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第三話 : 摩訶不思議な現象

  


「ここが学校からシュウちゃんちまでの一番の近道となる裏道さね! この道を使えば今のシュウちゃんの通学時間をざっと十分は縮められること間違いなしさ!」

「……なんで昨日転校してきたばっかのオレの住んでるトコを知ってんだ?」

「ふっふっふ。この村のことであっしにわからないことはないのだよ、ジョンソンくん」

「誰がジョンソンだ」



「さぁ、ここがこの村きっての大森林、通称『天之森あまのもり』さ! 入る毎に内部構造が変わることから不思議ダンジョンとも呼ばれているさ!」

「ついでにモンスターも出てくるとか言わねぇだろうな」

「アハハ、さすがにモンスターはいないね〜。それっぽいのはいるけど」

「いんのかよ」



「この川がこの村をキレイに真っ二つに分ける川さ! 大昔、想い合う男女がこの川を挟んで別れ別れになったことから、通称――、」

「『天の川』とか言わねぇだろうな」

「おお、シュウちゃんエスパー? まさか、まあ子の心の中丸見え? 普段考えてることとかバレバレ? いやん、エッチ〜」

「……普段どんなこと考えてんだよお前」




  ◇




 ……疲れた。とにかく疲れた。

 たかだか半日歩き回るだけでくたくたになるようなヤワな身体ではなかったつもりだったけど、この身に重くのしかかる重圧の原因の大半は、オレの隣にいる案内人のせいだろう。

 一言で言ってしまえば、――とにかく、ウザい。

 終始しゃべりまくる。気がつけば身体にからみついてくる。意味不明な行動をしまくる。通りすがる人全員に「未来のダンナです」なんて妄言吐きまくる。……これをウザいと言わずしてどんな表現を用いれと言うのだろう。

 それでもあまり強くこいつを頭ごなしに否定できないのが、案内する場所が比較的まともだということ。あの不良たちへの対策にしても、普通に生活していくにしても、こいつの案内する場所はどれをとっても今のオレには必要な情報だった。

 意味不明な言動行動のワリには筋道が通っている。――その矛盾こそが、こいつがオレの予測外のことばかりする要因なのだろうか。

 陽が赤く染まりかけた頃になってもしゃべくりまくる火野まあ子のキンキン声から逃れるための現実逃避、または熟考と言う名の精神回復を果たしていた、その時だった――。



 ズドドドドドドォォーーーン!!



 ――火柱。どこからどう見ても火柱。

 この村に着いていきなり見たあの光景と同じものが、民家の屋根から吹き出していた。


「って言うか、屋根から火柱!? あれ火事じゃねぇのか!?」

「アハハ、立派な火柱だね〜。ボーボーだ〜」

「なに観賞してんだよ! 早いトコ消防署に連絡を――って、この村消防施設なんてあんのか!?」

「まぁまぁ落ち着いてよシュウちゃん。アレは火事じゃなくて『魔法』だよ〜」


 慌てふためくオレとは逆に火野まあ子は落ち着いた様子でそう言った。

 屋根から吹き出る火柱を、まるで神聖なものでも拝むかのように手を合わせながら見つめてるその姿に、オレの常識はまたしても警鐘を鳴らす。

 ――やっぱり、この村はおかしい。


「シュウちゃんは外から来た人だからわかんないよね。アレは、この村によく起こる自然現象なんすよ。あの吹き出してるものは実際の火じゃないから火事にはなんないのさ」

「……自然、現象?」

「――摩訶不思議な現象。それを略して『摩象ましょう』と昔は呼ばれてたらしいんだけどね、時代の移り変わりと共に呼び名も変わって今じゃ『魔法』って呼ばれてるのさ。見た目は完全にハリポタの世界だしね〜、まあ子もピッタリの呼び名だって思うよ」

「こ、この村じゃあんな現象が日常茶飯事で起こってるってのか!?」

「そうだよ〜。この村が出来た時、三百年くらい前なんだけど、そん時からこの土地では普通に起こってることだからこの村の住人はだ〜れも気にしな〜い。むしろ見れたら縁起がいいくらいに思ってるね〜」

「……し、信じらんねぇ、信じらんねぇ! なんでこんなワケわかんねぇ現象をみんなして放っておけんだよ!」

「……シュウちゃん?」


 体の奥の奥からどうしょうもない衝動が湧き上がる。

 予測の力に目覚め始めたあの時と同じ感覚。

 もう味わうことはないのと諦めかけていたこの感情。


 ――この現象の謎を解きたい! この魔法と呼ばれる不可思議な現象についての記録や情報を調べまくって、オレの手でこの謎を解き明かしてみたい!


