第四話
全員が関ヶ原城の大広間に集まった。
これは、文に書いてあったことを話し合うためである。
文に書いてあったこととは。
「戦をやめ、また違う方法で決着を決めるべきである」
戦国の世で、こんなことは珍しいではないか。
いや、正直ないに等しい。
大体、こんな話しあいで決着をつけようなど、武将たちが納得しないのだ。
それでもこうするしかない状態に、両軍ともいるのである。
兵量は足りず、兵も疲労がたまり士気も上がらない。
休戦も考えたが、そうなると相手が攻めてくるのではないか、と気が気ではない。
それに、今の状態を勝手に見た周りがどっちが負けたと言い出しかねない。
そんなことになったら、士気にも関わる。
どちらにもその心配があり、休戦は避けたいのである。
さて、広間に集まったのは石田三成、小早川秀秋、徳川家康、宇喜多秀家、池田輝政、伊達政宗の六人である。
政宗は、自分の領地である東北にいたところ、関ヶ原城に入るときいて、城主である自分が!という名目で本当は、面白い戦に参加できるからという自己満足のためにわざわざ東北から大急ぎで来たのだ。その速さは、かの有名な話豊臣秀吉が行った中国大返しと同じ、またはそれ以上の速さである。
広間に集まった武将たちの座っている位置だが、東には徳川家康を先頭に池田輝政、伊達政宗。
西には、石田三成を先頭に小早川秀秋、宇喜多秀家が座っている。
両軍、実質の大将である家康と三成はどどん、とかまえ両者睨み合っている。
それを見て、何故か奮起する輝政。そして、何故か怯える秀秋。
政宗と秀家は笑っているが、決定的に違うところがある。
こんなことを言ってしまっては、大変失礼なのだが、お伝えするために文字にする。
秀家の様子が、少し政宗とは違うである。政宗はこれから起こることの計算をしていそうな不敵な笑みである。
賢そうだ。だが、それに比べて秀家はなんというか…阿呆っぽいのである。
ぼーっと上を見たり、体を揺らしながら笑ったりと、なんというか空気が読めてないのである。
時折、いい天気だね!とか、お腹すかない?とか、空気よめよ!と言いたくなることを発するのである。
「吉継はまだ来ぬのか…」
そんな秀家を無視し、苦い顔であたりをきょろきょろと見まわしているのは三成。
秀家がぶち壊した空気のなかで、自分の心配だけで頭をいっぱいにできる三成も、ある意味空気が読めてないのかもしれない。
三成が気にしているのは、三成の大親友で右腕でもある大谷吉継のことである。こんな空気の読めない三成にも大親友と呼べる者がいるのだ。
何故心配しているかというと、吉継は病気が悪化し到着が遅れているのだ。
いつも頼りにできて、かつ裏切りなどの心配がなく、自分が信用できる者が遅れているとなれば当然不安になるだろう。不安が段々とイラつきに変わっていく。
「小早川殿、けらけらと五月蠅い。少しは空気をよんで静かにしていてくだされ」
三成は隣に座っている自分よりも小さな秀秋をぐっと睨み付ける。
「ひっ。ぁ、笑っているの某じゃない…」
そうなのだ。笑っているのは秀秋ではなく秀家なのだが、三成にとってそんなことはどうでもいい。
イライラしたから、秀秋を怒ったのである。というか、秀秋が嫌いなのである。それだけだ。
つまり、秀秋は勝手に嫌われて、うるさい秀家のせいで怒られた。とばっちりだ。
だが、恐ろしさが勝りそれ以上は何も言えなかった。
「ところで、ここに集まったはよいがこれからどうするのじゃ」
家康が口を開く。最も冷静かつその通りな意見である。
「そもそもあの文は誰が出したのでござるか!」
輝政である。この男を一言であらわすと、暑苦しい。だが、前にあった通り家康の娘である督姫と恋仲であるため、まずこいつは裏切らないだろうと、確信をしている。
「確かに、それをはっきりさせたい」
