を着て、点滴を腕に繋げている。


 デジタルな時計は午前四時を示していた。


「帰って、きたね」

「うん……」


 真っ白なカーテンからはほのかに明るい空が見える。


「実感、湧かないね」

「湧かないね」

「こっちじゃ、罰を受けるのはぼくだけなんだよね」

「うん。そうだね」

「ぼく、あとできみの家族に謝るよ」

「罰を軽くするために?」


 彼女がいたずらっぽく言うものだから、ぼくはこう返した。


「ぼくが楽になるために」

「ずるいよ」

「冗談。ぼくが苦しむために」

「それも、いやだな」


 彼女が小さく咳き込んだ。


「水飲む?」

「ありがと」


 ぼくは、小さな丸テーブルに置かれた水のペットボトルを手渡そうとした。

 ふと気付いて、キャップを取る。


「ありがと」


 渡すとき、ぼくの指に彼女の指が触れた。


「暖かい」


 朝日がカーテンの隙間から真っ白な部屋を差す。

 光を背に、彼女は微笑んだ。


「はじめまして、かな……」

「うん。ただいま……」


 どこまでも白い部屋に、その笑顔は美しく咲いた。

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