 今この瞬間、眠りかけていたオレの中の好奇心がパッチリと目を覚ました。


「おい、座敷童!」

「誰がクリスティーナ・アギレラだ!」

「言ってねぇよ! 今すぐ案内してほしいところがある!」

「ふっふっふ、わかってるべさシュウちゃん。シュウちゃんの目的の場所は実はもうすぐそこにあるんだよ」

「マジかよ! 早く案内してくれ!」

「ほいほ〜い、合点でやんす〜」




  ◇




 わからないことを調べて、学習して、理解する。それは人間の基本的な欲求の一つだと思う。特にオレは小さい頃からその傾向が強かった。それによって得た知識がオレの予測の力の源。ワケのわからなかったことが少しづつ理解できてくるその快感は、当時のオレにはどんな遊びよりも魅力的なものだった。

 予測の力を確信して以来、好奇心はなくなってしまったと思っていた。ほとんどの出来事がオレの予測の範囲内で動くことで、オレは何にも興味を持てなくなってしまっていたんだ。

 それが今この瞬間、オレにはまったく理解できないことが二つもある。それは近年のオレからすればかなり喜ばしいことのはずなんだが、それを素直に喜べないのはひとえにこの座敷童の行動がオレのもっとも嫌いな言葉、『矛盾』を含んだものだからだろう。


「じゃーん! ここがあっしのマイ・スイート・ホームでやんす〜!」

「…………は?」


 『目的の場所に案内する』――オレの耳が確かならこの座敷童は確かにそう言ったはずだった。それがなぜこいつんちに連れていかれるハメになる? なんでこんなに得意満面な笑顔でこっちを見る? とりあえず殴っとく?


「ちなみにあそこがまあ子の部屋の窓だよ〜。ダンナ、忍び込むならあそこからですぜ、ヘッヘッヘ」

「……帰る」

「まぁまぁ遠慮しなさんな。シュウちゃんの目的のものはあっちの蔵の中に入ってるし」

「蔵?」


 ついついこいつの行動のせいで見逃していたが、確かに庭の向こう側に蔵と呼ばれるに相応しいデカくて重圧な建物がズシンと鎮座していた。

 周りをよくよく見渡してみると、結構に広い敷地の中にはその土蔵の他にも日本庭園のような池まである始末。オレみたいな無神論者にも一目でわかる神聖な感じの建物まであった。

 ……こいつって、もしかしていいとこのお嬢様なのか?


「へっへっへ〜、ビックリした〜? うちは土地神様を祭る由緒正しき神社なんすよ! ちなみにあっしはこの神社の巫女だったりするわけさ! 萌える? 萌える?」

「なるほど、だからおかっぱ頭なのかお前」

「まぁそういうわけで、うちの蔵の中にはこの村が出来た頃からの古い文献がてんこもりなわけさ。魔法のこともここならいろいろ調べられると思うよ〜」

「……ッ!」


 少し、驚いていた。まさかこいつがこんなにまともな場所に案内してくれるとは。

 確かに図書館なんかよりもここの方が古い情報を仕入れるのに適している。今日一日の案内場所の的確さといい、デタラメな奴だと思ってたけど実はこいつって結構まともな奴なんじゃないだろうか。


「シュウちゃん、蔵をあさる前にまずは神主であるじっちゃんにあいさつしなきゃダメだよ〜」

「あ、ああ、そうだな」

「いや〜ん、知り合ったばっかでもう家族にあいさつだなんて、手が早いね〜シュウちゃん! この分じゃ一週間後にゃ孕まされてたりして。あひゃひゃひゃひゃ♪」

「…………」


 高笑いをあげながら、火野まあ子は玄関から家の中へと入っていく。

 この内面オヤジのチビ女のことを一瞬でもまともだと思ってしまった自分に腹を立てながら、オレは進まない気と足を引きずるようにして玄関をくぐるのだった。


 

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