同意する周りの者たち。
「誰が文を出したなど、どうでもよいわ。今することは今後どうするかじゃ」
家康が言う。それもそうだ、と同意。
そもそもここに集まり始めたのは、戦をせず他の方法で決着をつけるということが目的である。
その方法を何にするか、決着はどうするのか、など様々な問題が残っている。
「とにかく早く決着つけようよ。早くしないと戦以外でやる意味ないじゃん」
金平糖だろうか。それを一つ口の中に放りながら、秀家は言う。
こんなときに菓子を食べながらなど、呑気なやつである。
「もたもたして他の武将に攻められなどしたら、たまったもんではないぞ」
確かにその通りである。今のままでは全員殺され、天下はそいつの物となる。
そんなのダメなのである。
「宇喜多殿の言う通りでござるな!この戦が終わったら…ふふっ」
池田も同意している。また、別の理由ではあるが。人間はすごい。脳が煩悩のみになると、頭から桃色の空気がふわふわと出ている。
「輝政、誰とのなにを想像しておるのじゃ。え?」
そういったのは鬼の形相の家康である。娘を思う父が怖いのはいつの時代も同じである。
「ともかく早く決めなければならない。何か良い案はないのか」
皆が頭を抱えて考え込む。それでもなかなかいい案は思いつかない。
そんなときである。政宗が口を開いた。
「戦ばかりで、皆あきておるのではないか。ここは、遊戯で決めよう」
みな、口があんぐりあいている。ここで、遊戯などと言われるとは思ってはいなかった。
しばらく思考が停止してしまっている。だが、秀家だけはいいね~それ、などとまた呑気な様子である。
「政宗殿、遊戯といってもたくさんある。どんな遊戯なのじゃ」
少し動揺はするが、やはり幾多の戦をかきぬけてきただけあって冷静な質問である。
「うん。それも少し考えたのだが、今まで皆がやられてきた遊戯では既に得意、不得意があられるかと思う。それでは不利になってしまう。そこで“七並べ”はどうだろうか」
「「七並べ?」」
初めて聞く名前であった。それも当然であろう。
「拙が南蛮から取り寄せたものだ。最近届いたので、持ってきた」
そういって、床に何やら四角の紙がひとまとめになったものを置いた。
紙には、模様や数字が書かれている。模様は桜、向日葵、菊、水仙だ。
「決まりはどうなっておる」
「大将なんだから決まりぐらい一度で覚えてくれ。これを見えないようにそれぞれに均等に配り、順番に同じ模様の数字を七から順番に並べていく。最初に手札がなくなった者が勝ち。とても簡単だろう」
確かに質素なものである。速く勝敗を決めるにはそこそこ適しているのではないか。
「でも、それ政宗君がやったらずるくない?元も子もなくない?」
秀家がそう指摘すると、確かにそうだと納得する。
「では、こうしよう。拙は遊戯には参加しない。東軍は家康殿、輝政殿のお二人。西軍は石田殿、秀秋殿」
「そう決めたならもう少し待ってくれぬか。まだ吉継が来ていない」
三成が言った。
「それではだめだ。早く決着をつけるためにやっているのにそれでは意味がない」
間髪入れず、家康が言う。東軍の大将として、吉継が来るのだけは阻止せねばならないと思っている。
頭のいい吉継がいるときに、遊戯はいただけない。
「うん、確かにそうでござるな。せめて、遊戯に出るのは誰かぐらいは決めておこう」
輝政が提案する。
「某と…小早川殿に致す」
くっと唇を噛みながら仕方ないというように、そういった。
馬鹿なやつと気に入らないやつしかいないこの状況は、三成にとって厳しい選択を迫られている。仕方なく秀秋をとったが、秀秋では不満のようだ。それが周りにも伝わってしまい、空気はひどくなる。
「決まり。では拙は遊戯の用意を致す」
空気が重いまま、この場はおさまり、それぞれが部屋に帰って行った。




